第5話 転生の間 side 翔 後編

「俺が欲しい能力はずばり、スキルを自由に与えたり、消したりする能力です」


 もうこれしかあるまい。数あるスキルを自由につけたり消したりすることができれば、何も悩む必要がない。

 さっき思いついたスキルもつけ放題。武術系や魔法系のスキルも思いのまま。これ以上有能なスキルは存在しないだろう。


「そういったスキルを望んだ転生者は過去にもいました。しかし、残念ながら人の身でその能力は扱いきれませんし、選ぶことができる既存のスキルでもありません」


 あっさりと否定された。


 なるほど。流石にこのスキルを思いついた者が過去にもいたか。しかし、今回は特殊な状況のはずだ。過去にも例がないと言っていたが、もう少し粘ってみるか。


「でも、あなたにはそれに近い能力がありますよね?」


 少なくともこの女神様は自由にスキルを付けられる訳だし、スキルかどうかはわからないが、少なくともそういう能力はあるだろうと考えて聞いてみる。


「確かに私にはスキルを自由に着け外しできる能力がありますが、私は人ではありませんので」


 なるほど。もっともなご意見だ。だがしかし……


「俺も人ではなくなるみたいですが?」


「……はい?」


 システィーナの間の抜けた声が脳内に響いた。


「いや、だから人の身では扱えないのはわかったけど、そもそも、俺もスキルとして転生するので人の身ではなくなるのでは?

 さらに言うと、あなたが持っている能力なら既存のスキルと言えるのでは?」


「……」


 システィーナが即座に否定しないのをいいことに、さらに言葉を続けてみる。


「あなたは仮にも神の一柱であるならば、あなたの言葉は世界の法則に近い力があるはずだ。そのあなたが人の身では扱えないと言うのだから、裏を返せば人の身以外なら扱える可能性があると言うことではないのだろうか。

 おそらくここで言う人とは、向こうの世界にいるあらゆる種族のことを指すと推測されるが、はたしてスキルはどうなのだろうか? 前例がない以上、不可能とは言い切れないのでは?」


 一度は否定されてしまったが、こんなところで挫ける程度の妹愛ではない。可能性がある限り、とことん粘らせてもらおう。


「なるほど、よくこの状況でそこまで冷静に頭が回りますね。大抵はパニックになるか興奮して、ろくに考えずに決めてしまうものですが……ここまで頭が回る人は初めてです」


 システィーナが感心したような、それでいて呆れたような声で呟く。


 そりゃ、自分の人生ならこうも頭を使っていなかったかもしれないが、今回ばかりは愛する妹の第2の人生がかかってるんでね。パニックになったり興奮している場合ではないのですよ。


「わかりました。あなたの言い分はもっともです。自分で言うのもおかしいですが、私がこのような言い回しをした以上、その可能性は否定できません。試してみる価値はあるでしょう。

 しかし、前例がないのもまた事実。試した結果、失敗に終わる可能性もあるはずです。それでもよろしければ、スキルを自由に取り扱う力を付与できるかやってみましょう」


 おっ、意外と簡単に認めてくれたな。かなり揚げ足取りな感じだったが、何事も言ってみるものだな。


それから、転生する前に、向こうの世界について一通りとシスティーナに教えてもらった。


「では、『柊 明日香』の転生と『柊 翔』のスキル化を始めます。なお、この成功率は10%程度と予想されます。スキル化に失敗すれば『柊 翔』の自我は消滅、スキル化に成功しても能力の獲得に失敗すれば、ただのナビゲーターとして付与されます。それでは成功を祈って……行ってらっしゃいませ」


 おいおい成功率10%って何だよ。聞いてないよ。わかってるならもっと早く教えてくれよ。10%ならちょっと考えるだろう!


と考えているうちにだんだん意識が遠のいていく。


 お願いします女神様。俺も頑張るんで、どうか妹の転生を成功さ……せ……て……



~side 女神~


「ふぅ」


私は誰もいなくなった空間でため息をひとつついた。


「あの兄妹のお互いを思いやる気持ちに感化されて、ちょっと無茶なお願いを聞いてしまったかしら」


 あの兄妹、特に兄が願った能力が実現したら『ケルヴィア』のパワーバランスが大きく変わってしまうかもしれませんね。特にあの兄妹の信頼を得た種族は、かの世界で大きな影響力を持つことになるでしょう。

 しかし、あの2人を見ていると人を守ることに全力を尽くすことはあったとしても、人を陥れるために力を使うとは考えられないと感じました。だからこそ、あの能力を得る可能性を奪ったりはしなかったのです。この感じが間違っていなければいいのですが。もし、あの2人が間違った方向に進んでしまった時は私自らが……


「そうはならないことを期待していますよ、おふたりさん」

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