第三章 魔法学院編
第25話 別れと出会い
お別れの時間が来たので町の入り口向かうと、たくさんの人達が集まってくれていた。
「みなさん、大変お世話になりました。ここでのご恩や楽しい思い出は一生忘れません。特にレスターさん、エリックさん、シーラさん、こんなひとりぼっちの私をパーティーに誘ってくれて、ありがとうございました。短い間でしたが、おかげで寂しい思いをしないですみました」
名指しで呼ばれた3人は全員涙ぐんでいる。俺か? もちろんすでに大号泣だよ。
「それからクロフトさん、見ず知らずの私に親切にしてくれてありがとうございました。あの時、食べたご飯の味は絶対に忘れません。そして、約束した通り困っている人がいたら、私が助けてあげたいと思います」
クロフトは号泣しながら握手を求めて来た。アスカの両手をしっかりと握って引き寄せると、耳元で囁いた。
「あの時、助けてくれたのは君だろう? 顔は隠していたけど、声でわかったよ。あの時のお礼を改めて言わせてくれ、息子を救ってくれて本当にありがとう」
そうか、クロフトにはバレていたか。
「おい、クロフト!そんなに泣くほど別れが惜しいのか!? カミさんに言いつけるぞ!」
事情を知らない人から見たら、そう見えたのだろう。周りからヤジが飛ぶ。感動的な場面が台無しだ。
「そんなんじゃねぇ! 何も知らないくせに口を挟むな!」
クロフトが両手を放し、慌てて否定する。その慌てっぷりも十分怪しいことに気づかずに。
「あっ、レスターさん、エリックさん、シーラさん、忘れるところでした」
そんなクロフトの慌てっぷりをよそに、アスカは昨日作ったプレゼントを取り出した。
「これ、お世話になったお礼です。昨日、見つけたものですが、よかったらもらってください」
「「「………えっ?」」」
レスター達3人と見送りに来ていた人達が見事にハモる。
「これを……見つけた?」
もう大抵のことでは驚かないはずのレスターが、明らかに驚いた様子で聞き返した。はて、それほど驚かれるような物なのか、これ?
「はい、クイーンアントの素材で作った剣と弓と指輪です。それぞれ3つずつ付与が付いてます」
「……それって
「……しかも付与は3つって、どこの高名な付与師の作品だよ」
「……いやいや、クイーンアントの外殻を加工するのだって、その辺の鍛冶屋じゃ出来んだろう。どこの名人との合作だよ」
野次馬達の声が痛い。おかしい。鍛冶や付与は有名なスキルのはずだから、このくらいの装備なら簡単に作れる人がいるだろうに。
「……あれ、一体いくらするんだ?」
「……見当もつかん」
「……何にせよ、レスター達は上手いことやったな。羨ましい」
周囲の冒険者達の囁き声が聞こえてくるのだが、うーん、いまいち物の価値がわからないな。でも言われてみれば、付与付きの武器や防具って見たことないかも? これはもしかしてやっちまったのか?
「こんな高価なもの、本当にもらっていいのかい?」
「すっげー、この弓めっちゃ軽い。ありがとうアスカ!」
レスターに比べエリックは遠慮がない。そこが彼らしくもあるが。まあ、喜んでくれてるみたいだし、大丈夫だろう。
「私達がクイーンアントを狩った次の日に、この装備が見つかるなんて、随分偶然が重なるものね。この羽のマークも見たことないけど、昨日、アスカがクエストの休憩中に地面に書いてたマークとそっくりね」
なにー! あれが見られていたとは、シーラさん恐るべし。ツッコミの鬼、恐るべし!
