第17話 狩りの成果
「お勤めご苦労様です、クロフトさん」
「おー、アスカじゃないか。その調子だと無事冒険者になれたみたいだな」
アスカを見た途端、厳しい顔つきで辺りを見渡していたクロフトの口元がほころぶ。その顔を見るとこっちも安心するんだよね。『今日も無事に街に帰ってきたぞ』って感じで。
「おかげさまで、いいパーティに入れてもらうことができました」
アスカも俺と同じ印象を抱いているようで、クロフトを見ると安心した顔をしてる気がする。この人が最初にあったとき以来、いつもアスカに優しくしてくれるからだろうか。
「なるほど。レスターのところはバランスもいいし、まだ若いが礼儀もしっかりしている、将来有望なパーティーだ。いいところに入れたな」
クロフトがレスターの方をチラッと見て、笑いながらそんなことを言った。そうか、クロフトもレスター達の実力を認めていたのか。
「ハハッ、クロフトさん、俺らだけの時にはそんなに褒めてくれたことないじゃないですか。急にどうしたんですか?」
おや? レスターの発言で何だか雲行きが?
「もしかしてアレじゃないですか? アスカが可愛いからいい人のフリしてるんじゃ?」
何!? エリック、今なんて言った? アスカが可愛いからだと!? 確かにその通りだが、お前まさかうちのアスカを狙ってるんじゃないだろうな!?
「穢らわしい」
うぐっ!? シーラの呟きが俺を含めた男達の胸にクリティカルヒットだ……
「こいつらたまに褒めたらこれだ。前言撤回だ。全然礼儀正しくなかったな……」
クロフトさんが本気で落ち込んでいる。シーラ、たぶんお前のせいだぞ。
「これ、お借りしたお金です。このお金のおかげで、美味しいご飯を食べることができました。ありがとうござました」
そんな気まずい雰囲気を吹き飛ばすかのように、アスカがお礼を言ってお金を返そうとしたのだが、急に真面目顔に戻ったクロフトはそれを受け取らず……
「お金はいい。それより、アスカが冒険者としての実力がついた時に、困っている人がいたら助けてあげてほしい。アスカにはそんな人になってほしいんだ」
おお、クロフトがかっこいい。大人の男だ。俺もこんなセリフ言ってみたい!
「クロフトさん、今日は本当にどうしちゃったんですか? 何か悪い物でも食べたんじゃ?」
だが、そんなクロフトをレスターが本気で心配しているようだ。
「おいおい、俺はいつもこんな感じだろう?」
「「「いやいや、それはない!」」」
即座に3人に否定され、クロフトは思わず苦笑いだ。どうやら、本当にアスカの前だからいい顔をしていたのか。それにしても、レスター達がクロフトさんと仲がよさそうでよかった。
「クロフトさん、そういうことでしたらお金はいただいておきます。私もクロフトさんみたいに、困っている人を助けられる人間になれるように頑張ります」
「おう、そうしてくれや」
アスカだけは真面目に聞いていたようだ。アスカの真剣な顔に、クロフトが照れたようにそっぽを向いてしまった。まあ、普段のクロフトがどうであれ、兄としても妹が優しい人間に育ってくれるならありがたい。
(ありがとうクロフト、いい仕事してますよ!)
町に入りギルドに着くまでは、4人はクロフトの話で盛り上がっていた。意外にも彼は結婚していて、小さなお子さんもいるそうだ。くそ、リア充だったのか! お礼を言って損した気分だ!
そんな俺の気持ちとは関係なく、レスター達は冒険者ギルドの扉をくぐり、真っ直ぐ受付カウンターを目指す。
「クエスト達成の確認をお願いします」
そう言って、リーダーのレスターは受付カウンターでオークとジャイアントボアの討伐証明部位を出した。
「確認しました。2つのクエスト達成の報酬で10万ルークになります」
受付で報酬を受け取った4人はほくほく顔でそのまま素材買取カウンターへと向かう。そこで順番に素材を置いていくのだが……
(あっ!! アスカ、そのリュックからジャイアントボアを出すな!)
