第20話 vs ブラッドベアー ○

 夕暮れ時、4人組のパーティーがギルドを訪れた。クエストをいくつかこなしてきたようで、手には魔物の素材を持っている。そう、エリック達のパーティーだ。


「これ、確認お願いします」


 レスターが手慣れた様子で、受付カウンターに証明部位を並べていく。


「確かに確認しました。Eランククエスト5つですね。アスカさんはこれでEランククエストを5つ達成いたしましたので、ランクがFからEに上がります。ギルドカードを預かります」


 アスカのランクがEに上がり、ギルドカードの色が緑から青に変わった。


「こちらの確認もお願いします」


 レスターが続けてホブゴブリンの証明部位を並べた。


「こちらはDランクのクエストになりますね。レスターさん、エリックさん、シーラさんはこれでDランクのクエストを5つ達成しましたので、ランクがEからDに上がります。ギルドカードを預かります」


 レスター達はDランクに上がり、ギルドカードの色が赤に変わった。


「ふふ、これで私達もDランク冒険者の仲間入りですわ」


「何か、アスカが来てからあっという間に上がったね」


 シーラとエリックは新しくなったカードを見て、にこやかに微笑んでいる。ランクをひとつあげるのはなかなか大変なようだな。彼等の喜び様を見ればわかる。


「そうですわね。突っ込みどころはいっぱいありますが、治癒も出来て魔法も強力、これほどのお買い得物件はなかなかありませんわ。アスカをパーティーに誘ったことは褒めてあげますわ、レスター」


「そうそう、レスターの1番のお手柄はアスカを誘ったことだね」


 シーラとエリックは好き勝手言いたい放題だな。レスターは大変だね、この先も……


「もっと他にも役に立ってるだろうよ……」


 頑張れレスター!お前はいいやつだぞ!


 アスカがレスター達に昇格のお祝いを言うと、彼等は素直に喜んだ後、明日はアスカのランク上げに付き合ってくれると約束してくれた。アスカもそれを聞いて嬉しそうにしている。よし、明日も頑張ろう!


 その後、素材を買い取ってもらいお金を分配する。1人5万ルークの稼ぎになった。


「ランクやレベルが上がるのも嬉しいけど、お金がたくさんもらえるのもありがたいね」


 エリックは弓使いなので矢の消耗が激しい。お金も他の二人よりたくさんかかるのだろう。その辺りはパーティーで何か取り決めがあるのかもしれないが、お金がかかることには変わりない。

 職業によって、必要経費も変わってくるのか。勉強になるな。


 そして、いつものようにみんなで夕食を食べてから宿に戻った。





 翌朝も先に来ていた3人と合流する。

 今日は、みんなでアスカのために、Dランクのクエストを5つ受けてくれた。キラーアントやジャイアントボア、シルバーウルフなどを討伐して、アスカのランクもDに上がりギルドカードの色も赤になった。レベルも全員1ずつ上がり、レスター達は16にアスカは14になった。


名前(ヒイラギ)アスカ 人族 女

 レベル 14 

 職業 賢者

 ステータス

 HP  36(170)

 MP  46(180)

 攻撃力 36(170)

 魔力  56(190)

 耐久力 36(170)

 敏捷  46(180)

 運   46(180)   

 スキルポイント 207

スキル

 (剣術 Lv2)

 (炎操作 Lv2)

 (風操作 Lv2)

 (水操作 Lv2)

 土操作 Lv1(土操作 Lv2)

 (氷操作 Lv2)

 (雷操作 Lv2)

 (光操作 Lv2)

 (闇操作 Lv2)

 (重力操作 Lv2)

 (時空操作 Lv2)

 治癒 Lv1(治癒 Lv2)

 (全物理耐性 Lv2)

 (全属性耐性 Lv2)

 (全状態異常耐性 Lv2)

 (思考加速 Lv2)

 (身体強化 Lv2)

 (無詠唱)

 (魔力増大)

 (消費魔力半減)

 (魔力回復倍化 Lv2)

 (経験値倍化 Lv2)

 (経験値共有 Lv2)

 (スキルポイント倍化 Lv2)

 (ステータス補正 Lv2)

 (自動地図作成)

 (鑑定 Lv2)

 (隠蔽 Lv2)

 (探知 Lv2)

 (危機察知 Lv2)

 (鍛冶 Lv2)

 (錬金 Lv2)

 (付与 Lv2)


 


 そしてさらに次の日、全員がDランクなので初めてCランクのクエストを受けることになった。おそらく今日で、レベルが15にあがるだろう。上手くいけば目標の16になるかもしれない。


「この辺りに出没するC級の魔物と言えば、ブラッドベアーかな。ソーマの森の奥に行けばクイーンアントやワイバーンも出るけど、B級の魔物がいる可能性もあるからね」


 レスターが事前に調べてきた情報をみんなに伝える。


「討伐依頼が出ているのは、ブラッドベアーとクイーンアントだね。このどっちかを受けようよ」


「あら、両方受ければよろしいのではなくて?」


 エリックの提案をあっさり覆すシーラ。やっぱりこのエルフ好戦的だよな。


「自信過剰になるのは良くないが、今の俺らなら2つともいけるだろう。念のため、ポーションとマナポーションを買っていこうか」


 レスターもシーラの意見に賛成のようだが、さすがに準備は怠らない。戦士はHP回復薬のポーションを、魔法使いの2人はMP回復薬のマナポーションを買っていく。


「ソーマの森の奥か。ちょっとドキドキしてきたよ」


 エリックめ、かわいいこと言いおって。キャラ作りなのか?


