第8話 冒険者登録

※お金を紙幣から貨幣に変更しました。

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 町の入り口で左右を見回すと、町をぐるっと取り囲むように防壁が築かれている。その防壁の一部が門になっており、槍を持った衛兵が1人立っていた。町に入る人間をチェックしたり、魔物が町の近くに現れないか見張っているのだろう。


「お嬢さん、今日はいったいどうしたんだい?」


 明るい金髪に、優しい笑顔の衛兵が声をかけてきた。小さな女の子が荷物もろくに持たず現れたのだ。誰がどう見ても、何か事情があると考えるのが普通だろう。

 それでも衛兵の聞き方が優しかったのは、アスカの見た目のおかげだろうか。そう、兄バカを差し引いても可愛いのだよ、我が妹は。


「この町を目指して村から出てきたのですが、途中でブラックウルフに襲われて……お父さんとお母さんは私を逃がすために……」


 本当に両親を亡くした時を思い出しているか、その目には涙が浮かんでいる。


「それは大変なことが……」


 衛兵も言葉を失う。


「すぐに助けに行ってあげたいが、私はここを離れるわけには……」


「しばらく前のことですし、もう手遅れだと思うので……お気持ちだけでも嬉しいです」


「そうか、それは……残念だ。それで、この町に頼れる人はいるのかい?」


「いえ、両親以外に身内はいませんし、こちらの町には知り合いもいません」


 転生した俺たちに身内などいるはずもないので、こう答えさせるしかない。


「そうか。しかし、女の子の独り身となると……」


 そういう話の流れになるだろうと予測しているので、当然答えも用意している。


「私は治癒のスキルを持っているので、どこかの冒険者パーティーにでも入れてもらおうかと思ってます」


「おぉ、その若さでスキル持ちなのか。レベルが高いわけではなさそうだから、生まれた時からのスキル持ちかな? 治癒スキル持ちは貴重だから、特に初心者パーティーには人気が高いはずだ」


 よしよし、予想通り治癒持ちは人気があるな。そのために治癒スキルだけ隠蔽していないのだよ。


「ただ、今から入れるパーティーがあるかどうかはわからないから、これを渡しておこう。食事と一泊の宿代くらいにはなるはずだ」


 そう言って衛兵は1枚の銅貨を渡してくれた。そこにはこの国の国王なのだろうか、口髭を蓄えた身分の高そうな男の顔が描かれていた。 


 今更だけど、言葉も通じるし文字も読めるんだな。これがわからなかったら辛いところだった。


「ありがとうございます。お金を稼ぐことができたら、必ず返しに来ます。あなたのお名前を教えていただけませんか?」


「私の名前はクロフトだよ。お金のことは気にしないで自由に使ってくれ。むしろ、これくらいのことしかできずに申しわけない。大抵はここにいるので、何か困ったことがあれば頼ってくれてもいい」


「はい、ありがとうございました」


 改めて衛兵にお礼を言ってアスカは町へと入って行く。ちなみにこの町は『セルビア』と言うらしい。


 この世界で初めて出会った人が優しい人でよかった。これなら、アスカも何とかやっていけるかもしれない。俺は町の衛兵に感謝しながら、アスカと共に町へと入っていった。




「わぁ!」


 行き交う人々、物売りの声、肉を焼くいい匂い、久しぶりに人々の生活を肌に感じ、自然と気持ちも高まってくる。あっ、嘘です。肉を焼く匂いは感じられませんでした。スキルなので……

 しかし、それはアスカも同じだったようで、この世界に来て初めて顔がほころんでいるように見えた。


(アスカ、まずは冒険者ギルドを探そう。そこで冒険者登録をして、パーティーを探しながらお昼ご飯を食べるといい。そう考えると、お金を渡してくれたクロフトさんには感謝だな)


(うん、優しい人だった。お金、ちゃんと返したいな)


 それに関しては俺も同じ考えだ。恩はしっかり返したいものだ。そのためにもまずは冒険者登録だ。アスカは近くにいた人に場所を聞き、冒険者ギルドへ向かった。





 冒険者ギルドはたくさんの人で賑わっていた。割合的には人族が多いようだが、よく見ると、獣人やエルフ、ドワーフといった『人族』以外の種族もそれなりにいるようだ。そのおかげで、どう見ても子どものアスカが変に目立たないのはありがたい。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」


 受付にいる猫耳のきれいな女の人が、笑顔でアスカに話しかけてきた。俺だったら緊張してろくに話しもできないほどの美人さんだ。自慢じゃないが、転生前の短い人生の中で彼女がいたことはないからな。


「冒険者登録をお願いします」


 だが、アスカはそれほど緊張することもなく受け答えできているようだ。美人と可愛いで何か通じ合うものでもあるのかな?


