第24話 鍛冶屋にて

 クロフトと息子のケインを助けた後、レスターがギルドでCランクのクエスト2つの達成を報告して、4人でいつも通り酒場に向かった。今日はこの町で過ごす最後の夜になるだろう。


「それじゃあ、レベルアップ、クエスト達成、そしてアスカの今後の活躍を祝って乾杯!」


 レスターが音頭を取り、最後の夕食が始まる。いつもより豪華な食材がテーブルに並び、美味しそうなにおいを漂わせている……ような気がする。


「アスカと会ってから色々会ったけど、実際はまだ1週間くらいしか経ってないんだよね」


 エリックが、目の前の料理を頬張りながら語り出す。


「そうですわね。なんかもうこの1週間で、一生分くらい驚かされた気分ですが」


「そうそう、俺なんてもう大抵のことでは、驚かない自信があるよ」


 シーラとレスターもエリックの話に乗ってきた。


 確かに色々あったな。そして、何だかんだ言って彼らにはお世話になったと思う。


 アスカのトンデモネタを肴に、食事もお酒も進んでいく。普段あまり見ない高級食材につられ、他の冒険者たちも集まってきた。あまり話をしたことがない冒険者達も、アスカの門出を惜しみながらも祝ってくれる。こう見えても、レスターたち3人はCクラスの冒険者なのだ。しかも、短期間でランクを上げたことで、それなりに注目を集めていたようだ。


「ところでお前達、今日、町の入り口で起こったこと知ってるか?」


 その中の1人の冒険者が、興奮気味にレスターに話しかけてきた。その顔は真っ赤で相当酔っ払っているようだ。


「僕らが町に着いた時には、もうほとんどが終わってたみたいで、クロフトさんの息子が危なかったって話しか聞いてないな」


 遅れてきたレスターは何が起こったのかよくわかっていなかったようで、その話に食いついてしまった。


 アスカがビクッてなってる。


「俺もよ、聞いた話でしかないんだが、何でもクロフトと息子が、突然現れたワイバーンに襲われたらしいぜ」


「ワイバーン! C級の魔物じゃないか!?」


 酔っ払ったレスターも大げさに驚いている。ついでにエリックとシーラも驚いている。


「そうさ、そのワイバーンに襲われて、息子のケインは左腕が吹っ飛んじまったそうだ。クロフトもやられて、もうダメだと思った時、その黒ローブが現れて、ワイバーンを瞬殺、息子の腕まで治しちまったって話しだ」


「へー、C級を瞬殺して腕まで治しちゃったと……」


(痛い、レスター達のジトッとした視線が痛い……)


「いや、俺も信じられないよ。だってよ、ワイバーンを瞬殺ってことは、少なくともBランク以上だろ。下手したらAランクかもしれないぜ。そんでもって、腕を再生させるってことは、治癒がLv4以上ってことだろ。もうそれって【勇者】や【英雄】ってレベルだろ。少なくとも俺は、そんなやつがこの町にいるなんて聞いたことないぜ」


「まぁ、聞いたことはないな」


 レスターがこちらを見ながら呟く。

 もちろん君たちが内緒にしてくれているからだよね。その意味でも感謝しているよ。


「だよな。んで、そいつがさ、黒ローブで素性を隠してたんだけど、みんなに問い詰められる前にこの町に逃げ込んだって話だ。案外近くにいるかもしれないぜ」


「ほー、近くにねー」


 痛い、痛いよレスターさん。その視線はヤメテ。アスカも俯いたまま固まってるし。


「ちょっと前に噂になった、とんでもない魔術師も黒ローブだったな。ひょっとして同一人物かもしれないな」


「あー、そんな話もあったな」


「ま、そんなやつがいるんなら、ぜひ一度、パーティーでも組んでもらいたいもんだぜ」


 レスターとひと通り話して満足したのか、その冒険者はジョッキに残っていたレスターのお酒を一気に煽って、自分のテーブルに戻って行った。


「アスカ、お前だろ」


「はい、ごめんなさい」


 何だかんだ言って、レスターもすぐに許してくれた。その後も、たくさんの冒険者やレスター達と遅くまで盛り上がり、真夜中を過ぎた頃、名残惜しさを残しながらも、みんな宿へと戻って行った。



 


 大宴会から一晩明けた朝早く、町で唯一の鍛冶屋の前に立つアスカの姿があった。


「おはようございます」


鍛冶屋の主であるドワーフの男性に挨拶をする。


 実は昨日、ギルドに戻る前に工房を貸して欲しいとお願いしていたのだ。ブラッドベアーとキラーアントの素材をいくつか渡すと、快く貸してくれたわけだ。


 ここで何をするかって? お世話になった3人に、お礼の品を作るんだよ。もう何をプレゼントするかは考えている。


 レスターには片手剣。クイーンアントの外殻を使った真っ赤な刀身の剣だ。もともとその辺の金属より硬くて丈夫な素材に、"鋭利"、"硬化"、"軽身"を付与する。Lv3の付与だと3つが限界のようだ。名前は女王の剣クイーンソードだ。


 エリックには弓を。これまたクイーンアントの外殻で真っ赤なフレームを作成し、弦にはワイバーンの皮膚の繊維を編み込んで作っている。付与は、"貫通"、"速射"、"軽身"で、名前は女王の弓クイーンボウだ。


 シーラには指輪を。迷ったけど簡単に身につけることができて、邪魔にならない指輪にした。キラーアントの外殻で作った台座に、クイーンアントの魔石を綺麗にカットしてはめ込む。付与は、"魔力増大"、"物理防御"、"魔法防御"だ。魔力増大はスキルのようにLvを一段階上げる効果はないけど、魔法の威力がそこそこ上がるようになっている。名前は女王の指輪クイーンリングだ。3つの全てに、2人で考えた一対の羽のマークを刻んでいる。ショウとアスカのマークだ。


「できた!」


 3人分作り終えたアスカは、工房を貸してくれたドワーフの男性にお礼を言って、店を後にする。子どもの工作ぐらいに考えていたドワーフのおじさんは、できあがった作品を見て、目を丸くしていた。ここは驚いて固まっているうちに、さっさと逃げ出すことにしよう。色々聞かれても面倒だしね。


 日も高く上がってきて、いよいよこの町とのお別れの時間が近づいて来た。

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