第12話 あなたは何者? 

 ギルドに戻った私達はすぐに受付に行き、レスターが代表して討伐の報告をした。


「討伐依頼-ゴブリン20匹、確かに達成確認いたしました。これは報酬の4000ルークです」


 クエストの達成を確認した受付嬢が、大銅貨を4枚レスターに渡している。


「まず、討伐報酬は4人で1000ルークずつ分けよう」


 アスカもレスターから大銅貨1枚を受け取った。何気にこの世界に来てから、いやアスカにとっては人生初の報酬だね。兄としても感慨深い。アスカも大銅貨をギュッと握りしめている。


 レスターは大銅貨を分けた後、今度は買い取りカウンターに向かう。


「ちょっと離れるわね。私が持ってる素材も買い取りに出しておいてね」


 そう言って、シーラは近くのエルフ仲間のところへ行って何やら話し始めた。シーラの荷物を受け取った3人は、買い取りカウンターへ行き、魔物の素材を並べていく。


「スライムのコア6つとダークウルフの牙24本、それとこれはジャイアントボアの牙と毛皮じゃないですか! あなた達が倒したので?」


 レスター達のランクを知っているのだろうか、ギルドの職員が驚いて聞いてきた。


「はい、運がよかったのもありますが、なんとか倒すことができました」


 レスターが少し誇らしげに報告している。いや、実際素晴らしい成果なんだろうな。彼らはEランクパーティーだ。Dランクの魔物は明らかに格上だからね。


「D級の魔物を倒したのですから、Dランクに上がるのも時間の問題ですね!」


 受付嬢の褒め言葉に、そばで聞いているエリックも嬉しそうだ。


「それでは全部合わせて4万ルークになります」


「えっ、そんなに? さすがD級の素材だな」


 ドヤ顔していたレスターが大袈裟に驚いているってことは、なかなかの金額なのだろう。


「うん、うん。いつもは多くても1万ルークだもんね」


 なるほど、いつもの4倍も稼いだのか。それなら、エリックが満面の笑みを浮かべているのも納得だな。


 今度は銀貨を4枚受け取ったレスターは、エリックとアスカに1枚ずつ渡していく。アスカの初給料は1万1千円か……

 俺の2日分のバイト代より多いな……


「さて、僕たちは一息ついてから食事をとるんだけど、アスカも一緒にどうかな? 場所はここの酒場だけど」


 何! 俺が感傷に浸っている隙に、レスターがアスカを食事に誘っているだと! まさか、下心はないだろうな!? 兄貴センサーが危険信号を発しているぞ!


「はい、お願いします」


(アスカー! お兄ちゃんに相談はしてくれないのか!?)


(食事くらいいいでしょ! お世話になったんだから)


(妹が、妹が遠くへ行ってしまう~)


(行くわけないでしょ。これからもずっと一緒なんだから……)


 ――――――悪いなレスター君。君の勝利はなさそうだ。


「それじゃあ、また後で」


 俺達の脳内会話を知るよしもないレスターとエリックは、少し離れたところで誰かと話し込んでいたシーラに声をかけギルドを出て行った。




 俺とアスカもギルドを出て近くの宿を探す。途中で雑貨と服を買い、最初に目に入った宿で部屋を取った。

 1泊2000ルークで朝食付きだ。よかった、ちゃんとお金を稼ぐことができて。クロフトから1000ルークはもらっていたけど、それだとセキュリティが甘そうな宿しか取れなかったからね。




 部屋に入ったアスカは、先ほど買った服に着替えてから(ちなみにアスカは、俺自身を多少操作できるようで、着替えの時は視界をオフにされてしまった)ギルドに戻ると、テーブルについている3人がこちらに手を振っているのが見えた。


「遅くなりました」


「いやいや、僕らもさっき着いたばっかりだよ。もう注文は済ませているけどよかったかな?」


 くっ、さすがはリーダー。なかなか手際がいい。悔しいが、気の利く男は好かれるんだよな。


「はい、ありがとうございます」


 アスカが席についてすぐに、オーク肉のステーキやレタスに似た植物が入っているサラダ、スープや飲み物が運ばれて来た。驚いたことに3人ともアルコールを頼んでいるようだ。彼らは一体何歳なんだろう、鑑定では年齢はわからないからな。もちろんアスカはジュースを飲んでいるが。


