第26話 魔物襲来

「おはようございます。みなさん」


 次の日、アスカが起きると、マイケル以外の冒険者とレコビッチさんは起きていた。それぞれテントをしまったり朝食の準備をしている。


「おはよう、アスカ。昨日はよく眠れたかい?」


 昨日仲良くなったローズさんが、真っ先に声をかけてくれた。こういうところは、やっぱり女の人の方が気が利くんだね。


「はい、よく眠れました。野宿にも大分慣れてきましたので」


「へえ、若いのにもうそれほどの経験を積んでるんだ」


 ローズは素直に感心しているようだ。


 その時、俺の探知に反応があった。


(アスカ、オーガが5体こっちに向かってるな)


(うん、私も今気がついた)


 このパーティーなら、オーガ5体でもギリギリ大丈夫な気がする。けど、問題はその後ろからオーガを追いかけるように動いている、C級のイービルウルフ2体だな。


 イービルウルフは闇属性の魔物で、物理耐性と闇耐性を持っている。さらに敏捷が高く、生半可な攻撃はかすりもしない。


(このパーティーじゃC級2体はきつそうだ。だからといっていきなり倒しちゃうのもなー)


(じゃあ、囮になったふりして、森に逃げ込んで倒しちゃうのはどう?)


(おぉ、それでいこう。上手く逃げ切れたことにして戻ればいいだろう)


 朝食の準備をしていたスコットも、オーガ5体の気配に気がついたようだ。急いで武器と防具を装備し、他のメンバーにも声をかける。


「おい、お前ら出番だぞ」


 その一言で、マイケルもテントから飛び出してきて、3人が瞬時に戦闘態勢をとった。なるほど、今の動きを見るになかなか場慣れしているようだ。


「あれは……オーガが1,2,3……5体だな。ローズ数を減らせるか?」


「うーん、致命傷は無理だけど、2~3体巻き込んでダメージを与えることはできるかな」


 ローズのスキルは火操作だったな。レベル2だから使うのはフレイムバーストあたりか?


「よし、頼む。ダメージを受けて遅れたやつは後回しにして、近づいて来たのからやっちまおう」


 スコットの指示に反応したのはマイケルだ。


「オーケー、おれっちは左をやろう。テスターは右を頼むよん。リーダーは真ん中で」


 マイケルの提案によると、マイケルが左を、テスターが右を、スコットが真ん中を担当するようだ。


「よし、それでいこう。遅れてきたやつは早い者勝ちで」


 スコットもその意見を採用したようだ。このパーティーは、何でもかんでもリーダーが決めるわけじゃないのか。こういうところもパーティーによって違うんだな。うんうん、勉強になる。


「じゃあ、いくよ。炎よ、弾けろ。炎の爆発フレイムバースト!」


 5体のオーガの真ん中で炎の爆発が起こり、予定通り2体を吹き飛ばした。


「よし、想定通り3体。行くぞ!」


 スコットは斧を両肩に担ぎ気合いを入れて駆け出す。マイケルとテスターもそれに続いて走り出す。


 スコットが先制攻撃とばかりに、両手斧ダブルアックスを打ち下ろす。オーガは持っていた棍棒で受け止めようとするが、スコットの一撃はその棍棒を真っ二つにした。

 オーガは、折れて使い物にならなくなった棍棒を、スコットに向かって投げつける。スコットはそれをあえて躱さず、鎧で受け止め前に出た。

 予想外の行動に驚いて動きが止まったところに、斧スキルの三倍衝をたたき込む。通常の3倍の攻撃力が込められた一撃が、オーガの右肩から入り、左腰へ抜けていく。真っ二つになったオーガが地面に倒れた。


 片手剣を持つマイケルは軽快な動きで、オーガを翻弄する。オーガの力任せの一撃を、華麗なステップで躱しながら、的確に傷を負わせていく。体力に自信があるオーガはそれだけでは倒れないが、徐々に動きが鈍くなっていった。そこに双極斬と衝撃斬のコンボを打ち込む。さすがのオーガも、2発の必殺技の前にあえなく沈んだ。


 テスターは槍を巧みに使い、オーガを近づけさせることなく戦いをコントロールしていた。自分の攻撃が届かないことに苛立つオーガが、捨て身で前に出てきたところを、カウンターで閃光突をお見舞いする。心臓を一突きで貫かれたオーガが、立ったまま絶命した。


