第32話 装備作成

(あー、びっくりしちゃった。ギルドカードをもらった途端に囲まれるなんて、思いもしなかったから)


(やっぱり、ギルドマスターをあっさり倒したのが、目立っちゃったようだな)


 アスカは囲まれそうになるや否や、脱兎のごとく逃げ出したのだ。


(それと、ハンクさんは大丈夫かな?)


 アスカは、気絶させてしまったハンクの心配をしているようだ。なんて優しい妹なんだろう。そして、そんなアスカに心配されるハンクが憎らしくなってきたよ。


(たぶん大丈夫だと思うぞ。頑丈そうだったし、手加減したんだろう?)


 ハンクに嫉妬して、ちょっと言い方が雑になってしまった。


(うん、手加減はしたんだけど……)


 何だ、歯切れが悪いな。


(見た目がちょっと……)


 ああ、そう言うことね。あれは攻撃的だったんじゃなくて、嫌悪感ってやつなのか?


 まあ、今心配しても仕方がないので、明日謝りに行くことでアスカも納得したようだ。


(あ、お兄ちゃん、お昼食べた後は装備作りだったよね?)


(お、よく覚えていたな。また、工房を借りに行こうか)




 お昼を食べ終えた後、俺達は商業区域に移動し工房を探したのだが、1件目で借りることができたのは運がよかった。丁度、工房の主人が昼ご飯を食べに行くので、空いたところを借りたのだ。

 ドラゴンの鱗を少々渡したら、『工房にある道具も素材も自由に使ってよい』と涙ながらに言われけど、ドラゴンの鱗ってそんなに価値があるのだろうか?


 っと、そんなことよりも装備作りだ。


(よし、まずは剣から作ろうか)


(はーい!)


 ドラゴンはそれぞれの色に対応した属性を持っているので、その鱗を使うと武器や防具にもその属性が付く。例えば、レッドドラゴンなら炎属性だ。大抵付けたい属性の鱗で作るのだが、今回はせっかく4種類のドラゴンの素材があるので、全てを使って作ってみる。


(赤と青と黄と緑を混ぜたら何色になると思う? お兄ちゃん)


(昔、美術でやったようなやってないような。確か、3原色を混ぜると黒になるんじゃなかったか? 絵の具だったら茶色だったか? それに緑が混ざるから……緑がかった黒か茶色か?)


(そっか、とりあえずやってみるね)


 アスカは4種類のドラゴンの鱗を砕いて混ぜていく。鍛冶スキルがないと鱗を砕くのも大変らしい。アスカはLv3なので金属でいけばアダマンタイトまで扱える。Lv4に上がればオリハルコンも扱えるようになるようだ。

 アダマンタイトは、オークロードを倒した洞窟で、少量だが見つけることができたのでそれを使おうか。

 アスカがハンマーで叩いていくと、アダマンタイトをベースに4種類のドラゴンの鱗を混ぜ合わせた剣ができあがっていく。見た目はほとんど黒だが、光に当てたときだけうっすらと緑がかっている。

 付与は"鋭利"、"硬化"、"呪い"にした。呪いは全てのステータスを低下させる効果があようだ。作り終わって鑑定してみると、剣の名前が終わりの剣ジ・エンドとなっていた。


(何か、すごそうな剣ができちゃったな)


(お兄ちゃん、これもあんまり見せない方がいいかもね)


 俺の意見にアスカも同意する。素人目にもヤバそうな剣が出来上がってしまったが、アスカが自分を守るためのものだ。強すぎて悪いことはないだろう。


(さあ、次は防具を作ろう!)


(お兄ちゃん、楽しそうだね!)


(ああ、めっちゃ楽しいぞ。ファンタジー大好き”人間”……改め大好き”スキル”だからな)


 アスカは一応、賢者となっているが、剣士のような動きもできるので、防具は動きやすさ重視のライトメイルにしておく。

 上半身は胸から肩にかけて覆うプレートと手甲を、下半身は短いスカートタイプで脛当ても作った。全て剣と同じダークグリーンだ。

 胸部分には"硬化"、"全属性耐性"、"全状態異常耐性"を手甲には"硬化"、"魔力増大"、"魔力回復"を脛当てには"硬化"、"身体強化"、"体力回復"を付与した。アスカの付与はLv3なので、本来の80%の効果しか付与できないが、それでも十分だろう。


(よしアスカ、装備も整ったし、明日から試験まではレベル上げに専念しよう!)


(そうだね。レベル33まで上げたら、お兄ちゃんのスキルがLv4になるから、とりあえずはそこを目標にしようか)





 次の日、また人目を避けて朝早くからギルドを訪れる。もちろん黒いローブは装着済みだ。


「……おはようございます。ミーシャさん」


「おはようございます。今日はまたいつもより早いですね」


 専属受付となったミーシャと挨拶を交わす。ミーシャの前にも他の冒険者が並んでいたが、専属となっている冒険者が来たら、すぐに代わってもらえるようだ。すごいな専属。


「人だかりが苦手なので……」


「昨日は大変そうでしたもんね」


 昨日の光景を思い出したのか、ミーシャが顔をしかめる。たがしかし、半分以上お前が叫んだせいだろう!


