第6話 シェフのお任せ

「オーダー。シェフのお任せ、です」


「くるかな、ってちょっと思ってたわ」


「ふふ、わかる」


シェフのお任せとは。

おれの独断で勝手に作っていいスイーツだ。

マスターからの許可もある。

なお、おれはただの高校生アルバイター。

名前詐欺は否めない。


「金子もお任せでいいのか?」


「えっ嬉しいけど…んー今はいいかな」


「おっけ…嬉しい?」


「うん、オリジナルって嬉しくない?」


「どうだろ…わからんけど」


オリジナルと言っても。

やってることは既存の組み合わせだ。

おれには料理の才能がないらしい。

パティシエの領域に、行ける気はしない。


「自分のためだけに、想いを込めて、作られたー」


「なるほどな」


気持ちの問題ってやつだ。

気の持ちよう、とも言う。


「にしてもよかったね、デザート」


「さて、食べてもらうまではどうかな…」


オムライスのきみに、オムライス以外。

卵はどっちにしても使うんだが。


「木村のデザート食べたことない、けど」


「けど?」


「お客さん、いつもめっちゃ美味しそうにしてる」


「マスターのレシピ神なんだよなぁ…」


「…」


ジト目くれてますけど、事実だ。

おれのスイーツ、その全てのレシピは。

マスターから学んだもの。

マスターマジ尊敬である。


「いやマジで。自分で作って自分でウマスギ!ってなるの、わりとおもろいんだが」


「それはおもろい。笑う」


「だろ」


ツボに入った金子が。

腹を抱えて、くの字に曲がる。

そこまで笑うの初めて見たかも。


さて。

卵使うことは確定だが。

オム食後だし、軽めがいいか。


「はー…笑った。お任せもマスターのレシピなの?」


「いや、開発しろって言われてるから」


「それは…すごくない、の?」


「店前の看板に『高校生にお任せ!オリジナルデザート!』って書いてあるんだが」


「うんうん。いや、知ってるけど」


「1回も出てないんだよな」


まぁ、無名の高校生に作られても感はあるが。

シェフのお任せは出るのに。

不思議だ。


「それも知ってる。笑っていい?」


「泣いていいなら」


「ダメ…んーいいけど…いやーどっちだろ?」


「悩む問題でもなくない?」


おれ、もう泣きそうなんだが。

とりあえず、作っていきますかね。

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