0-2 フォータウンを抜ける
1 荷物番
何を運んでいるかは知りはしないが、俺は荷物番の仕事をしている。
首都オアシスから、ファースタウン、ツータウン、サータウン、フォータウンと順番に街の治安は腐っているわけだ。
俺の専属している輸送車には元請けの方から、ついては銃火器が配布される。
シグザウエル P226 9mmパラべダム弾 装弾数10発。
マガジンの予備は二つ。
荷物を狙う者がいたら容赦く撃てと言われているが、脅しでもこいつを使う気にはならないわけで。
ただ、相手も銃を使うなら話は別だ。
今までも何度か荷物を狙う奴らは来ていた。
全員、遅い奴らばっかりで、拳でなんとか蹴散らしてきた。
サータウンを抜けて、フォータウンまでの道につき始めるころには、もうすぐ朝が昇ってくる。
ヘッドライトの照らす先から、バリケードを張って佇む人影が見えてくる。
あれが荷物を狙う奴らだ。
運転手はトラックを止め隠れ、トラックから降りる。
「うちの馬鹿どもが世話になってるみたいだな。荷物を置いてけ。運転手の命は取るつもりねぇ。」
「使えもしない奴らの敵討ちで、俺の命は取るつもりだってか。盗人でも情は厚いんだな。」
「情?そんなんじゃねぇ。お前は、マフィア──ハイエの面を汚したんだ、覚悟してもらうぜ。お前を殺れば、俺の格もあがる。俺はあいつらとは違うから、奪うためなら何でもやる。こいつを使ってもな。」
瞬間、大きな破裂音が響いて太ももから、強烈な痛みが襲ってくる。
どうやら相手は銃で、こちらを殺す気らしい。
声は押し殺したが、この痛みはかなりくるものがある。大きく呼吸を整え、左手は傷口に当て、右手はそっと腹部のホルスターの銃の持ち手を掴む。
まだここで死ぬ訳にはいかない。
ならばやる事はひとつだけだ。
「痛いか?うちの馬鹿どもが受けた分を総決算したら、まだ足りねぇくらいさ。
俺だって、苦しませながら殺すのはぁ趣味じゃねぇ。さっさと物だけくれりゃあ、その後1発で神様の所へ送ってやるぜ?」
したたり顔でこちらを見下ろす。
足音が近づき、銃口を額に押し付けられる。
「馬鹿の上には馬鹿しかつかねぇみたいだな。」
「あ?てめえ、いい加減に・・・!」
力を振り絞り、左手で相手の右手を引っ張り下ろす。一気に銃をホルスターから抜き、男の腹に当て、相手の力が無くなるまで何発か引き金を引く。
ゼロ距離なら、片手での射撃においての反動によるブレも関係ない。
銃なんて初めて打つもんだから、相手が馬鹿でラッキーだった。
いつだって、隙を見せた方が負ける。獲物の前でモノを語るなど、底辺のやる事だ。
残党が居ないのを確認してから、運転手と一緒にバリケードを退かしてフォータウンへ向かう。
フォータウンの治安は子供の頃から、腐っていたのだが、学生に対してへの被害は全く無かった。被害を加えることを許さなかった。
この街を生業としているマフィア──ヒッポ。ヒッポの目が、この街では光っている。
この街で育った人間は、いつだってヒッポに生かされてきたんだ。
「銃は・・・打ったのか。よくやってくれた。
これが今回の報酬だ。」
机の上にドン、と山積みの札束が置かれる。
いつもの額の10倍は増してある報酬に、何かを疑ってしまう。
「ハイエのカス共の三流を殺した君は、これから追われる身になろう。長年、いがみ合っている中でね。君は、ここで育ったのだろう。私達のボスは、このフォータウンで育ち、友を幼い頃に亡くなってしまってね。金に困ったチンピラ共に、攫われたそうだ。ボスはその悲しみから、子供に手を出し、未来を奪うのは許されるはずがない。その志からヒッポを立ち上げた。そして、君はまだ大人ではない。誤魔化しているのはわかっているよ。だからこそこれは、ヒッポの、ボスの志を継ぐ、私からの気持ちだ。」
「エステルさん、気持ちはありがとうございます。俺はただの荷物番なんだから、こんなに受け取れないですよ。俺を守ってくれていたのなら、貴方たちの荷物を守ることで恩を返すつもりです。その為なら、いくらでも手は汚します。ではまた。」
札束の中から、いつもの報酬分だけを抜き取って事務所から去った。
家に着いて、記憶を読み返す。初めての銃の感覚、殴るよりかは幾分気は楽だった。疲れもしないし、1発で終わらせれば相手の苦しむ顔も見ることは無い。
簡単に人を殺せる。俺も簡単に殺される。
撃たれた太ももは痛見続ける。事務所での治療は受けたが、浅い眠りの中で銃を抱えて眠った。
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