第10話 ゴブリン討伐 ○

 ソーマの森は、セルビスの町から東に10kmほど歩いたところに広がる、広大な森のことである。森の中心部にはA級の魔物が徘徊しているが、外側はF級の魔物が多く、奥にさえ入らなければ初心者でも十分に狩りができるのだ。


 外側にも時々、D級の魔物が現れることがあるようだが、その程度であれば、慎重に行動すれば問題ないだろう。むしろ、アスカ以外の3人はいずれもEランクなので、上手くやればD級の魔物でも倒せるかもしれない。


 森へと移動中に、リーダーのレスターが魔物とギルドについて教えてくれた。魔物にはF級からS級までのランクがあり、ランクが1つ上がるごとに強さが格段に上がるそうだ。


 A級ともなると1匹で1国の軍事力に匹敵する強さがあると言われている。さらにS級ともなると、限られた英雄と呼ばれる者達でないと相手にすらならない。現在S級に指定されているのは、魔王や竜王などだ。まさに人知を超えた強さらしい。


 ギルドが定めるランクは、依頼をこなしてポイントを貯めることで上がるが、同ランクの魔物を倒せる力がなければ、そのランクに上がることはないとのことだ。


 つまり、いくら依頼を受けても、お使いばかりではランクは上がらないというわけだ。さらに、最高S級の魔物を単独で討伐できる力がある者に、SSランクが与えられるらしいが、今までSSランクに到達した冒険者はいないようだ。Sランクの冒険者でさえも、全世界で10人ほどしかいないそうだ。


 ちなみに今回のゴブリン退治も、レベル上げと同時にギルド発注のクエスト対象でもある。よって、討伐証明部位を持って行けば、ランクを上げるためのポイントになるらしい。


 冒険者として生きていくなら、ランクを隠して行動することは難しそうだな。そうすると、あまりランクを上げない方が目立たなくていいのか?

 しかし、強くなるためには、高ランクのパーティーに入るのが効率がよさそうだし、少し時間をかけて考えてみるか。


 レスターの話を聞きながらそんなことを考えていた。


 


「ここが森の入り口だ」


 目の前に広がる広大な森を前にして、先頭を歩いていたレスターが足を止める。


「ここからは慎重に行動しよう。さっき確認したとおり、先頭は僕が務める。2番手はシーラ、3番手がアスカ、そして殿はエリックだ」


 リーダーのレスターが確認したのは、耐久力に劣る2人を【戦士】が守るという、オーソドックスな陣形だ。


「相手より先に発見できたら。それだけで有利になる。魔物に気がついたら、遠慮なく教えてくれ」


(アスカ、お前には探知スキルがあるから、誰よりも先に魔物の気配に気がつくはずだ。Lv1でも半径100mは探知できるはずだが、あまり早く伝えすぎると疑われてしまう。視界に入ってから教えるんだ。

 あと、お前の治癒はLv1だが、魔力増大のスキルのおかげで効果が1段階上がっている。Lv2相当なので、かなりの切り傷も治せるはずだが、緊急時以外は治しすぎないように気をつけよう)


(うん、わかった。気をつけるね)


 早速、俺自身の探知に3匹のゴブリンが引っかかった。アスカも気がついたようで、俺が教えたとおり、ゴブリンが見えたところでレスターに伝える。


「右の奥にゴブリンが3匹見えます」


「む、本当だ。よく見つけたね、アスカ。エリック、ここから狙えるか?」


「オーケー。見えた。先頭のゴブリンから狙う。こっちに気がついたら頼むよ」


 アスカは100m前から探知してるので、当たり前だが見つけるのは敵より早い。


 エリックの準備ができたところで、シーラが風を止める。まだスキルを所持していないのでできることは少ないが、魔力が高いので弱い風を止めることくらいはできるようだ。【魔法使い】や【神官】はスキルを覚えるまでが大変そうだな。


「撃つよ」


 エリックが弓を放つ。狙い澄まされた矢が先頭にいたゴブリンの頭に突き刺さった。


「ギッ!?」


 突然、頭に矢が刺さり倒れる仲間を見て、後ろのゴブリン達が驚きの声を上げた。混乱しているゴブリン達の間に、うまく隠れながら近づいたレスターが飛び込み、1匹の心臓に剣を突き刺す。


 レスターはそのまま最後に残ったゴブリンと数回剣を打ち合わせ、最後は首をはねてとどめを刺した。

 F級のゴブリンとはいえ、3匹をあっという間に倒してしまったところを見ると、なかなか場数を踏んでいるようだ。ケガがないので当然アスカの出番もない。


「よし、この調子でどんどん倒していこう!」


 何度か戦闘を繰り返す内にアスカも慣れてきたようで、向こうが気づいていないときなんかはわざと教えず、仲間に見つけさせる余裕っぷりだ。教え方も洗練されてきて、さっきなんかは『10時の方向』なんて専門用語まで使っていたし。


