第5話 言質、とったよ

メインはマスターの専売。

でも、デザートは任されてる。

マスターがいなければメインもやる。

シェフ木村。


わたしたちはまだ高2。

木村、すごくない?って思うわけだ。


料理でお金が取れるのもそう、だけど。

幸せな気持ちにできる、なんて。

木村は、たぶん普通じゃない。


言わないけど。

友達にも言ってない。

木村を誰かに売る気はないし。

人気出たら、つらいから。


でも、目の前でみちゃうとなー。

関わりたくなる。

おせっかい、焼きたくなる。

あの子にも、幸せになって欲しいって。



「お客様」


「…」


悲し気なまま伏せられた顔。

反応はない。

いや、スプーンを持つ手は震えてる。

なんかデジャヴ、なんだけど。


「お客様」


「…」


それにしても。

そこまで違うのかな?

マスターの料理…味…

申し訳ないけど、記憶にない。


何を隠そうシフトピンポイントは。

わたしが先輩なのだ。


今日まで木村のまかないしか食べてない。

皆勤賞だよ、木村。

褒めてくれてもいいんだよ。


「…例のオムライスのシェフが、何かデザートをと」


「!!」


バッと顔を上げる彼女。

相変わらず勢いがすごい。

顔色も少し戻ってきた、気がする。


「えっとですね、例のシェフ…スーシェフじゃないんですよ」


「っ!?」


「スーシェフがいない週1度だけ。料理を任されてるんです」


「そっ!ん…」


「デザートは、いつもすべて彼がやってます。いかがですか?」


「っ!はっ!はぃっ!」


「オムライスじゃなくても、大丈夫ですか?」


「だ、っだいじょうぶ!!」


大丈夫なようだ。

木村、やったよ。

言質、とったよ。


「では、決まったらお呼びください。ごゆっくり」


わたしの声は、もう耳に入ってない。

真剣な顔でメニューにかぶりついてる。


そうだ。

わたしにも。

デザートごち券がある。

未来のため、将来のため。

彼女の鼻息、ちゃんと見ておかないと。

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