第35話 Sランク昇格試験

 今日はいよいよSランクへの昇格試験だ。証明するために同行してくれるハンクを呼びに、ギルドへ向かう。


「……おい、黒ローブが来たぞ」

「……お前、声かけろよ」

「……うちのパーティーに誘ってみようぜ!」


 ギルドに入った瞬間、嫌な予感しかしなかったので、すぐさま外に出て裏口から入り直す。


「おぅ、早かったな。で、お前さんのパーティーメンバーはどこにいるんだ?」


 ハンクがなぜかキョロキョロしながら、よくわからないことを聞いてきた。


「えっと、パーティーは組みません。いつもソロでやってますので」


「おいおいおいおい、ちょと待ってくれ。この3日間は、パーティーメンバーを探していたんじゃないのか?」


「いえ、以前のステータスだと少し不安でしたので、レベルを上げてきました。多分もう大丈夫だと思います」


「……お前、本気で言ってるのか? S級の魔物をソロで倒すって、それってSSクラスへの昇格条件だぞ。ちなみにSSクラスに昇格した者は未だかつていないぞ」


「ぬっぽぽーーーーーん! もしかして私、史上初のSSランク冒険者の専属受付嬢になっちゃうのですか? なっちゃうのですかーーー!?」


 だめだ、もう俺はミーシャの叫び声の虜だ。この叫び声を聞くために、アスカにはもっと頑張ってもらおう。


「ミーシャ、少し黙ってろ。S級の単独討伐など無理に決まっている。それこそ伝説の【勇者】ならまだしも……」


 うーむ、アスカはレベル33からすでに【勇者】だったし、すでにSの魔物は単独で倒してるんだが……面倒くさそうだから、言わないでおこうか。


「ともかく、私の方はこれで準備ができていますので、ハンクさんの準備がよろしければ出発しましょう」


 アスカはハンクには強気なんだよな。何だろう、頭か? 頭に毛がないからか?


「よし、お前がそう言うなら付き合おうじゃないか。ただ、やばくなったら俺は逃げるぞ!」


「……お好きにしてください」


「GMかっこわる……」


 最後の一言で、アスカとミーシャの好感度を下げてしまうハンクであった。





 タッカート山脈に入り、頂上を目指すアスカとハンク。アスカを見て逃げ出す敵は無視して進むが、さすがにA級の魔物は逃げずに向かってくる。その全てを返り討ちにして、頂上を目指した。その時点で、ハンクはアスカから距離を置くようになってしまった。これは怖がらせてしまったのか?


 頂上付近は、雲に覆われ視界が悪い。しかし、魔物にとっても視界が悪いのは同じで、逆に探知があるアスカは上手に魔物を避けて登って行く。

 もうそろそろかと思ったところで、急に視界が開けた。雲を抜けて、山頂に着いたのだ。

 その頂に鎮座するのは紛れもなくS級の魔物、ダークドラゴンであった。


(鑑定!)


名前 ダークドラゴン 古代ドラゴン族 闇属性

レベル100

ステータス

 HP 1600

 MP 1200

 攻撃力 1010

 魔力 880

 耐久力 670

 敏捷 720

 運 120

スキル

 闇操作 Lv4

 闇耐性 Lv4

 呪い耐性 Lv4

 毒耐性 Lv4

 即死耐性 Lv4


(耐久力は低いけど、耐性が強力で呪いが効かないかもしれないな。レベルが上がっててよかった。ありがとうアダマンタイマイ!)


(お兄ちゃん、アダマンタイマイへのお礼は後でいいから、こっちに集中して。それで、どう戦うの?)


(相手は闇属性だから光操作を中心に、空も飛びそうだから、風操作なんかも使っていこう)


(わかったわ。じゃあ、行くね!)


