第11話 金子のパンケーキ

「何倍とかって次元じゃなかった…」


「パンケーキ、好きなんだな」


「周りのお客さん、めっちゃビックリしてた」


「どんだけだよ…」


「こちら、証拠のオーダー」


「うお!マジか」


5枚にものぼるオーダー票を押し付ける。

その全てがパンケーキ。


しかも、フェア用の全部乗せじゃない。

プレーン部分をしっかり味わいたい。

別トッピング仕様だ。

つまり、シェフのお任せ。


アシュリーちゃんのおかげでもあるし。

木村の腕前のおかげでもある。


口角があがる。

あがっちゃう。

木村が認められた気がして、嬉しくなる。


「どれくらいかかる?」


「すまんが、金子用の先つかうぞ」


えっ。

そういうの、ズルい。

用意してある、とか。

嬉しいんだけど。

口角が…戻さないと。

ぐいぐい。


「…うん。だいじょうぶ、いいよ?」


「目の前で食べてもらおうと思ってたんだが」


「…善意なのか悪意なのか、わかんなくなったんだけど?」


「はは、冗談だ。6人前で15分。先客が6」


「はーい…まったく。伝えてくるね」


ひらりと手を振って料理に戻る木村。

楽しそうに笑ってまあ。

わたしも人のこと。

言えないんだろうけど。


やっぱりこの時間、関係、楽しいな。

今日の延長戦を除けば。

明日からは短縮営業になる。

学校でも一緒にいたいけど、難易度がなー。


片付け用のトレイを持って現場に戻る。

待ち時間を伝え、お冷のお替りを入れていく。


ちらとアシュリーちゃんを見る。

パンケーキは完食みたいだ。

トッピングをニコニコ食べてる姿が。

とても癒される。



「あー…おわったぁ」


「おつかれさま」


時刻は21時。

補導リミットまであと1時間。

なんとか課題を終わらせる。


このあと、送ってくれるらしい。

優しい木村がこっちをみてる。

なに?


「パンケーキ、作るか?」


「さすがの時間でしょ、もう」


時間的にも、糖質的にもいただけない。

体型的にまったく問題ないけど。

気持ちの問題、こういうのは。


それはまた次の機会に。

目の前で食べる勇気も、ちょっと、まだないし。


「タイミング的にな。明日からのシフトは?」


「あー」


そうだった。

シフトはもちろん合わせたけど。

明日からは学校で。

休日以外、まかないはない。

次善策は、アシュリーちゃんと。

食べること、だったのに。


「アシュリーも、もうこれないからな」


そうなのだ。

彼女はもう空の上。

母国イギリスへと旅立った。

また会えるのは、いつになるやら。

だいぶ懐いてくれてたし、悲し寂しい。


「…とりあえず、でよっか?」


「そうだな」


送ってくれるのは嬉しいけど。

木村が補導されるのは、まずい。

手早く帰り支度して、2人でお店を後にする。

何か妙案が浮かぶといいんだけど。

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