 5匹目のゴブリンを倒したところでファンファーレが鳴り響く。


「あっ、レベルが上がりました」


 アスカがメンバーに報告すると……


「「「おめでとう!」」」


 3人の声がハモった。


「ありがとうございます。パーティーっていいですね。レベルが上がったときに『おめでとう』って言ってもらえるので」


「ふふ、そうね。そういう考え方もあるのね」


 アスカの率直な感想に、シーラがなぜか感心したように頷きながら答えている。


 さて、レベルが上がったら恒例の隠蔽大会だ。というわけで早速ステータスを偽装する。


 名前(ヒイラギ) アスカ 人族 女

 レベル 2⇒3

 職業 なし⇒神官

 ステータス

 HP  12⇒14(30)

 MP  22⇒24(40)

 攻撃力 12⇒14(30)

 魔力  32⇒34(50)

 耐久力 12⇒14(30)

 敏捷  22⇒24(40)

 運   22⇒24(40)   

 スキルポイント 9⇒15

 スキル

 (思考加速 Lv1)

 (身体強化 Lv1)

 (全状態異常耐性 Lv1)

 (全属性耐性 Lv1)

 (経験値倍化 Lv1(2倍))

 (スキルポイント倍化 Lv1(2倍))

 (ステータス補正 Lv1(2倍))

 (鑑定 Lv1)

 (無詠唱) 

 (魔力増大) 

 (消費魔力半減)

 (風操作 Lv1)

 (炎操作 Lv1)

 (水操作 Lv1)

 (土操作 Lv1)

 (氷操作 Lv1)

 (雷操作 Lv1)

 (光操作 Lv1)

 (闇操作 Lv1)

 (重力操作 Lv1)

 (時空操作 Lv1)

 (隠蔽 Lv1)

 治癒 Lv1

 (探知 Lv1)

 (危機察知 Lv1)

 (経験値共有 Lv1)

 (魔力回復倍化 Lv1)

 (自動地図作成)


 治癒魔法を何度か使ったからだろうか、職業が【神官】に変わっている。それに、各種補正、倍化のおかげで順調にステータスが上がっているな。

 スキルをLv2にするために必要なポイントはレベル8でたまるので、できれば今日中にそこまで上げたいが、このペースでは少々難しいか。D級の魔物を倒せば一気に上げれそうだが……


「2時の方向、大きなイノシシのような魔物がいます」


 アスカが、明らかにゴブリンとは格が違うであろう魔物を発見した。ちなみに俺は偽装大会中で気がつかなかった……反省


「あれは、D級のジャイアントボア。あいつは危険だ。なぜこんな外側に……」


 レスターの言葉にパーティーに緊張が走った。


「でもでも、まだ向こうは気づいていないよね。どうやら1匹しかいないようだし、なんとか倒せないかな? 上手く倒せれば、素材も経験値もかなりおいしい相手だよ」


 エリックも危険は承知のはずだが、D級の相手に先手をとれるというめったにないチャンスと、経験値や素材の魅力につられ戦う気だ。


「しかし……」


 パーティーの命を預かるリーダーとしては無理ができないのだろう、レスターはレベルこそ低いがリーダーとしての素質が備わっているように見える。


「シーラはどう思う?」


 レスターも迷っているようで、状況分析が得意なシーラに意見を求めた。


「確かに危険な相手ではありますが、みんなで少しずつダメージを与えれば倒せる可能性はあるでしょう。大きなケガにだけ気をつければ、アスカさんの治癒もありますし、何より木が生い茂っているこの場所では、あのジャイアントボアは上手く動けないはずです」


 シーラは意外と倒す気満々のようだ。やっぱり魔法使いとしては早くレベルを上げて、スキルを覚えたいのだろう。仕方がないよね。スキルを覚えるまでは、あまり戦闘に貢献できないようだし。


「よし、じゃあ作戦を聞いてくれ。まずエリックは少し離れてからジャイアントボアの目を狙って矢を放ってほしい。

 その後は僕と2人で牽制しながら狙われた方は回避に専念、残りがその隙に攻撃してHPを削る。

 シーラは隠れながら、ジャイアントボアの突進のスピードを向かい風で少しでも緩めてくれ。

 アスカも隠れながら、いつでも治癒を使えるように準備しておいてね」


「オーケー」

「わかったわ」

「わかりました」


 レスターの作戦を聞き、3人が同時に答える。せっかくなので、俺もアスカにアドバイスをしてやるか。


(アスカ、隠れながらだからバレないように土操作を使おう。タイミングを見計らって、突進したジャイアントボアの足下の土を柔らかくするんだ)


(わかった。やってみるね)

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