第13話 いけいけごーごー

警察の人たちが帰って、一息ついた後。

少しだけ、本当に少しだけ。

冷静さを取り戻した。

気がする。


「思ってもみなかった」


「そう思うと思ってた」


そう、思うと…思ってたの?

それは…すごくない?

いや、すごいけど。

いまはそうじゃなくて。


あー。

考えが、まとまらない!

お弁当を、毎日!?

どうなのそれ、どう?

冷静さ、ムリだよ。

取り戻せないよ。

だって毎日って…

木村のお弁当だよ?


「あー…」


「なんかすまん、迷惑だったかやっぱり」


迷惑…

ぜんぜん迷惑じゃないけど?

でもどうなるの?

想像つかなくてやばい。

学校で、木村のお弁当?

ちょっと待って。

待って、欲しい。

考えなくては。

考えて、わたし。


「まず、迷惑じゃない…嬉しい…でも、想像が…」


「…それはよかったが」


「うー…あー…」


受け取りとか。

どこで食べるとか。

ていうか毎日?

そもそも一緒に食べるの?

どうなの?

木村。

それとも友達と?

あ!

え?鼻息は?

大丈夫なの!?


「金子」


「…なっ、なに?」


「その状態でも顎に手を添えるんだな」


「いま!いうことじゃないでしょ!」


「すまん、つい気になって」


あーもーほんとに!

ほんとに木村は!


…でも、少し落ち着いた。

いつもみたいなやり取り。

正直、ありがたい。

いまは。


「…まったく。はー、どうしよ…」


「家ってこのへんなんだよな?」


「?うん、そうだけど」


「学校で渡すのがあれなら、朝届けるか?近いし」


「えっ!?いや、待って。それは、どうなの?どうでしょう…か?」


毎朝くる?家まで?

どうなの?それは。

嬉しいけど。

どうなっちゃうのそれは。

嬉しすぎて!

わ、わかんない…

また、わかんなくなってきたー!


「いや、こっちが聞いてるんだが」


「ほほ、保留でいい?ちょっと、時間が、考えたい、かも…」


「ああ、かまわんが…」


「あ、い、いやとかじゃないよ!嬉しい、嬉しいんだけど、ほら」


「あー…アシュリーがメールくれてな。ちょっと踏み出してみようと思っただけなんだ」


「え?あ、アシュリーちゃんがメール…?どんな?」


何言ってるか、わかんなくなってきた。

まともな返答、できるてる?いま。

顔とか、やばくない?

わたし。


…わかんない。

わかんないけど。

でも、そう、メール、メールだ。

アシュリーちゃんからの。


わたしもメール、貰ってる。

貰ってるよ。

内容は、


「「いけいけごーごー」」


わたしたちの。

言葉が、重なる。

いけいけごーごー。

いけいけごーごーである。


「おなじ、内容か」


「そうみたい」


そう言って、笑いあう。

笑いあえた。

これ、なんて幸せ?

問題は先送りだけど。

いや、そうだ。

アシュリーちゃんの言うとおりだ。

いけいけごーごー。

いけいけごーごーだ。

先送りになんて、しちゃいけない。


「木村」


先んじて言わせてもらう。

返答も、待たない。


「今からうち、きて」


いけいけごーごー。

アシュリーちゃんを信じるのだ。

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