第4話 オムライス以外

「シェフ木村」


「なんだ」


「彼女、オムライスしか頼まない、んだけど」


「そうなのか?」


「これも一途?」


「なんか違う気もするが…」


あの衝撃の初邂逅から2週間。

彼女は、マジピンポイントで来てるらしい。

おれのシフトに合わせて。


が、金子は一つミスをした。


「今日は悲しそうだった」


「マスターのだからか?」


「うん、もう確定だと思う」


「めっちゃ美味いと思うんだが」


「そうなの?」


おれ的には、おれのより美味い。

マスターのオムライス。

悔しい。


「食ってないんだっけ、鼻息荒子さん」


「やっ!やめてよそれ…ほんと、恥ずかしいんだから…」


「ごめんて、でも嬉しかったから」


1週間前に出したオムライス。

金子の鼻息は荒かった。

まかないの5倍は確実に。


「むー…でも、彼女ほどじゃない、でしょ?なかった、よね?」


「そもそも食ってるとこ見てないし」


「あー」


ぽかんと口を開けたまま固まってる。

なかなかのレア金子。


「それより金子」


「…なに?」


「めちゃくちゃ通い詰めてるんだよな?」


おれのシフトに合わせて、ってことは。

最低でも週5オムライスだ。


おれが厨房を任されるのは。

マスターのいない週1のみ。

金子の言うことが事実なら、喜び1・悲しみ4。

あまりにも悲しみが多い。


「…それね、そろそろやばそう」


「せめてマスター不在が早めにわかればな」


「そっち?ん-それもあるけど…」


「ほかにもあんのか」


「お金が、なさそう」


「やばいじゃん」


そっちのほうがやばいじゃん。

そもそもご来店できなくなってしまう。


「何が彼女をそこまで駆り立てるんだ…」


「木村」


「連絡先は抵抗あるんだが」


「ちがくて、デザート」


「オムライス以外か…」


デザートなぁ…

食うのか? 想像つかない。

オムライス以外頼まない。

という情報しかない。


「試してみよ」


「じゃ、何系がいいかだけでも聞いてきてくれ」


「りょ」


あまり自信はないが、やるだけやってみようか。

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