聖なる光線ホーリーレイ!」


 気づかれる前に、弱点属性の不意打ちでダークドラゴンの片目を潰す。躊躇なくダークドラゴンに向かっていくアスカを見て、ハンクがさらに一歩引くのが見えた。


 突然の痛みと片目が見えなくなったことによる怒りで、空へと逃げたダークドラゴンが叫び声をあげた。

 叫び声と同時に放ったのであろう、闇の力ダークフォースがアスカに迫る。


魔法防御マナディフェンス!」


 昨日覚えた結界を早速使う。結界に弾かれ、ダークドラゴンの魔法はアスカに届かない。


切断の嵐アンプテイション・ストーム!」


 逆にアスカの切断の嵐アンプテイション・ストームが全身を切り刻み、翼がボロボロになったダークドラゴンが地に落ちた。


聖なる結界ホーリー・サンクチュアリ!」


 聖なる結界は、アスカを中心に半円状に広がり、その中に入った魔物の能力を低下させる。そして、間髪入れずに放った狂った竜巻レイジトルネードがさらにダークドラゴンを追い詰めていった。

 体をねじり、腕を振り回し、叫び声を上げて暴れまわる暗黒の竜。最後の力を振り絞り、アスカに一撃を加えようと攻撃を繰り返す。しかし、魔法は結界に阻まれ、自慢の爪は素早さで勝るアスカには当たらない。


「えい!」


 壮絶な戦いの最中さなか、場違いなかわいい声が響いた。


 ズウゥゥン!


 そして、ダークドラゴンの首が落ちる。アスカの終わりの剣ジ・エンドが一刀両断したのだ。


「ふう。どうですか、ハンクさん?」



~side ハンク~


 俺は最初、戸惑っていた。てっきりメンバーを集めて来るのだと思っていたアスカが、ひとりで現れたからだ。


(こいつ、S級の魔物がどれだけ危険な魔物なのかわかってないのか?)


 S級の魔物とは、国ひとつを簡単に滅ぼすことができ、撃退するだけでも近隣の国が協力し合い、甚大な被害を覚悟しなければならないほどの相手なのだ。

 ましてや討伐するとなると、それこそ【英雄】や【勇者】といった者たちが、何人も協力して達成できるかどうかというレベルなんだぞ。

 だからこそ、ギルドが定めるSSランクには未だかつて到達した者がいないのだ。

 それなのに……。

 戦闘自体は激しいものだった。岩が砕け、地面がえぐれ地形が変わってしまっている所まである。

 ダークドラゴンは、S級に相応しい力を見せつけていた。だか、終わってみれば目の前の黒ローブの圧勝である。ダークドラゴンの攻撃はことごとく通用せず、逆に黒ローブの攻撃は、全てが確実にダメージを与えていた。

 そして、こいつの職業は【賢者】だったはずだ。最初の聖なる光線ホーリーレイまでは許せる。しかし、途中から見たこともない魔法が飛び交っていたし、1番納得いかないのは、こいつが剣でトドメを刺したことだ。


(もう、【賢者】じゃないだろう!)


 しかし、どんなに信じられないと言っても、目の前にはダークドラゴンの死体があり……(あっ、今、めっちゃ小さいリュックに吸い込まれていったけど、何あのリュック欲しい!)……黒ローブがS級の魔物をソロで倒したのは事実なのだ。



~side ショウ~


 アスカがダークドラゴンを倒した後、しばらく放心していたハンクがようやく再起動した。


「ああ、目の前で見ていなければ、とても信じられなかったが、もちろん合格だ。それどころか、SSクラスの条件を満たしているので、俺から上に報告しておく。もしかしたら、この世界で初めてのSSランクの誕生かもな」


「そうですか。SSランクはよくわかりませんが、とりあえず昇格できてよかったです!」


(これを報告したら、絶対ミーシャは叫んじゃうな。今から楽しみだ!)


(お兄ちゃん……そこ?)


「今は目の前の出来事があまりに衝撃的過ぎて、ショックで頭が回らないから、帰りながらちょっと整理させてくれ」


「はい、素材も回収したので帰りましょう」


 そして2人が歩き出そうとした瞬間……


「むっ、……レベルが上がっている」


 ハンクが呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る