第2話 シェフ木村

「というわけなんだけど」


「ふむ」


中座してきた金子の話しをまとめるとこうだ。

中学生みたいな異国風の女の子が。

毎日オムライスを食べに来て。

喜んだり、悲しんだりする。

そして今日ついに、シェフを呼べ、と。


金子も、見た目はそれぐらいだ。

信じられないことに、おれと同い年だが。

あとになって、実はお友達でしたビックリ。

とか…ないか。

そういうこと、しなさそうだもんな金子。


「なに?」


「いや、悲しんでたのかなと」


「いーや?めちゃくちゃ美味しそうだった。鼻息でパセリ飛ばしてたし」


そんなに?

パセリが飛ぶほどの喜びを?


「…ふーん」


「その5倍は強かったよ、鼻息」


「いや、別にマネしたわけじゃないんだが」


「ふふ、わかってるよ。照れ隠しでしょ。で、どうするの?」


「…マスターもいないしなぁ。とりあえず」


「話し、聞いてみよっか」



連れてきてもらった女の子は。

たしかに小…中学生に見える。

椅子に座らせると、こじんまり感がすごい。

それより気になるのは、顔。

顔が、驚くほど真っ赤だ。


「きみ…だいじょうぶ?顔、すごい赤いけど」


「…」


反応なし。

いや、プルプル震えてはいるが。

金子を見る。

なぜか満面の笑みだ。

口を出す気はないらしい。


「えっと…オムライス、気に入ってくれたのかな?」


「!!」


椅子からひっくり返らんばかりの勢い。

顔が上がって、 腕もバタバタと。

羽ばたくようにバランスを取って。

ようやく、目と目が合う。

何か、決意のようなものを滲ませる瞳。

ていうか、青ぉ…


「あ、あの…あのおむっ、おむらいすっ!」


「あ、あぁうん、どうだったかな?」


「つくったの…!…あなた?」


この問いの意味は、なんだろう。

美味そうに食べてシェフを呼べ。


ストレートに考えるなら…

お褒めの言葉をいただくところだが。


でもこの表情、果たしてそうなのか?

とてもそれだけには見えない。


目力で圧してくる彼女を尻目に考える。

金子はどうやら接客に行った。

オーダーが入れば、おれも厨房だ。

あまりのんびりしてる時間はない。


ていうか、鼻息荒いですね。

確かに5倍はありそう。


「ごめんね、ちょっとオーダー入りそうだから…またでいいかな?」


「えっ…」


えっ。

急に泣きそうになるじゃん…

でもこれ以上、仕事サボるのもまずい。

ササっとメモにペンを走らせる。


「じゃあ、連絡先とか、いる?」


「っ!!いっ、いるっ!!」


恐ろしいほどの食いつき。

ちょっと身を引きながら、破いたメモを渡す。


「オーダー!ランチAふたつ。ドリンクわたしやるね」


金子、いいタイミングだ。


「おっけー…じゃ、そういうことだから、またね?」


前半は金子、後半は少女へ。

2人は力強くうなずいた。

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