第5話 言質、とったよ
メインはマスターの専売。
でも、デザートは任されてる。
マスターがいなければメインもやる。
シェフ木村。
わたしたちはまだ高2。
木村、すごくない?って思うわけだ。
料理でお金が取れるのもそう、だけど。
幸せな気持ちにできる、なんて。
木村は、たぶん普通じゃない。
言わないけど。
友達にも言ってない。
木村を誰かに売る気はないし。
人気出たら、つらいから。
でも、目の前でみちゃうとなー。
関わりたくなる。
おせっかい、焼きたくなる。
あの子にも、幸せになって欲しいって。
☆
「お客様」
「…」
悲し気なまま伏せられた顔。
反応はない。
いや、スプーンを持つ手は震えてる。
なんかデジャヴ、なんだけど。
「お客様」
「…」
それにしても。
そこまで違うのかな?
マスターの料理…味…
申し訳ないけど、記憶にない。
何を隠そうシフトピンポイントは。
わたしが先輩なのだ。
今日まで木村のまかないしか食べてない。
皆勤賞だよ、木村。
褒めてくれてもいいんだよ。
「…例のオムライスのシェフが、何かデザートをと」
「!!」
バッと顔を上げる彼女。
相変わらず勢いがすごい。
顔色も少し戻ってきた、気がする。
「えっとですね、例のシェフ…スーシェフじゃないんですよ」
「っ!?」
「スーシェフがいない週1度だけ。料理を任されてるんです」
「そっ!ん…」
「デザートは、いつもすべて彼がやってます。いかがですか?」
「っ!はっ!はぃっ!」
「オムライスじゃなくても、大丈夫ですか?」
「だ、っだいじょうぶ!!」
大丈夫なようだ。
木村、やったよ。
言質、とったよ。
「では、決まったらお呼びください。ごゆっくり」
わたしの声は、もう耳に入ってない。
真剣な顔でメニューにかぶりついてる。
そうだ。
わたしにも。
デザートごち券がある。
未来のため、将来のため。
彼女の鼻息、ちゃんと見ておかないと。
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