第16話 なんかちがーう! ○

「今、何かおかしなことが起こりませんでしたか?」


「なぜかジャイアントボアの死体が突然消えたよね?」


「シーラもエリックも見てたなら、俺の見間違いではないよな?」


 えーと、嫌な予感がします。『空間拡張が付いてるリュックが珍しい』とかじゃないといいんだけど……また俺のアドバイスが裏目に!?


「ちょっといいかしら? そのリュック、明らかに見た目で入る以上の物が入ったように見えたのですが、いったいどこで手に入れたのでしょうか?」


(お兄ちゃん! やっぱり目立ってるじゃない!)


(すまない。こんなはずでは……)


「えーと、あのー、実はですね……私には兄がいたのですが、少し前に事故で亡くなってしまって……兄は一緒には暮らしていなかったのですが、高レベルの冒険者だったらしく、死ぬ直前に私にこのリュックを残してくれたのですよ」


 どこかで聞いたような話だな。あっ、そうか、向こうの世界で死ぬ前に買った誕生日プレゼントもリュックだったな。あっちは可愛いピンクのキャラクターものだったが。やばい、覚えててくれたのか。泣きそうだ。

 俺が自分で遺品で誤魔化せって言ったのにね。


 アスカの咄嗟の言い訳に思わず涙腺が緩みかける俺。あ、いや、涙腺なかったわ……


「そういった魔道具があるのは聞いたことがあるわ。実際に見たことはなかったけど、古代の遺跡とかでごく稀に発見されるらしいの。ところでそのリュック、ギルドの装備品売り場にあるのと全く同じに見えますし、まだ値札が付いているのはなぜかしら?」


 ぎくー、値札外すの忘れてるやないかーい。だめだ、言い訳が思いつかない。


「ええと、それは……」


 アスカが返答に困ってるとレスター達が助け舟を出してくれた。


「なぁ、シーラ。アスカの周りで不思議なことが起こっているのはわかるんだが、もう突っ込んで聞くのは止めないか?

 アスカが悪い人じゃないことはわかってるし、アスカのおかげでこんなに早くスキルを覚えることができたんだ。アスカが困ってパーティーを抜けたら、それこそ損じゃないのか?」


「僕もレスターの言う通りだと思う。僕の場合は勘だけど、アスカを敵に回したらいけない気がする」


 いいぞ2人とも! エリックは俺の妹を化け物扱いしてるような気もするが、今は許そう!


「はぁ、そうね。その通りだわ。真実を知るのが怖くなるぐらいだから、私達の手に負える中身ではないでしょうし」


「みなさん、いいんですか?」


「いいって、いいって。不思議なことが起こっても、アスカはアスカ」


 エリックの楽天的な考え方が、今はとってもありがたい。シーラも何か吹っ切れたように笑顔になっていた。


「ありがとう……みなさん」


 アスカは少し泣いていた。俺は盛大に泣いていた。あ、いや、ごめん、涙腺なかったわ。


(ありがとう。最初に組んだパーティーがこのパーティーで本当に良かったよ)


 一連のやりとりを見て、心の底からそう思う抜けてる兄でした。


「改めて、頑張りますのでよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく。もう何も言わないから遠慮しないでどんどん行こう!」


 リーダーがこの話をまとめて、狩りを再開することにしたのだが……




「今度は私がみなさんをサポートします!」


 アスカが、ジャイアントボアの群れに広範囲魔法を放つ。突然足元が泥沼と化し、身体の半分ほどが埋まるジャイアントボア御一行。身動きが取れなくなったジャイアントボアの群れに、3人が淡々とトドメを刺していく。


「双極斬……」


2本撃ちダブルショット……」


風の刃ウインドエッジ……」


「「「なんかちがーう!!」」」


 ジャイアントボアにとどめをさしていた三人が同時に叫び声を上げた。


「楽は楽だけど、動けない相手にこれは、ただの虐殺じゃないか!」


 レスターはなぜか涙目だ。


「狩りと言うより作業だね」


 エリックも苦笑い。


「もう、何が起きても驚きませんわ」


 シーラにいたっては悟りを開いているようだ。


「うーん、サポートも難しいですね」


 そして、小首をかしげるアスカはまるで天使の生まれ変わりだった。 


 結局、この後ジャイアントボアを5体、ゴブリン5体、ブラックウルフ6体を倒して今日の狩りを終えた。エリック達3人は1つレベルが上がり15に、アスカは2つ上がりレベル12になった。


名前(ヒイラギ)アスカ 人族 女

 レベル 12

 職業 賢者

 ステータス

 HP  32(140)

 MP  42(150)

 攻撃力 32(140)

 魔力  52(160)

 耐久力 32(140)

 敏捷  42(150)

 運   42(150)   

 スキルポイント 126

スキル

 (剣術 Lv2)

 (炎操作 Lv2)

 (風操作 Lv2)

 (水操作 Lv2)

 土操作 Lv1(土操作 Lv2)

 (氷操作 Lv2)

 (雷操作 Lv2)

 (光操作 Lv2)

 (闇操作 Lv2)

 (重力操作 Lv2)

 (時空操作 Lv2)

 治癒 Lv1(治癒 Lv2)

 (全属性耐性 Lv2)

 (全状態異常耐性 Lv2)

 (思考加速 Lv2)

 (身体強化 Lv2)

 (無詠唱)

 (魔力増大)

 (消費魔力半減)

 (魔力回復倍化 Lv2)

 (経験値倍化 Lv2)

 (経験値共有 Lv2)

 (スキルポイント倍化 Lv2)

 (ステータス補正 Lv2)

 (自動地図作成)

 (鑑定 Lv2)

 (隠蔽 Lv2)

 (探知 Lv2)

 (危機察知 Lv2)

 (鍛冶 Lv2)

 (錬金 Lv2)

 (付与 Lv2)


(アスカ、そろそろステータスも高くなってきたから、普段の動きも気をつけなきゃだね。身体強化でさらに強化されてるから)


(わかったわ、お兄ちゃん。自分でも思った以上に強く、速く動けちゃうから気をつけないとと思ってたの)


 街に戻る時に気になったことを伝えておいたんだけど、アスカもちゃんと気がついていたのか。俺がアドバイスするまでもなかったな。さすが、自慢の妹だ。


 


 4人が町に戻ってくると、衛兵のクロフトさんが門の前に立っていた。


(あ、お金を返さなきゃね、お兄ちゃん)


(そうだった。改めてお礼を言っておこうか)

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