 おなかも膨れ、会話が増えてきたところで、急にシーラが真面目な顔をしてアスカを見つめる。そして……


「それで、アスカ。あなた、本当は何者なの?」


「えっ!? 私ですか?」


 急な展開にアスカが動揺している。ついでに俺も動揺する。


「急にどうしたんだ、シーラ」


「そうだよ。何かおかしなことでもあったのかい?」


 レスターやエリックもシーラの突然の発言に困惑しているようだ。


「今日の狩りは、おかしなことばかりだったわ。あなた達は気づいてないようだったけど、突っ込みどころが多すぎてどこから話していいのやら」


「えっと、私は治癒が使える普通の子だと思うのですが」


 アスカも、自分で普通の子と言ってしまっている辺りが怪しさ満載なのだが、動揺しているせいか不自然さに気づいていない。目も泳いじゃってるし。


「いいわ、1つずつ説明するね。まずその治癒がおかしいのよ。治癒Lv1の効果は擦り傷を治す程度なのよ」


「えっ! そうなのか? でも僕がジャイアントボアにつけられた傷はかなりの切り傷だったはず。でも、完璧に治ってる」


 レスターも知らなかったのか、普通に驚いている。そうだった。自分でアスカに忠告したのに、あの時はかなり切羽詰まっていたから忘れてしまっていた……


「そうなのよ。あれは明らかにLv2相当の効果だったわ。おまけにあなた、詠唱してなかったわよね?」


(あっ! 確かに!!)


(『確かに!』じゃないよお兄ちゃん。どうするの?)


(えーっと、そのー、ごまかせ!)


「えっ!? そうだったかな? ちょっと覚えてないかなー?」


 アスカ、嘘が下手くそだな……

 いや、俺のせいでこんな状況になってるんだけどね……


「さらに言わせてもらえれば、あなた魔物が視界に入る前からその存在に気づいてたわよね? わざわざ、視界に入るのを待ってから発見してたように見せてたけど、必ず出てくる前から視線がそっちを向いてたし」


「えーと、それは、勘かな?」


(頑張れアスカ。お兄ちゃんは応援しているぞ)


(……)


「まだあるのよ。ジャイアントボアが木に体当たりする直前に、転んだわよね。あなた達二人は偶然転んでくれて助かったって言ってたけど」


「えっ!? 偶然じゃないの? それもアスカが何かしたっていうの?」


 1番近くで見ていたはずのエリックが驚いて声を上げる。


「えぇ、あのとき魔力の流れを感じたわ。そしたら、ジャイアントボアの足下の土が急に柔らかくなったの。それに足を取られて転んだのよ」


「まさか!?」


 レスターは未だに信じられないといった感じだ。俺もアレがバレていたとは、信じられない。


「それで、どうしても気になったので申し訳ないと思ったけど、鑑定スキルを持っている仲間がいたから、あなたを鑑定してもらったの。そしたらその人なんて言ったと思う?」


「治癒以外のスキルも持っていた?」


 少し考えてレスターが答える。まさか、高レベルの鑑定持ちにバレてしまったのか!?


「いいえ、逆よ。『治癒以外のスキルはない』って言ったのよ」


「なーんだ、びっくりした。君の勘違いだって話だったのか。危なくだまされるところだったよ」


 レスターもエリックの意見に同意と言わんばかりに、ほっとした顔をする。しかし、俺は今までの話と、その鑑定の結果に愕然とした。


「違うわよ。勘違いのわけないじゃない。私はこう見えても王都にある学園に通っていたのよ。

 スキルについても一通り勉強してるから間違いないわ。結論から言うとアスカ、今日の様子を見るだけでも、あなたはLv2相当の"治癒"と、それ以外にも"探知"、"土操作"、"無詠唱"、そしてそれらのスキルを隠す"隠蔽"を持ってることになるのよ。

 レベル2のあなたが5つもスキルを持っていたなんて、到底信じられないけど、そうじゃないと今日のことは説明できないのよ」


 そう、隠蔽しているスキルを、バレないと思って平気で使わせていたのが間違いだった。慎重に行動していると思ってたのに、めっちゃばれてるやん。ごめんよ、アスカ。お兄ちゃんが間抜けだったよ。


「そして最初の質問に戻るわ。アスカ、あなたは一体何者なの?」

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