第10話 木村のパンケーキ

「オムライスの3倍」


「ふむ…」


シャカシャカと。

ボウルをかき混ぜながら考える。

どうやらアシュリーは。

優しい風合いが好みらしい。


彼女の出自を知れた日から、2週間が経つ。


寂しくなったサイフを。

マスターから補填してほくほく。

来店しては、お任せを頼まれる日々だ。


毎日、である。

マスターの財布は大丈夫だろうか。


「もう夏休みも終わりかー」


伸びしながらトレイをフリフリする金子。

その技、初めて見るな。

かわいいんだが。


そう、夏休みも今日で終わりだ。

ちなみに課題は終わってない。


「そっちは?」


「シェアできるの、上がったらやろっか」


「数英…化学?」


「社と、国語の一部もね」


バイト、修行三昧だった夏休み。

スイーツの腕は上がったが。

学力は下降の一途である。

おれは進路、調理系だからいいんだが…


「金子は進路、どうするんだ?」


「言ってなかったけど、わたし栄養士志望」


「いいな、それも」


調理ができても、できなくても。

なにかと役に立つ資格だ。

白衣の金子、いいと思います。


「木村はシェフ?」


「そっちもいいんだが…まぁ、ちょっと保留」


「アシュリーちゃんみて、パティシエも視野に入れた?」


「…よくわかるな」


と言っておく。

実際には、アシュリーで理由の半分。


もう半分は。

お任せデザートを食す金子を見て、だ。

まさかあそこまで。

美味そうに食べてくれるとは。


まぁ金子自身は知らないことだが。

アシュリーの盗撮だし。


「じゃ、戻る。パンケーキ食べたいみたい」


「そうだろうなと思って、今作ってる」


「さすがはいとこ。以心伝心?」


「パンケーキフェアの看板、めっちゃ見てない?」


「あはは、確かに」


笑う金子から視線をずらす。

席を立ってウロウロと。

パンケーキの看板にご執心だ。


ずっと。

入店から今までずっとだ。

なんの意地か、お任せしか頼まないが。

どう見ても食いたそう。


「伝えといてくれ」


「りょ」


優しい味わいのパンケーキ。

フェアメニューは別トッピングにして。

本体はシンプルに行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る