第16話 まかない顔

キッチンに立つおれ。

横に調理補助の金子。

背後には審査員の方々が3名。

椅子に座って料理を待ってる。

という図なんだが。


「なんかおもろいな」


「こころ強すぎ」


「調理面接、経験しといてよかったなぁ…」


「いつの間にとってたの?知らなかった」


「実は夏中に。一発で通るとは思わんかったが」


「あらためて、おめでと」


調理師免許の話しだ。

実務はとゆうに2年を超え。

マスターのお墨付きもあった。


まぁ、焦るつもりもなかったんだが。

今こうして役に立つとは。

出したときの、ご両親と妹ちゃんの驚きといったら。


「とっといてよかったわ」


「わたしが一番ビックリした。いきなりでてくるから」


「いろいろあって、いうの忘れてたな」


「たしかに、いろいろあったもんね」


金子の剥いたきんぴらを刻みながら思い返す。

密度の濃い1か月だったなぁ…


調理の腕は間違いなく伸びた。

特に、スイーツ方面は顕著だ。

お任せ連打のスパルタアシュリーさん。

今は空の上、元気だろうか。


しかし、まだ終わってない。

というか。

今が、その集大成まである。


「金子」


「なに?」


「全員食べる、でいいんだよな?」


「わたしは一応やめとくけど、みんな」


「…まさか、家族全員、しないよな?」


「しない、と思う。他のお客さんはしないし」


家族全員がふんすふんす。

想像したくもない。

それこそホラーだ。


「金子はどうするんだ、弁当」


「…一緒に、食べる?」


「友達に見られるか、おれに見られるか」


「究極の二択、なんだけど」


「まぁ、弁当でそうなると決まったわけじゃない」


「あとで、お母さんの前で試してみるね」


それはそれで勇気がいる決断だ。

まかない顔を見るご家族…か。

初見だと、ショックを受けるかもしれない。


「ひえぴたの用意、あるか?」


「そこまでなの!?」


慄く金子を見て笑う。

冗談だ、半分くらいは。


「そもそもまかない顔は」


「そうだった!木村に見られてる…」


「だからそこは、気にしなくていい」


「いやいや気にするよ、気にするけど…じゃあ、いいの?」


学内で一緒に見られる方はいいのか?

と聞いたつもりだったんだが。

この感じなら、よさそうだ。


「おれはかまわんよ。友達はいいのか?」


「相談する!したいんだけど、言ってもだいじょうぶ?」


「ああ」


これまで、ご覧の通りの金子だ。

隠し事にはむいてない。

おそらくムリ、秒でバレる。


弁当にハート型の海苔でも添えようものなら…

フタを開けた瞬間、天井が食ってるレベル。


「ふふ、ありがと!」


どこへの礼かはわからないが。

とてもいい笑顔である。

失礼なことを考えるおれとは違って。

なんかすいません。

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