第36話 Sランクに昇格! ○

「あ、レベルアップおめでとうございます」


 アスカはハンクの呟きを聞いて素直にお祝いしているようだが……


「ああ、ありがとう……ってなるかーい! どうなってんだ、おい。何で見てただけの俺のレベルが上がってるんだ!」


「さ、さあ、何ででしょう?」


「ただでさえ考えられないことが山ほど起きてる時に、何でまたわけのわからないことが起こるんだよ!」


(あー、そういうことか)


(何かわかったのお兄ちゃん?)


(いや、前から気にはなってたんだよ。レスター達とパーティー組んでた時も、アスカがひとりで倒してる時も、あいつらのレベルが上がってたからさ。経験値って戦闘に貢献しないともらえないはずなのに、おかしいなーって)


(そういえばそうだね)


(よくよく考えたら、"経験値共有"を付けてるじゃん。これって、戦闘に貢献してるとか関係なく、パーティーを組んでたら経験値をもらえるって効果なんだけど、これは自分だけじゃなくて、たぶんパーティーメンバー全員に有効なんだよ)


(なるそど、それでハンクさんもレベルが上がったってわけね)


(そうそう、前はまだLvが低かったから、共有率も大したことなかったけど、今はLv4だから共有率80%なんだよ。S級の経験値なら80%でもレベルが上がってもおかしくないだろう)


「また、お前が何かしたんじゃないか?」


「いえ、私は特に何も……ハンクさんの運がよかったのでは?」


「運じゃ、経験値は入らないんだよ!」


 言いたいこと、聞きたいことはいっぱいあったようだが、頭を整理するのに時間が必要だということで、話はギルドに戻ってからということになった。


 余談だが、アスカも5つレベルが上がっている。


名前(ヒイラギ)アスカ 人族 女

 レベル 15(48) 

 職業 賢者(勇者)

 ステータス

 HP 94(915)

 MP  104(925)

 攻撃力 94(915)

 魔力 114(935)

 耐久力 94(915)

 敏捷 104(925)

 運 104(925)   

 スキルポイント 49(3320)


 



「まずはこれを渡しておく」


 ギルドに戻り、案内された部屋で待っていたアスカに、やや遅れて入ってきたハンクが差し出したのは、虹色に輝くギルドカードだ。


「これはまだ、世界にたった11枚しかないカードだ。このカードがあれば、Sランクのクエストが受けられるだけでなく、様々な恩恵があるだろう。

 何処の国に行っても、国賓クラスの扱いを受けるだろうし、それこそお前さんを召し抱えようとする貴族なんかも出てくるだろう。俺としては、一国を簡単に滅ぼす力を持っている魔物を、無傷で倒してしまうような奴が、どこかに仕えるなんて想像もしたくないがな。その国は、全世界を相手に戦争を仕掛けても勝てちまいそうだし……」


「あ、そういうの興味ないので」


 何を言っているんだこのハゲ親父は! アスカが国を滅ぼすなんて考えるわけもないだろう!


「……そうか、だといいんだが。その方がみんな幸せだろうからな」


「できれば、目立たないように生きていきたいので……」


 アスカが神妙な顔で言ったのだが……


「今のは聞かなかったことにして、話を進めるぞ」


 華麗なスルー来たー! ふざけんなよおい! アスカは真剣なんだよ!


「まずSランクの冒険者についてだが、基本的にどの冒険者も自分でクエストを決めて受けるわけだが、緊急性が高く、Aランクの冒険者では手に負えない問題が出てきた場合、Sランクの冒険者が招集されることがある。絶対に受けなければならないわけではないんだが、それこそ国の存亡がかかっているような問題になるだろうから、できれば受けてほしいと思う。

 招集方法は各ギルドに通知が行くのと、そのカードに魔力を送り知らせるようになっている。カードから魔力が感じられたときには、最寄りのギルドでクエスト内容を確認してほしい」


「わかりました。できるだけ受けるようにしたいと思います。『困った人を助ける』って昔の恩人と約束したので……」


「ありがたい。お前さんとそんな約束をしてくれた恩人に感謝だな。お前さんなら、他のSランクが全員断ったとしても、ひとりで何とかしちまいそうだからな」


 懐かしいなクロフトさん、やけにアスカには優しかったけど。それに、ケインも元気かな?


「それから、そのギルドカードは魔力を込めることで色が変わる。他のランクの色に固定することも可能なので、上手く使ってくれ。実際にそのランクのクエストを受けることもできるが、その時は周りのレベルに合わせてくれよ」


「はい、気をつけます」


 せっかく手に入れた虹色カードだからね。その恩恵は十分に受けさせてもらおう。そのためにも、黒ローブじゃなくアスカの時は絶対ランクがバレちゃいけないね。


「あとはダメ元で聞きたいこともあるんだが、例えばお前さんがダークドラゴンと戦ったときに使った、見たこともない魔法のこととか、なぜ見てただけの俺のレベルが上がったのかとか。まぁ、今までのお前さんの対応を見ていると、教える気はないんだろうが」


(どうしようお兄ちゃん? 今の2つくらいなら教えて上げてもいいじゃない?)


