第2話 シェフ木村
「というわけなんだけど」
「ふむ」
中座してきた金子の話しをまとめるとこうだ。
中学生みたいな異国風の女の子が。
毎日オムライスを食べに来て。
喜んだり、悲しんだりする。
そして今日ついに、シェフを呼べ、と。
金子も、見た目はそれぐらいだ。
信じられないことに、おれと同い年だが。
あとになって、実はお友達でしたビックリ。
とか…ないか。
そういうこと、しなさそうだもんな金子。
「なに?」
「いや、悲しんでたのかなと」
「いーや?めちゃくちゃ美味しそうだった。鼻息でパセリ飛ばしてたし」
そんなに?
パセリが飛ぶほどの喜びを?
「…ふーん」
「その5倍は強かったよ、鼻息」
「いや、別にマネしたわけじゃないんだが」
「ふふ、わかってるよ。照れ隠しでしょ。で、どうするの?」
「…マスターもいないしなぁ。とりあえず」
「話し、聞いてみよっか」
☆
連れてきてもらった女の子は。
たしかに小…中学生に見える。
椅子に座らせると、こじんまり感がすごい。
それより気になるのは、顔。
顔が、驚くほど真っ赤だ。
「きみ…だいじょうぶ?顔、すごい赤いけど」
「…」
反応なし。
いや、プルプル震えてはいるが。
金子を見る。
なぜか満面の笑みだ。
口を出す気はないらしい。
「えっと…オムライス、気に入ってくれたのかな?」
「!!」
椅子からひっくり返らんばかりの勢い。
顔が上がって、 腕もバタバタと。
羽ばたくようにバランスを取って。
ようやく、目と目が合う。
何か、決意のようなものを滲ませる瞳。
ていうか、青ぉ…
「あ、あの…あのおむっ、おむらいすっ!」
「あ、あぁうん、どうだったかな?」
「つくったの…!…あなた?」
この問いの意味は、なんだろう。
美味そうに食べてシェフを呼べ。
ストレートに考えるなら…
お褒めの言葉をいただくところだが。
でもこの表情、果たしてそうなのか?
とてもそれだけには見えない。
目力で圧してくる彼女を尻目に考える。
金子はどうやら接客に行った。
オーダーが入れば、おれも厨房だ。
あまりのんびりしてる時間はない。
ていうか、鼻息荒いですね。
確かに5倍はありそう。
「ごめんね、ちょっとオーダー入りそうだから…またでいいかな?」
「えっ…」
えっ。
急に泣きそうになるじゃん…
でもこれ以上、仕事サボるのもまずい。
ササっとメモにペンを走らせる。
「じゃあ、連絡先とか、いる?」
「っ!!いっ、いるっ!!」
恐ろしいほどの食いつき。
ちょっと身を引きながら、破いたメモを渡す。
「オーダー!ランチAふたつ。ドリンクわたしやるね」
金子、いいタイミングだ。
「おっけー…じゃ、そういうことだから、またね?」
前半は金子、後半は少女へ。
2人は力強くうなずいた。
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