「えっ?」
「あっ!?」
買い取りカウンターの受付のお姉さんとアスカの間の抜けた声が、偶然、一瞬静かになったギルド内に響き渡った。
(ごめんね、お兄ちゃん。みんなと一緒にいるときの感覚で……)
(いや、俺の忠告が遅かった。ごめんよ)
「えーと、今、そこのお嬢さんの小さな小さなリュックから、大きな大きなジャイアントボアの素材が出てきたように見えたのですが……私の目がおかしいのかな?」
受付のお姉さんが可愛らしく目をこすった後に、カウンターの上にあるジャイアントボアとアスカを何度も見返している。
「お、お姉さん疲れてるんだよ。あんな小さなリュックから出てくるわけないじゃん」
引きつった顔のエリックがすかさずかばってくれているが、これはかえって逆効果では?
「そ、そうですわよ。ほら、こっちの鞄から出しましたわよ」
シーラも話を合わせてくれているが、分かりやすいくらい動揺している。いつもの冷静なシーラはどこへ行った!?
「そ、そうですよね。失礼いたしました。この買い取りが終わったら少し休憩させてもらいます」
どこからどうみても三文芝居だと思ったが、意外にも受付のお姉さんは信じてくれたようだ。それほどこの鞄の存在が信じられないと言うことか。
「あはは、俺もそれがいいと思うよ。さっさと査定を終わらせちゃいましょう!」
出遅れたレスターが乾いた笑いを浮かべながら、受付のお姉さんに買い取りを進めるように促す。
「では、ジャイアントボアの皮と牙を3万ルークで……おかしいな、お嬢さんの横にジャイアントボアの素材が、あと4体分並んでいるように見えます。ちょっと幻覚まで見えてきたので、担当を代わってもらって休憩してきます」
そう言って受付嬢は奥に行ってしまった。
「アスカ!何をなさってるのですか!」
「えっ、だってエリックさんがどさくさに紛れて出しちゃえって……」
エリックのやつ、いつもはボケっとしてるのに、なぜこんな時に限って気がつくんだ、そんなところに!
「エリック!余計なこと言わないでください!」
「へへ、ごめん」
シーラももっと言ってやれ!
「とりあえず、新しい担当が来る前に全部出しておくか」
担当が代わってしまうのならばと、レスターの言葉でそれぞれ持っていた素材を出し始めた。本当にこいつらは図太いというか何というか……
「お待たせいたしました。えーと、オークの毛皮と肉と牙、ブラックウルフの牙ですね。合わせて18万ルークになります」
新しく来た担当がすぐに査定をしてくれたおかげで、無事に素材のお金も手に入れることができたようだ。
「ありがとうございます。それでお願いします。」
レスターが代表してお金を受け取り、いったん買い取りカウンターを離れた後、先ほどの10万ルークと合わせて分配してくれた。
「ひとり7万ルークか。大金だね、レスター。」
エリックが手に入れたお金を数えながら、嬉しそうな声を漏らしている。レスターの方なんて見ちゃいないぞ。
「ああ、1日で稼いだ最高額じゃないか?」
そのレスターもエリックの方を見ずに返事をする。
「せっかくだから装備でも新調しようかしら」
さすがにシーラは……何かを指折り計算しているな。すでにめぼしい装備は調査済みってことか。抜け目がない。
「それがいいね。僕も丁度新しい弓が欲しかったんだ。」
「よし、明日はクエストを受けずにそれぞれ好きなことをやる日にしよう」
エリックの一声が決め手となり、明日は自由行動になることが決まってしまった。とは言え、ここで1日もらえるのはこちらとしてもありがたい。ちょっとやりたいこともあったからな。
その後、みんなで夕食をわいわい食べてから、エリック達と別れ宿に戻った。
(アスカ、少しお金も手に入ったし、明日は買い物に行こう。そして午後からはスキルの実験をしてみよう)
(うん、わかったわ、お兄ちゃん。一緒に買い物なんて、あの日以来だね。楽しみ!)
最後の最後に最高の幸せが待っていた1日でした。
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