「はい。ところでハンクさんはいらっしゃいますか? 昨日、挨拶もせずに帰っちゃったので」


「いますよ。ちょっと待ってくださいね」


 掲示板に貼られているクエストを見ながら、ミーシャがハンクを呼んでくるのを待っていると……


「よお、昨日はすまなかった。しかし、お前さんマジで強いな。最後の動きは完全に見えなかったぞ」


 ハンクが姿を現すなり、昨日の話を持ち出してきた。こちらからは振りづらかったからありがたい。


「こちらこそ、すいませんでした。最後のあれは……運がよかっただけです」


「いやいや、運で速くは動けんだろう! まあ、いい。素性を隠すということは、その強さも含めて隠しておきたいのだろうから、勝負に負けてしまった以上、こちらから聞くことはない」


「ありがとうございます」


「俺に勝った褒美にひとつアドバイスをしてやろう。せっかくステータスを隠蔽してるなら、スキルポイントも隠蔽しておけ。レベル25ではありえないポイントになってるぞ。なぜそうなっているのかは、もの凄く聞きたいが、約束したので聞かないけどな」


 !? 確かにハンクの言う通りだ。何やってるんだ俺は。クロムを見た時に気がつくべきだったな……


「アドバイスありがとうございます」


「なに、お前さんにしてやれることなんぞ、これくらいしかないからな」


 こうやって話してみると、戦っている時と違って世話焼きのいい人のようだ。見た目はいかついけど。さすがはギルドマスターといったところか。


「ところでアスカ、お前さんはSランクになる気はあるか? その実力なら十分可能性があると思うが」


ん? 今ハンクがさらっと、とんでもないことを言わなかったか? Sランクって世界に10人しかいないんだよね? そんな簡単になれるものなのか?


「そうですね。いずれはなりたいと思っていますが、今ではないですね。ただでさえ金色のギルドカードが目立っちゃって……」


 アスカはハンクの言葉を鵜呑みにしているのか、最早なれること前提で話してるわ。しかも、カードが目立つから今はなりたくないって……他のAランク冒険者が聞いたら怒鳴り込んできそうだな。


「なるほど。それなら逆にSランクになっちまった方がいいかもな」


 だか、ハンクは目立ちたくないなら、Sランクに上がった方がいいと言う。どういうことだ?


「どう言うことですか?」


「ああ、Sランクともなると変わった奴も多くてな、『Sランクだとわかると色々頼まれたり、絡まれたりと大変だから、どうにかしてくれ』って要望があってな。断ってもよかったんだが、ギルドから抜けられても困るから、しかたなく魔力で色を変えられるようににしたのさ。クロムのようにSランクを宣伝しているような奴もいるがな」


「へー、そんなことがあったんですね。それって、他のランクの色に変えられるってことですよね。見た目じゃ、Sランクだとわからなくなるってことですか?」


「そうなるな」


「ギルド職員にも?」


「ああ、さすがにギルドマスターにはわかるようになっているが、受付レベルではまずわからないだろう」


「クエストを達成したときのポイントとかはどなるのですか?」


「Sランクになった時点でポイントは意味がなくなるからな。当然、ポイントは貯まらないぞ」


「みんなと一緒にクエストを受けているのに、一人だけランクが上がらなかったらおかしいって思われませんか?」


「そのための専属受付嬢だろ。上手く連携を取って対処してもらうのさ。なんせ色は自由に変えれるからな」


 ここまでのやり取りでわかった。Sランクになって損はないことが。


(アスカ、Sランクになっておくか)


(そうだね、お兄ちゃん)


「そういうことでしたら、ぜひ、Sランクになりたいと思います。どうすればよろしいのでしょう?」


「そうか、その気になってくれたか。Sランクになるには2つ条件があって、1つはパーティーのリーダーとして、S級の魔物を討伐すること。もう1つはギルドマスターに推薦されることだ。ギルドマスターの推薦の方は、俺がするから大丈夫だ。問題はS級の魔物の討伐だな」


「S級の魔物ってその辺にいるのですか?」


「いや、そうそういてもらっても困るんだが、運良くというか運悪くというか、タッカート山脈の頂上にダークドラゴンが巣を作っていて、こいつはS級だ。ただし、強さもA級のドラゴンとは比べものにならん。おそらく、全てのステータスが1000近くあり、中には1000を超えているものもあるだろう。属性に対する耐性も高い。いくらお前さんでも、まともにやったら歯が立たないだろう」


 俺のスキルがLv4になれば身体強化が100%アップになる。その時のステータスは500を超えているだろうから、100%アップすれば1000は超えるな。さらに操作系もLv5まで使えるようになるから、問題ないだろう。それとレベル上げは、3日あれば十分じゃないかな。


「でしたら、3日ほど準備にいただけないでしょうか?」


「3日でいいのか? それなりのパーティーメンバーを探すだけでもっと時間がかかりそうだが。まあいい。S級の魔物を討伐したということを証明するために、普段はAランク以上の冒険者に同行を頼むんだが、今回は俺が行こう。出発する前にギルドに寄って声をかけてくれ」


「わかりました。それでは早速準備にかかりたいと思います。あ、ついでにドラゴン討伐のクエスト受けてからいきますね。お願いします、ミーシャさん」


「はい、お気をつけて。……”ぬぺーーー! もしかしてこれで私もSランク冒険者の専属に!?”」


(絶対名物だなこれは……)

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