 ここまで3人とも危なげない戦いぶりだ。


「よし、残り2体」


 スコットが言う通り、残りは手傷を負ったオーガ2体のみ。彼等が余裕を持って対処しようとしたところで、事態が急変する。

 オーガを追うようにして、森からC級の魔物、イービルウルフが2体飛び出してきたのだ。


「っ!あれは……イービルウルフ!?」


 周囲の状況を伺っていたローズが、真っ先に気がついた。

 その言葉に反応し、3人に一瞬隙が出来る。その隙を突かれて、オーガ2体の棍棒がそれぞれ、マイケルとテスターを吹き飛ばした。


「チッ!」


 ひとり残ったスコットが舌打ちをする。魔法によるダメージが残っているとはいえ、2体のオーガを同時に相手をするのは、Cランクのスコットでも厳しそうだ。

 ローズも魔法で援護しようとするが、スコットを巻き込む恐れがあるので、そう簡単に手出しができない。それよりもと、イービルウルフの足止めをしようと火の矢フレイムアローを放ったのが失敗だった。


 イービルウルフはいとも簡単に火の矢フレイムアローを躱し、真っ先に攻撃を仕掛けてきたローズに狙いを定めたのだ。矢のようなスピードでローズへと迫っていく。


「まずい!ローズ、逃げろ!」


 スコットが叫ぶ。近接攻撃のスキルを持たないローズでは、あっという間にイービルウルフに倒されてしまうだろう。逃げ切れる可能性は低いが、スコットも2体のオーガ相手に助けに行く余裕がない。


 イービルウルフがローズに迫っていく、その時……


「こっちよ!」


 アスカがローズとイービルウルフの間に割って入った。


「アスカ、ダメ!」


 アスカの背後からローズの悲痛な叫び声が聞こえてきた。そりゃそうか、彼等はアスカの強さを知らない。アスカが命をかけてローズを助けているように見えるのだろう。


「私が囮になります。ローズさんはスコットさんのサポートを!」


 そう言って、アスカがイービルウルフを引き連れ、森へと駆け出した。ステータス補正のおかげで元々の数値が高いのと、身体強化Lv3の効果で敏捷も80%上がっている。必死に逃げているように見えて、実際は引き離さないように手加減して走っているのだ。


 少し森の中に入ったところで、アスカは振り向き様に光操作Lv4の聖なる光線ホーリーレイを放つ。光の速さで伸びていく2本の光。2体のイービルウルフは避ける間もなく一瞬で浄化されてしまった。


(しまった。これじゃあ、素材が残らないわ)


 アスカは唯一残った牙を回収し、元来た道を戻っていく。そして、森からそっと様子をうかがった。


 ローズが片方のオーガの前に炎の盾フレイムシールド出し、攻撃を防ごうと試みていた。オーガは果敢にもその炎の壁に向かって棍棒を振り下ろしたが、木製の棍棒は炎の盾フレイムシールドに触れた瞬間、焼失してしまった。

 その間に、もう片方のオーガをスコットが倒し、残った武器なしオーガも切り伏せた。


 マイケルとテスターもよろよろと立ち上がる。どうやら傷は負っているが、命に別状はないようだ。


「スコット、アスカが、アスカが……」


「落ち着け、ローズ。マイケルとテスターの傷は深い。今、動けるのは俺とお前しかいない。2人で助けに行っても返り討ちに遭うだけだ」


 スコットが冷静な判断を下す。非情にも思えるが、ことにこの世界では正しい判断だと思う。こういった決断を下さなければならないのが、リーダーの役目なのだろう。


「でも、でも、私達を助けるために囮になったんだよ?」


「あぁ、分かっている。だから俺一人で行く。お前達はここで待っていて、20分経っても戻らなかった先に行ってくれ」


 とは言え、スコットだってアスカを見捨てる気はなかったようだ。自分ひとりで行くなど、死にに行くようなものだろうに。全く、こいつらもいいヤツらだったか。


 ローズもスコットの提案に戸惑っているようだ。スコットを止めるべきか否かで。


(うーん、出て行きづらい雰囲気だけど、このままじゃローズがかわいそうだ。行こうかアスカ)


(うん)


 アスカがいそいそと森から出ていく。


「あのー、戻りましたー」


 そこからアスカは、C級のイービルウルフ相手にどうやって戻って来れたのか4人から質問攻めに遭ってしまった。運がよかったで押し通してみたけども、4人とも明らかに納得していないような顔をしていた。


 しかし、すぐイービルウルフが戻ってくるかもしれないと気がついた4人は、まずはこの場を離れることにしたようだ。


 少々疑問が残る終わり方だったようだが、結果的にみんな無事だったことに感謝をして、馬車を出発させた。


 ちなみにレコビッチさんはイービルウルフが出てきた時点で、馬車の中に入り震えていたそうだ。

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