第8話 バッファロー金子

帰り道。

おれは徒歩、金子はチャリを押して。

ダベりながら歩く。


「オヤジの弟の妹の娘って、何になるんだ?」


「たぶんそれ、弟って部分は省略できるよ」


「オヤジの妹の娘…いや、マスター省略しちゃうのかよ」


「いとこ、なのかな?」


「初めて見たんだが」


「確かに!一度見たら忘れないかも」


「そういう意味じゃないんだが、ずっと海外なのかなぁ…」


いつもより多い、身振り手振り。

妙に機嫌のいい金子との関係も。

思えばもう1年近い。


知らない従妹より、ずっと気の知れた関係だ。

いや、急にこっちに笑顔を向けるな。

さっきの今だ、照れるだろ。


「デザート券2枚、つよくない?」


「手間が2倍はつよいな」


「そういう意味じゃないんだけどー」


そう言って、屈託なく笑う。

2回食べたら、鼻息も2倍なんだが。

わかってるのか、金子。


「で、いつにする?」


「…ちょっと考えさせて?」


なぜ、そこで照れた顔をする。

空想のデザート券2枚を手で示して。

顔にバッテン作る金子。

うーん、かわいいですね。


でも、倒れそうなチャリ。

おれが支えてるの。

そろそろ気づいて?


「かまわんが、ひとりで食うんだろ?」


「どうするか、そこを考えたい」


「そこ考えるのかよ…」


「そ!あ、ごめん自転車」


「何味がいいとかあるか?」


「うーん…1品目は、アシュリーちゃんとおそろいがいい、かも」


「そのこころは?」


「せっかくだし、仲良くなりたい」


夏休みも、あと半分近く残ってる。

まだまだ会う機会もあるだろう。


「ついでに、おれの監視から逃れる、と」


お客さんテーブルで食うつもりだ。

アシュリーと。

調理場からは死角になる。


「正解。よくわかったね」


「なぁ…」


「なに?」


「おれたちって、いつからこんな感じだっけ?」


「えっ?」


「あんま言葉並べなくても、伝わってる感、あるよな?」


いつからか。

もろもろ端折っても大丈夫、というか。

雑に言っても通じる、というか。


これが…

厨房とホールの熟練度ってやつか?


「…」


うつむいて真っ赤になった金子から察した。


「すまん、ナンパっぽかったよな。わかる」


「そこ察するの笑う…」


「顔真っ赤だけどな」


「むー!」


両手はチャリで塞がってる。

金子から手が出ることはない。

むーむー唸るだけ。

バッファロー金子だ。

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