2 転機

ハイエの部下を殺してから、1ヶ月が経った。あれから何度かハイエからの襲撃があり、逃げ延びてはいるが家は解約してトレーラーの車庫の空いた休憩室で生活をしている。

車庫はヒッポの傘下達がいつも守っているから、ハイエが近づいてくることはない。

これもエステルさんのおかげだ。

今日はいつもより周りがザワついている。

別に俺には関係ないし、今日は荷物番がないからもう一度寝るつもりだ。

誰かが部屋の扉をノックし、入るよと一言だけ添えて扉を開けた。

白髪にスーツをまとったサングラスのオヤジ。60くらいに見えるその男は、何か只者ではないような雰囲気を発していた。


「君が、ガラン・グレイくんかな。私はヒッポのボス。テイラーという。いつも本当に助かっている、ありがとう。」

「どうも、テイラーさん。ヒッポのボスがこんな荷物番に僕になんの用でしょうか。酒かお茶でも出しますよ。20年物のウイスキーかバーボン、ちょうど飲み頃のやつがありますよ。」

「ウイスキーを貰おうか、ロックで。」


テイラーは近くのソファのに腰かけてサングラスを外していた。

依頼主が俺に顔を出してきたわけだが、検討はついている。


──俺が殺したハイエの三流下っ端の話だろう。


責任を取る形でボス直々に殺しに来たなら、まあそれはそれで光栄かもな。

体中に緊張が走る。

グラスに一個ずつ氷を入れる音が、死神が自分の命の刈り取りに来るカウントダウンの様に聞こえて、手が震え始めていた。

恐る恐るグラスを差し出し、乾杯の?はたまたカウント0の合図のグラスを打ち鳴らした。


「突然の訪問ですまない。君にお願いがあって私が来た。君が先月、ハイエの1人を殺した件でハイエがだいぶ騒いでいる。すでに何度か襲撃を受けているだろう。君を守る為だ、ヒッポに入ってくれないか。何より、このフォータウンで育った君は私の友でもあるのだから。こちらからのお願いだから、いつも通りの荷物番の仕事で報酬も少しは上がる。今よりかはマシな生活ができもする。どうだろうか。」

「俺は正直、マフィアとの抗争なんてまったく興味がないです。ただ仕事を邪魔した奴がマフィアの三下だった。けど、今まで守ってもらった恩はあります。仕事でそれを返せるなら、ヒッポに入れてください。ボス。」


残った酒を一気に飲み干した。










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