第7話 ヨーグルトアイス

見てる。めっちゃ見てる。

視線が、わたしに。

もとい、このデザートに釘付けだ。

圧がすごい。すごすぎる。

早く置いてしまいたい。


「お任せの、ヨーグルトアイス、です」


「わ、ぁ!」


シンプルな少量のアイスクリーム。

オムライスより、嬉しそう。

やっぱり毎日はキツかったのかな?

もっと早く言ってあげればよかった。


「ちなみに、シェフのサービス、だそうです」


「!?」


「ごゆっくり」


驚きから復帰しない彼女を置いて。

いつもの覗き見ポジションに移動する。

さて、結果はどうだろうか。



「オムライスの5倍」


「ありえる?」


「ありえた」


「…金子」


「わたし、ひとりでたべる。家に持って帰って食べる」


「そこまでか…」


「いやいやいや、オムライスだって限界超えてた感あるよ?」


きっとあれだって。

容易に見せていい顔ではなかった。

思い返すと顔から火あぶりだ。


そもそもまかない顔が。

セーフかすらわからない、のに。


「ああ、あれな。名前を呼んではいけない荒子さん」


「…」


「無言のジト目はやめようよ」


「半分ヴォルデってるじゃん、それ」


「たしかにな」


ジト目にもなりますよ。

まったく。

笑ってる顔、みれるからいいけどね。

木村の。


「で、いつにするんだ?」


「とうぶんさき!」


しばらくはムリだから。

まかないで慣れさせて。

慣れるものなのか、わからないけど。

だって木村のまかない。

すごい美味しいんだもん。



「ダイチ、金子さん。いつもありがとね」


退勤前。

珍しくマスターに呼び止められる。

ありがとう、って?

なんか、したっけ。


「アシュリーの相手、ぼくができないから」


アシュリー。

もしかしなくても、彼女のことだろうか。

木村を見るも、わかってなさそうだ。


「いつもオムライスを食べてる、あの?」


「そうそう!妹の娘でね、かわいいよね」


「ほんと、かわいいです」


アシュリーちゃん、か。

彼女は、本当にかわいい。


なるほど?

マスターの妹さんの娘さん。

で、


「夏休みの間、預かってる感じですか?」


「そう!よくわかるね。正解した金子さんには、ダイチのデザート券あげる」


「わーい」


2枚目のデザート券ゲットだ。

しかも木村が作ってくれる。

嬉しいな。


「ダイチとは何に当たるんだろう?ね、ダイチ」


「えぇ?そもそも知らなかったんだが…」


知らなかったとは、なんだろう。

もしかして。


「木村、マスターと血縁あるの?」


「おや、言ってなかったのかい」


「いや、そういうのなんか…言うの恥ずかしくない?」


…わからなくもない。

親族経営のバイトで働いてて。

友達に、これ親族なんですーって。

たぶん、紹介しない。

恥ずかしい、気がする。


「わかる」


「だろ」


「2人はほんと仲いいね」


嬉しいけど、ここはスルーだ。

それこそ恥ずかしいので。


前髪で隠しながら、チラっと木村を見る。

だよね、わかる。

なかなかレアだ。

恥ずかしそうにする木村も。

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