第39話 運搬クエスト無事? 達成

(アスカーーー!! 絶対死なせるな!!! お前のせいでレコビッチ商会が滅亡するぞ!!)


「レコビッチさん!! 今助けます!!」


 アスカがすかさず駆け寄り、馬車を持ち上げる。レコビッチを救出するが、心臓が止まりかけている。


(アスカ魔法だ!)


(わかった! 究極電撃マキシマムボルト!)


 極太の稲妻が直撃し、レコビッチの体がビクンと跳ねる。


(アスカー! なぜ、究極の電撃をお見舞いしてるんだ! 回復だよ、回復ーーー!!)


(あっ、あっ、心臓が止まったら電気ショックだと思って。完全治癒フルキュア!)


 アスカの回復魔法が間一髪間に合ったようだ。炭化しかけていたレコビッチの体が光に包まれる。


「うぅぅ、一体何が?」


「よかったレコビッチさん、暗殺者に襲われて意識を失ってました」


「はっ、そうか、暗殺者……暗殺者? 確かに暗殺者はいたはずじゃが、それとは別の何かが……」


(これは、記憶が混乱している今がチャンスだ! アスカ、何とかごまかすんだ!)


「えっと、えっと、暗殺者が襲ってこようとしたときに、もの凄い突風が吹いて、暗殺者は吹き飛んでそこでのびてて、レコビッチさんは風で倒れた馬車の下敷きになって……私が治癒で治しました!」


 アスカのとっても苦しい言い訳では、地面が陥没していることを説明できないが、幸いレコビッチはそこに気がつかず、またまたアスカが命の恩人だと思い込み、幸運の女神としての評価が高まるのだった。


「ぬおぉーー!」


 今度は何だ!?


「儂の回復薬ポーション達がーー!!」


 先ほど馬車が倒れたせいで、大量の薬品が地面にこぼれている。


「これでは納品が間に合わなくなってしまう……」


 騎士団への納品とはいえ、仮にも王家の注文に間に合わないとなると、王家との取り引きがなくなるだけではなく、信用ががた落ちし他の取引先まで失ってしまう恐れがあるのだ。


「レコビッチさん、この瓶には何が入っていたのですか?」


 幸い、瓶は頑丈だったのか割れずにすんでいる。その数、およそ20本。アスカなら何とかなるかもしれない。


「この青い栓の瓶には回復薬ポーションが、この緑の栓の瓶には中回復薬ミドルポーションが、そしてこの赤い栓の瓶には、とても貴重な魔力回復薬マナポーションが入っていたのじゃよ……」


 |回復薬(ポーション)はリチウム草とE級魔物の血、中回復薬ミドルポーションはベリウム草とD級魔物の血、魔力回復薬マナポーションはカリム草とC級魔物の血を材料に、錬金スキルで作り出すことができる。


「その材料でしたら、全て揃っていますが?」


 チックの森で狩りをしている時に、色々集めておいてよかった。材料さえあればアスカなら……


「気を遣ってくれて、ありがとう。じゃが、材料が揃っていても、肝心の【錬金術師】がおらんのじゃよ。【錬金術師】はその数自体が少ないから、王都にも数えるほどしかおらん。しかも、予約が詰まっておるので、材料を持って行ったからといってすぐ作ってもらえる物でもないんじゃよ……」


「へえ、そうなのですか。ですが私が作れば問題ないのでは?」


「はあぁぁぁ!? お前さん、錬金のスキルを持っちょるのかえ?」


「内緒ですが、持ってますよ。材料も瓶もあるのでちゃっちゃと作っちゃいますね。何で錬金を持っているのかは、聞いちゃだめですよ!」


 レコビッチはとても聞きたそうな顔をしていたが、そんなことで自分の契約を不意にするほど間抜けではないだろう。ものすごーく聞きたそうな顔をしながら、アスカの作業を見守っている。


「はい、できました」


 俺がいうのも何だが、かなりできのいい物を作れたようだ。やはり同じ物でもより高Lvの者が作った方が、性能がいいようだ。


「いつものより、できがよいようじゃ。儂らが作成を依頼しておる【錬金術師】は王都にも2人しかおらんLv3の錬金持ちなんじゃがのぅ。それを上回る性能の物を作ってしまうお前さんは……いや、余計なことは聞くまい。儂はアスカといつまでも仲良くしていたいからのう」


 どさくさに紛れて、この先も関係を切らさないようにしたなこのじいさん。おそらく商売人としての判断もあるのだろう。アスカの価値をしっかりわかってるね。


「ありがとうございます。もし私が色々作った物を売り出すときには、レコビッチさんに仲介をお願いしますね」


 一方、アスカもちゃっかり商売の約束を取り付ける。レスター達にプレゼントした装備に羽のマークを付けたのは、将来、アスカブランドを立ち上げた時に付ける予定のものだったからね。大きな後ろ盾があれば心強い。


「その時は、任せるのじゃ。全力で協力させてもらうぞ!」




 その後は特に待ち伏せなどもなく、問題なく騎士の詰め所に着いた2人は、まず初めに気を失っている暗殺者達を引き渡した。そして、無事薬品を納品しアスカの運搬クエストは終了となる。


「レコビッチさん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」


「こちらこそじゃよ。アスカの幸運のおかげで、またも命拾いしたわい。実は暗殺者に襲われて気を失った時、三途の川を渡っておったのじゃよ。さらに三途の川の途中で雷に打たれて、死んでるのにもう一回死んだと思ったんじゃ。それが今こうして生きてるのは、アスカのおかげじゃからの」


 すいません。三途の川を途中まで渡らせてしまったのも、雷に打たれたのも全て、我が妹のせいです。妹に代わって兄が謝罪させていただきます。




 クエストを終え、ギルドに帰り依頼の達成を報告したアスカは、食事もそこそこにすぐ宿へと戻り、さっさと寝る支度をして寝てしまった。


 いくら強くなってもまだ13歳。暗殺者に襲われたり、レコビッチさんを殺してしまいそうになったりと、精神的に疲れたのかもね。明日は学院の入学試験だから、気持ちを切り替えて臨めるように、起きたらきちんと褒めてあげようっと。

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