第29話 クエスト達成報告

「はぃぃぃぃぃ!!」


(いや、叫んでます! 偉そうなこと言ったそばから、めっちゃ叫んでますよー!)


 ワイバーン16体、コカトリス2体、ヘルハウンド5体、ついでにイービルウルフ6体、ブラッドベアー2体、ジャイアントボア1体の討伐証明部位が並んだカウンターを見て、案の定受付嬢が叫ぶ。


「えっ? だって、えっ? これ1人で? ってかそのリュック、えっ? どこに入ってたの?」


 いや、プロどこいったー。プロの受付嬢帰ってこーい。めっちゃ叫んで、めっちゃパニックやないかーい。


「えーと、すいません。みんな注目しちゃってますので、とりあえずクエスト達成の確認をお願いします」


「あっ、はい。私としたことが、すぐ確認しますね」


 立ち直りは早いな。しかし、注目を集めてしまったせいで、近くにいた冒険者も何やらヒソヒソ話を始めている。


「……おい、あの量をソロってマジか?」

「……嘘だろ。ワイバーンにコカトリス、ヘルハウンドの証明部位まであるぞ」

「……それにあの量の証明部位を、どこから出したんだ? そんなに大きな荷物を持ってるようには見えなかったぞ」

「……あの黒ローブ何者だ?」


 周囲の騒ぎをよそに、証明部位の査定が進んでいく。アスカは注目の的になってしまったことで、小さい身体をさらに縮こめてしまった。


「お待たせしました。Cランクのクエスト3つとDランクのクエスト3つですが、今回、ワイバーンの討伐数が多いので、Cランクのクエストの達成が5つ追加になりました」


「えーと、それで私のランクはどうなるのでしょうか?」


 恥ずかしさのあまりちゃんと聞いていなかったのか、アスカが自分のランクを確認している。


「はい、もちろんCランクに昇格になります。Bランクへの昇格はBランクのクエスト2つか、Cランクのクエスト4つ達成していただくことになります」


 おお、無事Cランクに昇格しただけじゃなく、Bランクへの昇格ももう少しじゃないか。これなら手持ちの素材で……


「そうですか。それでは、他の証明部位があるので、こちらのBランクのクエストの査定もお願いしていいですか?」


 そういって、オークロードと、ゴブリンキングの討伐クエストの依頼書と、それぞれ2体分の討伐証明部位をカウンターに置く。


「あひぃぃぃー、ここでそれをぶっ込んできますか!!」


 あひぃぃぃって、これ名物か!? このギルドの名物なのか!?


 証明部位のさらなる追加に、周囲の冒険者達の騒ぎも大きくなっていく。こうなるのが嫌だから驚くなって念を押したのに!


「で、出来るだけ穏便に……」


「し、失礼いたしました。Bランクのクエスト2つ、確かに達成を確認しました。これでアスカさんはBランクへ昇格いたしました。ギ、ギルドカードをお預かりします」


 受付のお姉さんは震える手でギルドカードを受け取り、奥へと引っ込んでいった。


「……まじか、あの黒ローブ。1回の報告で2つランク上げちまったぞ」

「……低レベルならともかく、DランクからBランクだぞ。そんなの聞いたことないぞ」


(まずい、非常にまずい。アスカ、目立ち過ぎた。終わったらさっさと宿に戻ろう)


(うん、わかった。)


『針のむしろとはこのことか』と、ひしひしと感じながら、新しいギルドカードができるのを待つ。


「こちらが新しいギルドカードになります」


 受付のお姉さんがCランクの黒をすっ飛ばして、Bランクの白色のギルドカードを持ってきた。早く受け取って帰ろう。


「受付嬢さん、お名前聞いてもよろしいですか?」


「そうでした。私の名前はミーシャです。今後ともよろしくお願いします」


 おっと、さすがはアスカ。こんな状況でも専属のことを忘れていなかったか。受付のお姉さんの名前を確認して、急いでギルドを後にする。


 おっと、その前にSランクの冒険者を鑑定しておくか。


鑑定

名前 クロム・ロイ 人族 男

 レベル 70 

 職業 魔法剣士

 ステータス

 HP  405

 MP  360

 攻撃力 395

 魔力 370

 耐久力 385

 敏捷  400

 運   300   

 スキルポイント 239

スキル

 剣術  Lv4

 雷操作 Lv4


 ん? おかしいな。ステータスが微妙に高いな。初期値が50を超えている感じがするな。それにスキルも、このレベルではありえない覚え方をしているな。

 レベル70ならスキルポイントは2489のはずだが、それだと、Lv4のスキルを2つも付けられないからな。明らかに2000ポイントほど多く持っていたことになる。

 スキルポイント倍化ほど多くはないから、レベルアップ以外にも、スキルポイントを手に入れる方法があるということか? アスカが学園に入ったら調べてみるか。


 宿に戻ったアスカは、クエストの疲れよりも報告した時の気疲れが大きかったらしく、いつもより早く寝てしまった。




 翌朝、早い時間にギルドに向かう。早い方が人が少ないと思ったからだ。

 確かに空いてはいたが、それでも何組かのパーティーは、すでに掲示板の前でクエストを吟味していた。そのうち何人かが、黒ローブのアスカを見て慌てたように他のメンバーに報告している。


 ちょっとした有名人だな。もう、黒ローブは外せないぞクエスト受けるときは。


「おはようございます。今日もクエストを受けていきますか?」


 専属ギルド嬢のミーシャさんが、笑顔でアスカに話しかけてきた。彼女の中で昨日の失態はなかったことになってるようだな。


「おはようございます。今日はこのクエストをお願いします」


 前の日から決めていたので、すぐに依頼書を取って手渡した。


「えーと、グリーンドラゴン、レッドドラゴン、ブルードラゴン、イエロードラゴン、オークキングの討伐ですね。これ全部達成しちゃうとAランクの昇格試験を受けることができちゃいますね」


 アスカが依頼書を渡すと、ミーシャの顔がみるみる引きつっていく。ふっ、これくらいで動揺していたら、アスカの専属にはなれないぞ。


 それにしてもAランクに昇格するためには試験が必要なのか。今までは納品だけで済んでたのにね。試験とはどんな内容なのだろうか?


「Aランクになるには試験が必要なのですね。どのような内容なのでしょう?」


「ギルドの裏手にある広場で、Aランクの冒険者と模擬戦をしていただきます。その模擬戦に勝つか、負けてもAランクの実力があると認められれば、昇格できます」


 ほうほう、Aランクの冒険者との模擬戦とな。なるほど、本当にAランクの実力があるのか確かめる意味もあるのかな。


「そうなんですか。ちなみにその試験はいつでも受けることができるのですか?」


「はい、ギルドに模擬戦をしてくれるAランク冒険者がいれば、いつでも受けることができます。ここはギルドの中でも、最も大きいギルドなので大抵Aランクの冒険者はいますよ」


 さすがは王都。それなら帰ってきたらすぐ受けられるんじゃないか? もしくは明日とか。


「もしかしたら、今日か明日にでも受けるかもしれません」


「ちょっと信じられませんが、わかりました。何人か、Aランクの方に声をかけておきますね」


 よし、これでAランクに上がる目処も立ったし、心置きなくドラゴン退治と行きますか!


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「では、お気を付けていってらっしゃいませ。……”上手くいけば近日中にAランク冒険者の専属受付嬢に……私の時代がキター!”」


 こいつ、相変わらず心の声が漏れてるな……

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