「それじゃあ、準備も整ったし早速出発しよう」


 


 初日と同じ場所からソーマの森に入り、前回よりさらに奥を目指す。


「そう言えばさ、聞いたところによると、1日で4つも5つもクエスト達成してるのって、俺らくらいなんだよね」


 森の中でレスターが思い出したように話し始めた。ほほう、しかし知らなかった。そうなのか。このパーティーは優秀だってことか?

 エリックも疑問に思ってたのか、レスターに他のパーティーはどのくらいなのか聞き返したところ、レスター曰く普通は多くて3つ、それも運良く近くに討伐対象の魔物がいたときぐらいだとか。


 俺もこのパーティーが5つとか6つとかこなすから、それが当たり前だと思ってたよ。だけど、シーラにはその理由がわかっていたらしい。


 彼女はエリックに聞かれて、こう答えた――


「そんなのアスカが探知スキルを持ってるからに決まってますわ」


「「なるほど。」」


 なるほど。探知を持っている者って、思ったより少ないのね。


 3人がそうこう言っている内に、探知に強めの反応が引っかかった。


「反応がありました。正面500m先におそらくブラッドベアーだと思います。数は1体です」


 アスカも気がついたのか、すぐにレスターに報告する。今までの戦闘で随分慣れたものだ。


「よし、初めてのC級の魔物だ。油断せずに慎重に行こう」


 レスターの一言で、みんなが気を引き締める。アスカもすっかりパーティーの一員だな。


「いた。ブラッドベアーで間違いない。いつも通り僕が奇襲をかけるね」


 目のいいエリックがいつも通り、一番に見つけ矢をつがえる。


「C級相手だと私の風の刃ウインドエッジは弾かれる可能性があるから、風の圧力エアプレッシャーで動きを抑えるわね。完全には無理だと思うけど」


 シーラは各上相手に自分の力を過信しない。できることをしっかりやる。さすがこのパーティーの頭脳担当だ。


(アスカ、お前がやると瞬殺しちゃうから、ここはサポートに回ろう)


(うん、そうする。)


「私は万が一の時に魔法でサポートしますね」


 アスカが自分の役割を確認したところで、戦闘が始まった。


2本撃ちダブルショット!」


 エリックの弓から力強く放たれた2本の矢が、ブラッドベアーの背中に刺さる。相変わらずいい腕前だ。


「風よ、敵を押しつぶせ。風の圧力エアプレッシャー


 突然の痛みに咆哮をあげるブラッドベアーが、さらに上からの目に見えない圧力で動きが鈍ったところに、レスターが突っ込んで行った。


「双極斬!」


 レスターも初っぱなから必殺技を放った。Dランクの彼らにとってC級の魔物は格上なので、最初から出し惜しみなしの全力で当たるのだ。


 レスターの双極斬で胸に2本の傷を受けたブラッドベアーだったが、さすがはC級の魔物、致命傷にはならず逆にレスターに向かって、左右の腕を交互に振り下ろしてきた。

 レスターは最初の一撃を剣で受け、次は身を捻って何とか躱す。そのままの勢いで橫に転がり、ブラッドベアーと距離を取った。ブラッドベアーとレスターの距離が空いたところで、エリックの矢とシーラの魔法がブラッドベアーに襲いかかる。

 ブラッドベアーはいくつもの傷を増やしていくが、いずれも致命傷にはなっておらず、手負の魔物は執拗にレスターへと迫っていく。


「3時の方向、何か来ます。おそらくブラッドベアーです。真っ直ぐにこっちに向かってきます。速いです」


 レスターは、アスカの報告を聞いてしまったという顔を見せた。ブラッドベアーが1体ということで、油断していたようだ。その1体を倒すのに、思ったより時間がかかってしまっている。時間がかかれば当然、他の魔物が気づく可能性も増える。敵の増援を想定していなかったことを後悔しているのだろう。


(どうするのお兄ちゃん?)


(今の3人じゃ、ブラッドベアー2体は厳しい。こっちに向かってるのはアスカが倒した方がいいな)


「新手は私が引き受けます。3人はその1体を確実に倒してください」


 アスカの言葉にレスターが苦虫を潰したような顔になった。戦闘中だけあって、返事をする余裕もないようだ。そして、彼等は自分たちだけでは、2体のブラッドベアーは倒せないとわかっているのだろう。そして、アスカに任せる他にないことが悔しいのかもしれない。


 アスカは、エリックとシーラにレスターを任せ、新しく来たブラッドベアーが飛び出してくるであろう場所を予測する。アスカは出来るだけ早く倒して、3人のサポートに戻ろうと考えているようだな。


「ガァァッ!」


 木の間から叫び声を上げて、2体目のブラッドベアーが飛び出して来た。その直後、石でできた壁にぶち当たる。もちろんアスカが土操作で作り出した石の壁ストーンウォールだ。


「ギャワァ!?」


 自らの速さが仇となり、石の壁ストーンウォールに頭をぶつけ脳しんとうを起こしたブラッドベアー。そこにアスカの岩石衝突ロックインパクトで生み出された巨大な岩が襲いかかり……逃げる間もなくブラッドベアーは押しつぶされ、絶命した。


「こちら終わりました」


「「「早すぎ!」」」


 3人の声がハモる。戦闘中なのに、先ほどよりずいぶん余裕があるようだ。その後、アスカがサポートするまでもなく、レスター達は3人でブラッドベアー1体を倒しきったのだった。

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