「相変わらず、ツッコミどころがたくさんあるけど、これは本当に素晴らしい
だけどそこはさすがのシーラさん、アスカの気持ちをわかっているね。
「はい、受け取ってもらえて嬉しいです」
もうアスカがどのような人物なのか、人となりがわかっているのだろう、3人は特に断ることもなく受け取ってくれた。そして、しっかり握手をして感謝と別れを告げる。
「それでは、そろそろ出発しますね。いつかまたここに戻って来ますので、その時はよろしくお願いします」
アスカは何度も振り返っては、手を振っている。だんだん町が遠ざかり、やがて見えなくなった。
初めての町、初めての冒険、初めての仲間。いい環境に恵まれて、心配だった低レベルの期間を生き延びることが出来た。この経験を活かして、この先も2人で頑張っていこうと改めて誓い合った。
(あれ? お兄ちゃん、向こうから何か来るね)
(お、ほんとだ)
王都までは歩いて10日ほどかかる。飛んで行ってもよかったが、見られると困るのでとりあえず歩いて行くことにした。すると、2日ほど歩いたところで、別の道から向かってくる何かが探知にかかった。
おそらくこれは馬車だな。しばらく様子を見ていると、予想通り王都を目指しているのであろう馬車が向かってくるのが見えた。
「こんにちは、お嬢さん。儂は王都で商人をしているレコビッチと言うものじゃが、御主はもしかして、歩いて王都を目指しているのかのぅ?」
馬車がアスカの横に来た時、御者席にいた人のよさそうな初老のおじいさんが話しかけて来た。
「こんにちは、レコビッチさん。私はアスカと言います。セルビアの町から、歩いて王都に向かっているところです」
どうやらこのおじいさん、街道をひとり歩くアスカを心配して声をかけてくれたようだ。
「セルビアの町から、女の子1人で歩いて王都に向かうとは驚きじゃ。歩きじゃとまだ8日ぐらいかかるじゃろうし、街道と言っても時折、魔物も出る。よく今まで無事じゃったものだ。よろしい、ここで会ったのも何かの縁じゃ。王都まで連れて行ってさしあげよう。馬車なら4日で着くじゃろうから、さあ、乗りなさい」
(鑑定でもおかしなところはないし、いい人そうだから、ご一緒させてもらおう)
アスカもしっかりと鑑定したようで、俺の提案に頷いている。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言ってアスカが馬車に乗り込むと、すでに4人の冒険者っぽい男女が座っていた。
「スコットよ、新しいお客さんじゃ。自己紹介でもして上手くやってくれ」
レコビッチが御者席から声をかける。
「ずいぶん可愛らしいお客さんだな。俺の名前はスコット、4人パーティーのリーダーだ。今はこの馬車の護衛として雇ってもらっている。俺の隣に座っているのが、ローズで【魔法使い】だ」
「よろしくね」
「そんで、俺の向かいに座っているのが、マイケルだ。そして、その隣がテスターだ」
マイケルとテスターと呼ばれた男性が、片手を軽く上げた。
リーダーのスコットは金髪を短く刈り上げ、精悍な顔つきの男だ。筋肉質でフルプレートを軽々着こなしている。足元に
ローズは茶色いロングヘアーで、ウェーブがかかっている。野生的な美人さんで、髪の色と同じ茶色いローブを着ている。
マイケルは、こげ茶の天然パーマの軽そうな感じの男で、逆にテスターは、灰色のロンゲで寡黙そうな感じがする。2人とも重要な部分だけを守る、動きやすさを優先したライトメイルを装備している。
「初めまして。レコビッチさんのご好意で、ご一緒させていただくことになりました、アスカです。ご迷惑にならないようにしますので、よろしくお願いします」
アスカが自己紹介している間に4人を鑑定してみると、スコットが1番レベルが高く30だった。スキルは予想通り斧術でLv3だ。ローズはレベル22でスキルは炎操作Lv2、マイケルはレベル23でスキルは剣術Lv2、テスターはレベル21でスキルは槍術Lv2だ。
おそらく、ランクはDかよくてCだろう。王都までは街道もあるし、そのくらいのランクで十分対処できるような魔物しか出ないということかな。
「しかし、今時、歩いて王都に行くなんてずいぶん物好きね。あなたはずいぶん若く見えるけど、何かやってるのかしら?」
女性同士だからだろうか、ローズが気さくに話しかけてくる。
「えーと、特に何かやっているわけではないのですが、王都で学院に通いたくて」
冒険者というと面倒なことになりそうなので、学生候補ということにしておこう。嘘じゃないし。
「へー、王都の学院といえば【国立王都武術学院】か【国立王都魔法学院】だね。あんたが何か武術をやっているようには見えないけど、魔法学院の方かい?」
「はい、魔法学院の方です」
アスカとローズの会話に他の3人も興味を示したのか、聞き耳を立てているようだ。
「その若さだと、まだスキルを持っていないだろうけど、何か希望のスキルはあるのかい?」
「そうですね。これから決めようと思ってますが、何かおすすめなんてありますか?」
その後は、ローズと魔法談義に花が咲き、男性陣があきれ果てるくらい話が弾んでいた。俺は魔法についてある程度知識があるから楽しかったが、他の3人には退屈な話だったのかもね。
この日は特に問題なく街道を進み、暗くなる前に開けたところで野営の準備を始めた。
アスカは必要な道具をリュックに入れていたのだが、
アスカもあえて
今度からちゃんと自分で用意するように怒られたけど、それはアスカのためを思ってのことだから、アスカは素直に頷いていた。
アスカは眠りにつくまで、ローズの学院の話や体験談などを楽しそうに聞いていた。俺も結構勉強になったよ。
見張りはスコット達が引き受けてくれたので、アスカは安心して眠ることができた。と言っても、俺が探知で寝ずの番をしてるから、いつも安心なんだけどね。
そして、次の日予想外の事件が起こる。
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