(うーん、そうだなー。ハンクさんにはこれからも色々お世話になるだろうし、少しくらい話してもいいかな)


「ハンクさんにはこれからもお世話になると思うので、その2つの質問についてはお答えしますね。ですが、詳しくはお話しできないのと、ここでの話は口外しないでください」


 ギルドマスターと言うくらいだから、口も堅いに違いない。味方を増やす意味でもハンクはうってつけの存在に思えた。


「わかった。とんでもない話が出てきそうだが、このまま聞かないと気になって眠れないだろうから、約束しよう。詳しい説明は気が向いたら話してくれ。そしてここでの話は口外しない」


「ありがとうございます。まず見たことない魔法とは切断する嵐アンプテンション・ストームと言う風操作Lv5の魔法のことだと思います」


「……まじか。いきなりとんでもない話だな。操作系Lv5の魔法は、過去の記録からその存在は確認されているんだが、記録として残っているのが炎操作と雷操作だけだから、他の属性に至ってはあるのかどうかすら、はっきりしていない。お前さんはそのLv5魔法を使えるってわけだ」


 おいおい、Lv5魔法ってそんなに知られてないのか。あまりほいほい使わない方がよさそうだな。


「それからハンクさんがレベルが上がった理由ですが、おそらく私が持っている経験値共有の効果だと思います」


「……そいつも、とんでもない話だな。それって未確認のスキルじゃねぇのか? それを発表するだけで、とんでもない騒ぎが起こるな。何せ、そのスキルを持ってればパーティーに所属してれば寝てるだけでレベルが上がるんだろう? そんなスキルがあればみんな必死になって覚えようとするだろうよ」


 やっぱりか。この手のスキルを隠蔽したのは間違いじゃなかったね。


「そうですね。ヘタに発表しない方がいいかと思います」


「お前さんと約束したからな。ここでの話は口外しないよ」


「そうでしたね。ありがとうございます」


「まだ不思議なことはいっぱいあるが、とりあえずこの2つだけでも聞くことができてよかったよ。ありがとな。逆に、お前さんから聞きたいことはないか?」


(お兄ちゃん、さっきの話いいよね?)


(オッケー、ミーシャも呼んでもらおう)


「ハンクさん、ミーシャさんを呼んでいただけませんか。お二人にお話があります」


「わかった。ちょっと待ってくれ」


 ハンクが呼びに行くと、すぐにミーシャが現れた。アスカが帰って来たのを見て、気が気でなかったようだ。


「ハンクさん、ミーシャさん、お二人にお願いがあります。実は私、これから王都国立魔法学院を受験しようかと思っています。

 もし合格できれば、学生としてギルドを訪れることもあるかと思います。その時、私がSランクだということに気づかれないように、ご協力をお願いしたいのですがいかがでしょう?」


「そんなことか。もちろん協力しよう。Sランク冒険者が誕生したことは発表しなければならないが、あくまでも黒ローブのお前さんということにしておこう。名前も伏せてな」


「私ももちろん協力いたします。そのための専属受付嬢だと思っておりましたので」


 なにー、俺の期待していた反応と違う!いつものミーシャはどこいったんだ!


「……ドッテンバーーーーーグ! 私もついにSランク冒険者の専属に! これで私のギルドでの地位も上がるってもんですね」


 うひょー、きたきた、小声できたー! 聞こえてるから全然オッケー! しかも、ドッテンバーーーーーグってなんやねん!?


「助かります。あとお二人にはどうせわかってしまうと思いますので、姿を見せておきますね」


 そう言ってアスカが黒のローブを脱ぐ。


「……ほんとに女の子ですね。しかも可愛い」


 先に声を出したのはミーシャだ。


 ハンクは固まっている。それはそうだろう、ついさっきS級のダークドラゴンを完封した冒険者が、こんなにもはかなく可憐な少女だとは思わなかったのだろう。いや、声や名前から『そうかもしれない』とは思っていたのかもしれない。

 しかし、実際に目の前に現れたら、あの戦いっぷりとのギャップに脳が同一人物として認識できないのだろう。


「お前さんが……あのダークドラゴンを……、いや、あまりに、その、信じられなくてな」


「はい、褒め言葉として受け取っておきます」


 普段はハンクに厳しいアスカも、ここはちょっと照れたのか顔を赤らめて下を向いてしまった。その顔がまた可愛いのなんのって……おいこら! ハンク! なんでお前も頭を赤らめてるんだよ!


「……ぐへぐげぇーーー!私がこんなにも可愛いSランク冒険者の専属受付嬢に! みんなに自慢したいけどダメダメ。これは内緒の極秘任務なのよ。このチャンスを棒に振るわけにはいかないのよ。あー、でも自慢したい~」


 きました! 本日2度目の雄叫びをいただきました! 突然だったのでびっくりしたけど、それもまたいい!


「ミーシャ、大丈夫かお前……」


 ハンクも少し心配になったようだ。


「はっ! 私としたことが心の声が漏れてしまいました。大丈夫です。しっかりと務めさせていただきます」


 こいつ、心の声漏れすぎだな。本当に大丈夫か? ちょっと心配になってきたよ。


「Sランク冒険者としてクエストを受けるときは、このローブを着てきますので、名前を出さないようにお願いします」


 こうして2人の協力を取り付け、アスカは無事Sランクへの昇格を果たしたのだった。


 そして、入学試験まではあと3日。

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