第二章 冒険者編
第6話 転生 ○
~side アスカ~
気がつくと私は森の片隅に立っていた。それほど木が生い茂っている訳でもなく、辺りを見回すと遠くの方に道らしきものも見える。
「ここは?」
そう呟いてみるが周りに人の気配はない。
「お兄ちゃんとトラックに轢かれて……それから転生の女神様が現れて……そっか、ここはもう異世界なのね」
普通であれば信じられないような出来事だが、今置かれている状況を考えるとそれ以外に答えは出ない。
「確か、転生の女神様はお兄ちゃんがスキルになって私を導いてくれるって……お兄ちゃんいる?」
しかし、兄の声は聞こえてこない。身体は復活しないが、話はできると聞いていたのに。
「失敗したのかな……」
そう思った途端、不安が一気に押し寄せてきた。
ガサッ
少し離れた茂みから何かが動く音が聞こえた。
音がする方に目を向けると犬……にしては少々大きい、写真でしか見たことはないが、狼のような動物が3匹歩いているのが見えた。
何の戦闘力もない私が、先に見つけることができたのは偶然だった。これが逆ならば問答無用で襲われ、逃げることもできずに食べられてしまっていただろう。
3匹のうちの1匹が何かを嗅ぎつけたように振り向いた。
(見つかった。でも、逃げても無駄かな。向こうの方が足が速そうだし)
ひとりぼっちになってしまった段階で、生きる気力をなくしてしまった私が、逃げる気までなくしてしまうのは仕方のないことだよね。13歳になったばかりの私は、この目まぐるしい環境の変化についていけなかったみたい。
大きな犬。後から知ったことだがこの世界ではブラックウルフと呼ばれる魔物は、3~5匹の群れを作り狩をする。私を見つけた3匹は、今まさに獲物を見つけたと言わんばかりに駆け出した。
(あぁ、今度はここで死んじゃうのかな)
駆け出してきたブラックウルフを見た私はそう思った。その時……。
(すまない、遅くなった! 能力の把握に手間取っちゃって!)
不意に脳内に響く懐かしい声。
「お兄ちゃん!」
突然の叫び声に驚きながらも、今一番聞きたかった声が聞こえ、生きる気力を失った目に輝きが戻る。
(色々話したいことがあるが、今は時間がない。まず逃げろ! 時間を稼げれば俺が何とかする!)
俄然やる気が出てきた私は、くるっと振り向きブラックウルフに背を向けて、先ほど見えた道に向かって迷わず走り出す。
~side ショウ~
(よし、いいぞ。この間に必要なスキルを付ける。大丈夫、シミュレーションはバッチリだ)
スキルマスター能力発動
対象:ヒイラギ ショウ
スキル付与:並列思考 Lv1
思考加速 Lv1
鑑定 Lv1
……付与に成功
(よし、これでスキルの付与が格段に早くなるはず。続けて……)
スキルマスターの能力発動
対象:ヒイラギ アスカ
スキル付与:思考加速 Lv1
身体強化 Lv1
全状態異常耐性 Lv1
全属性耐性 Lv1
経験値倍化 Lv1(2倍)
スキルポイント倍化 Lv1(2倍)
鑑定 Lv1
無詠唱
魔力増大 Lv1
消費魔力半減
風操作 Lv1
……付与に成功
俺は自分に付けた並列思考と思考加速をフル活用し、アスカに今必要な最低限のスキルを素早く付けていく。俺は自由にスキルが付与できるが、俺自身がLv1のせいか、付与できるスキルも全てLv1しかない。
(システィーナの話では、最初に付くスキルはLvMAXのはずなのに! 転生が完全に成功したわけではなかったか?)
俺自身のスキルレベルが上がれば、付与できるレベルも上がりそうなものだが、そうするにはポイントをためなければならない。ちなみに、最大のLv5だと自然災害を遙かに超える力を発揮することができるって言ってたよな。
(どうだ、アスカ。何か変化があったか?)
「うん、お兄ちゃん。さっきからお兄ちゃんの声とは違う声が聞こえる。スキルを獲得したって言ってるみたい」
(よし、こっちも成功か。これであの狼どもを倒せるはずだ)
(アスカ、お前は風を操作できるようになった。鑑定スキルも付けたから使い方も解るはずだ。)
「あ、本当だ。解るよお兄ちゃん」
鑑定スキルは念じるだけで使えるので、アスカは自分のスキルの使い方を理解したはずだ。
(アスカ、風を操り、風の刃で狼を切るイメージだ)
アスカは言われた通りにブラックウルフに手を向けた。思考加速のスキルのおかげで、ブラックウルフの動きがスローモーションのようにゆっくり感じられる。まあ、自分の動きもスローモーションなのだが。
無詠唱と消費魔力半減のスキルが、イメージ通り風の刃を通常の半分の魔力で作りあげる。さらに魔力増大のスキル効果でLv1とは思えない威力が発揮された。
「えい!」
可愛い声とは裏腹に、殺傷力十分な風の刃がブラックウルフに襲いかかった。
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