「それでは、こちらの用紙に記入をお願いします」


 美人の受付嬢から一枚の紙を渡され、名前や年齢、職業や所持スキルを記入していくアスカ。ステータスでは職業は【なし】になっているがどうすれば職業は決まるのだろう? アスカに聞いてもらおう。


「職業はあなたの行動によって決まります。武器を主体として戦っていれば【戦士】に魔法を主体に戦っていれば【魔法使い】になります。スキルを持っているのでしたら、そのスキルを使っていくことで職業が決まることもあります」


 そうすると治癒スキルをメインで使っていった場合、アスカの職業は【神官】になる可能性が高いわけか。まあ【聖女】っていう可能性も考えられるが。

 しかし、こっそり色々なスキルを使うと、職業にも影響が出そうだな。そうなった時は、職業も隠蔽しないと。


 必要事項を記入し少し待つとギルドカードができあがったようで、受付のお姉さんがアスカに差し出してきた。


「ここに触れて魔力を込めて下さい」


 言われたとおりに魔力を込めるとカードが淡く光って、アスカ専用のギルドカードが完成した。すごいな魔法って。


「こちらが冒険者カードになります。ギルドでクエストを受けるときや、クエストを達成し報告するときに提示していただくことになります。また、各国共通の身分証明書にもなりますので大切に扱って下さい」


 そう言われてアスカは緑色のカードを受け取る。ランクを上げてお金をたくさん稼ぐのもいいかもしれないな。


「冒険者についての説明は必要ですか?」


「はい、お願いします」


 おっと、ギルドでは冒険者について教えてくれるのか。俺の知識だけでは不安だったので、ここはしっかり説明を聞いてもらおう。


「冒険者には、強さや貢献度によってFからSSまでのランクが存在します。そちらの掲示板にクエストが貼ってありますが、受けることができるクエストは実際のランクの一つ上までです。ですので、FランクのアスカさんはEランクまでのクエストを受けることができます。

 クエストを受ける際は、掲示板に貼られているクエストを受け付けカウンターまで持ってきて下さい。


 また、クエストはパーティーで受けることもできます。パーティーは2人から6人まで組むことが可能で、それ以上はクランに所属していただくことになります。

 パーティーを組むと、魔物を倒した際に得られる経験値が共有されます。ただし、戦闘地域から離れている場合や、戦闘に貢献していない場合は共有の対象外になります。

 すでにパーティーを組んでいる場合は、リーダーがクエスト文書を持って来ることになります。


 単独さんがパーティーを希望する場合は、こちらの単独用の用紙に必要事項と希望するクエスト種類を書いて、そちらの専用掲示板に貼ってください。ちなみに専用掲示板にはパーティーメンバー募集の張り紙も貼ってあるので、気に入ったパーティーがあれば用紙を持ってきてください。こちらで仲介を行います。


 クエストで得られる報酬はだいたいの目安ですがFが1000~5000ルーク、Eが5000~1万ルーク、Dが1~5万ルーク、Cが5~10万ルーク、Bが10~30万ルーク、Aが50~100万、Sが500~1000万ルークです。


 同ランクのクエストであれば10回、一つ上のランクのクエストであれば5回達成するとランクが上がります。

 ただし、Aランクに上がるためには別途試験があります。Sランクに上がるためには、Sランクの魔物を単独で討伐できることと、ギルドマスターの承認が必要です」


 丁寧な説明のおかげでクエストやランクについて理解できた。

 ついでにお金についても何となくわかったぞ。小銅貨が10ルーク、そこから桁が上がるごとに銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨と上がっていく。つまり、金貨は100万ルーク、大金貨は1000万ルークだ。さらにその上に白金貨ってのがあるらしく、1億ルークなんだとさ。

 感覚的に1ルーク1円っぽいから、白金貨は1億円だな。いつかは手にしてみたいものだ。ちなみに、クロフトさんがくれたのは大銅貨でした。

 

 受付の説明を受けたアスカは、パーティー参加希望の用紙に必要事項を記入し、専用掲示板に貼り付けた。あとは他のパーティーからお誘いが来るのを待てばよい。


(それじゃあご飯でも食べたらどうだ?)


(うん、町に入って少し安心したからおなか空いちゃった)


 ここのギルドには一角が酒場兼食事処になっている。昼間からお酒を飲んでいる人たちもいるようだ。正直、食材はわからないのでアスカは適当に『ジャイアントボアの柔らか煮込み サラダ付き』を頼んだようだ。

 俺はスキルだからおなかなど減らない。その間、情報収集にいそしむことにしよう。

 食事をする可愛い妹をチラチラ眺めながら、鑑定スキルで冒険者の一般的なステータスを見まくるのであった。

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