第38話 待ち伏せ
半ば強引に押し切られる形で、レコビッチさんと倉庫に向かう。
そこでは先ほどとは別の人が、荷馬車に
「あ、会長。お疲れ様です」
体格のよい男性は、レコビッチに気がついて敬礼する。
「うむ。今日はこれからこのアスカと納品に行って来るからな。留守は任せたぞ」
「えっ? 護衛は付けなくてよろしいのですか?」
「なに、ちょっとそこまでデートしてくるだけじゃ。何も起こりはせんわい」
「ですが、少し前にも魔物に襲われたばかりですし、ヴェール商会の奴らも何やらきな臭い動きをしてるみたいなので……」
「くどいのぅ。その魔物に襲われた時に、我々の命を救ってくれたのが、このアスカなんじゃよ。幸運の女神が付いているんじゃから、何の心配もいらんわい」
このじいさん、お礼を言いたいんじゃなくて、単にアスカとデートしたかっただけじゃないのか? まあ、アスカは幸運の女神というより、最強の冒険者だからな。護衛なんぞいらないのは間違いないが。
「わかりました。ですが、くれぐれもお気を付けてください。貴方様に何かありましたら、この商会の存亡に関わりますので」
「わかった、わかった。十分気をつけるわい」
「アスカ様も、会長をよろしくお願いします」
何だか、自由奔放な会長に振り回される会社の苦労を見た気がしたよ。
王都の広い道を、後ろに薬品を大量に積んだ荷馬車がゆっくりと走る。
御者席には、恰幅のよい初老のおじさんと、動きやすい白い甚平のような服を着た可愛い女の子が並んで座っている。見ようによっては本当に『おじいさんと孫』みたいだ。
今回、薬品の届け先は王城の離れにある、騎士の詰所だと言う。レコビッチは王家とも取り引きがあるようだ。
「さすがに王都は広いですね」
アスカが辺りを見回しながら感想をもらす。
「そうじゃな。儂は仕事がら色々な街や村を見て回ったが、王都はその中でも1、2を争う広さじゃな」
そりゃあ、王都と言うくらいだからな。村よりは絶対でかいたろ。
「まだ、王城には行ったことがないので、ちょっとドキドキします」
「そうかそうか、ドキドキするか! でも、儂と一緒なら何も心配いらんぞ!」
レコビッチはそう言いながら豪快に笑った。
どうやらこのじいさん、アスカのことを本当に気に入ったらしい。めっちゃ嬉しそうにしてる。
二人を乗せた馬車が、商業区を抜けようかというところで、急に細い路地に入って行った。
「ちょっと狭いがこの道が近道なんじゃよ」
レコビッチは何も心配ないという顔をしているが、俺とアスカは気づいていた。何者かが待ち伏せしていることに。
「レコビッチさん、この先に待ち伏せしている人がいるようです」
アスカは当然レコビッチに真実を伝える。レコビッチさんの安全が第一だからね。
「なんじゃと! 儂には見えんが本当か?」
「はい、冒険者風の男が5人、向こうの建物の陰にいます。みなさん武器を持っていらっしゃるので、間違いないかと」
「むむむ、やはりヴェール商会が雇った者がいたか!?」
レコビッチはすぐにアスカの言うことを信じたようだ。もちろん俺はアスカが嘘をつくような人間じゃないことを知っているが、たった2回会っただけでそれを見抜くレコビッチ。さすがは大商会のトップだけあるな。
「格好は冒険者のようですが、身のこなしを見ると暗殺者かもしれません。レコビッチさん、どうしますか?」
身のこなし云々ではなくて、鑑定で職業がわかってるんだが、あえて自分から鑑定持ちと言う必要もあるまい。
「何! 暗殺者じゃと。やつら本気か!? しかし、待ち伏せされてるのに、わざわざそこを通る愚か者なんぞいないわい。引き返すぞ」
レコビッチは馬車を操作して、来た道を引き返そうとするが、狭い道なので馬車が方向転換をするだけでも一苦労だ。
大きな馬車がが引き返そうとしているのを見て、暗殺者達がぞろぞろと出て来た。
「おいおい、こんなじいさんと子どもに気付かれたのか、自信なくしちゃうなー」
そう言いながらも、余裕の表情でひとりの男が前に出る。おそらくこいつがリーダーだな。
「おきまりのセリフで申し訳ないが、お前達にはここで死んでもらうわ。そっちのお嬢さんも、レコビッチと一緒にいたのが運の尽きだと思って諦めてくれや」
リーダっぽい男が腰に下げた短剣を抜き、下卑た笑みを浮かべながら、訳の分からんことをのたまわっている。
後ろの男達も、道を塞いでいる馬車が邪魔になって逃げられないと思っているのか、回り込むこともせずに、こちらをにやにや眺めていた。
いや、ちょっと笑えるんですけど。お前らダークドラゴンに向かって同じこと言えるか? うちのアスカはダークドラゴンをコテンパにやっつけるんだぞ。
そうとは知らないレコビッチは、アスカだけでも逃がそうと悪党達に必死に食い下がる。
「お主らの目的は儂の命じゃろ。この子は関係ない。見逃してもらえんじゃろか? この子はこう見えても、冒険者じゃぞ。殺したことがバレたら、ギルドも黙っておらんじゃろ」
「あはははは、バレたらな」
男達はあくまでも皆殺しをご希望だ。にしても、レコビッチさんはやっぱりいい人だったな。
(もういい、アスカさん。懲らしめてやりなさい)
(そうだね)
「レコビッチさん、やっつけちゃっていいですか?」
「えっ?やっつけるじゃと? しかし、暗殺者が……」
ドンッ!!
アスカが地面を蹴って、一瞬で暗殺者達の前に躍り出る。その音速を超える動きで生じた風圧が、暗殺者達を吹き飛ばした。男達は地面や建物に叩きつけられ、ピクリともしない。
「あれ? なんか倒しちゃったみたいです。てへ!」
「…………」
おや、てっきりここで『なんじゃー!』とか言うのかと思ったけど、やけに静かだなレコビッチさん……ってヤバイ! アスカ、ヤバイぞ!
振り返ったアスカの目に映ったのは、地面を蹴った時に陥没した地面と、そこに転がり落ちた馬車と、地面と馬車の間に挟まって泡を吹いているレコビッチさんの姿だった。
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