第7話 ラーの天秤


「カッカッカッ! アル少年! また会ったな!」


 どうしてシモンさん達が……いや、ウィルのパーティを探していたんだから当たり前なんだけれど、全員フル装備だし……まさかこれからまた冒険に出てしまうのだろうか……


「まっ、待って下さい! お願いがあるんです!! 僕をダンジョンの最奥部まで連れて行って欲しいんです!!」


 無謀なお願いだって分かっている……ダンジョンには多数のお宝が眠っている。更に最奥部ともなれば一攫千金のお宝がある可能性が高い。

 だからそこまで連れて行って欲しい、なんて都合のいいお願いが聞き届けられる筈なんて無い……でも、それでもウィルの友人として……更にダンジョンの攻略に有用な能力を示せば……

 ここで失敗したら、もう他にアテなんて無い……地べたに頭を擦り付けても、何度断られたって……


「いいよ。一緒に行こう」


「分かってます! 無理だって事は分かってま…………えっ?」


「一緒に行こう」


 頭を上げるとウィルが微笑んでくれている。


「ウム……しかシ、拙僧は反対だナ。いヤ、ウィル殿の願イは相分かっタ……しかシだナ、このようナ子供を連れて行ってモ危険なだけダ」


 しかし治癒僧のフドウさんは反対の声を上げる。

 治癒職には見えない筋骨隆々な強面の人だけれど、その迫力にも今は負けていられない。


「足手纏いにはなりません!! もし死んだら捨て置いて頂いて結構です! だから一緒に連れてってください!」


「こんにちはアル君。メリーナよ、久しぶりね。フフッ、何もこのゴリラはただ反対してる訳じゃないのよ? 最奥部で手に入れたアイテムは今回だけはあなたに譲るわ。なんたってあのウィルがあんなに頼んで来たんだもの……ウフフ。だからねあなたは安全な場所で待っていれば良いのよ」


 今度はメリーナさんが僕を説得してくる。冒険者でも無い子供がダンジョンに行きたいなんて、そりゃあ止める。僕だって普通なら止めるだろう……分かってる。分かっているんだけど……


「お願いします……」


「遊びじゃないのよ」


「分かっています」


「分かってないわ! 第一ダンジョンがどれだけ危険か……」


「分かっています! それでも……好きな人を、フィーネを救うのは僕じゃなきゃ……俺じゃなきゃ駄目なんです! だからお願いします!」


 メリーナさんの息を飲む音が聞こえる。ごめんなさい、話を遮ってしまって。でも俺も折れる事なんて出来ない。

 たとえもう2度と使わないつもりだった力を使ってでも……


「カッカッカッ! その意気や良しッ!! アル少年! オレが最奥へ連れて行ってやる! それで何を成すかとくと見せてくれ! カッカッカッカ」


 では行くぞ、とシモンさんが言うともう誰からも反対の意見は出なかった。


 それにしてもウィルはどうして……


「ウィル! 何で……」


「詳しい事は今は省くけど、簡潔に言うならば……僕は未来が見える」


「それって……」


「ここから先は、アル……君の物語だ。未来はほんの少しの事で全く異なる結果になる、だから今はまだ言えない。自分で掴み取るんだ」



 そこから先はあまり覚えていない……


 ダンジョンに着いた時、攻略に乗り出している冒険者達にさり気なく触れ、能力を読ませてもらったけれど……ダンジョンの攻略は思ったよりも順調に進み、早くも他の冒険者の未到達部分まで進んできた。


「アル君、凄いわね……本当に冒険者じゃないの? ヘタな冒険者よりよっぽど強いわ」


 メリーナさんが褒めてくれるけれど、俺は能力の使い過ぎで鼻血が止まらなくなっている。


「ありがとうございます。でもやっぱり皆さん凄いですね!」


 流石に東の勇者パーティと呼ばれるだけあって、4人が4人とも遅いくるモンスター達をあっという間に殲滅していく。


 


 それでも、さらに先の階層で天井が下がってきて押し潰すトラップにかかってしまうが、フドウさんが治癒僧らしからぬその筋肉で、僕らがその範囲から抜けるまで支えていてくれた……


「ウム、ここハ拙僧が任されよウ。早く先にいくのダ!」



 更に先に進み、ある部屋に入るとモンスターハウスだったらしく大量のモンスターが襲って来た。

 しかし、メリーナさんが結界術を使いモンスター達をその場にとどめてくれる。


「"固有結界、魔女の箱庭"この部屋は私が閉じておくわ。あなた達は先に行きなさい」


 そのまま進むと大きな大きな扉があった……


「多分ここがボス部屋だな。あんまり深くなくて助かった」


「カッカッカッ、少し物足りないがな! そこでだ、アル少年! オレがボスをもらう! だからアル少年は先に行って最奥部の宝を取ったらそのまま先に出るんだ」


 ウィルがこの先がボス部屋だと言うと、シモンさんがボスと戦いたいと言い出し、僕に何かを放りなげる。


「これは?」


「それは簡易転移石だ! 座標はもう登録してあるぞ! せっかくここまで来たのにボス討伐を譲ってもらうのだ、宝だけでは割に合わないだろう! それはオマケだ! カッカッカッ」


「そ、そんなっ!?」


 簡易転移石なんて、かなり高価な魔導具だ。それに……今なんて言った? 宝だけでは割に合わないって言ったのか? 


「最奥の宝の代金は一生かかってでも返します!!」


「カッカッカッ! 価値観は人それぞれだ、アル少年! オレには宝よりボスと1人で戦う事の方が価値がある! それだけだ! それに、フドウもメリーナも自らの欲を出したろう?」


 フドウさんもメリーナさんも僕を先に行かせる為に残ってくれただけだろうに……


「アル少年! 君も自分の命よりも大切な物があるのだろう? ならば遠慮などするな!」


「行こう、アル」


「ありがとうございます! でも、ボスを倒さないで最奥部に行けるんですか?」


「問題ない。ボスは最奥部の前の部屋に居るが、最奥部への扉は閉まっている訳じゃない。だからボスの注意を引く人が居ればその間に抜ければいいだけだ」


 僕の疑問にはウィルが答えてくれる。でもそれなら、皆ボスを倒さないで宝だけ取って帰るんじゃ……


「カッカッカッ、では行くぞ!」


 シモンさんが大きな扉を押すと、ゴゴゴゴッと重い音を立ててゆっくりと開く。


 最悪だ……扉を開いて見えたのは、巨大な暗緑色の体躯と鰐を彷彿とさせる獰猛そうな顔……


 竜種に次ぐ危険度Aクラス、ギガントバジリスクだ!!


「や、やばい……よりによってこんな強いモンスターなんて……」


「カッカッカッ!! 良い! 良いぞ! なんだこのデカいトカゲは! 切りごたえがありそうだぞ!」


 えっ? シモンさんが本気で喜色に満ちた表情をしている……

 ウィルの方を向くと、目を瞑り首を左右に振っている。


「いつもの事だよ。さぁ、シモンさんが攻撃したら奥へ走るよ」


「カッカッカッ! では、またなアル少年! ウィルも! さぁティル、用意はいいか!」


「はーい、またまた張り切っちゃって……はぁ、ウィル……あなた達も頑張りなさいよ……」


 シモンさんのキモノの袖から小さな妖精が飛び出して来て僕に一瞥くれるとウィルに一言言って、ギガントバジリスクに向かって飛んでいく。


「えっ……あれは、何してるの? 何だかギガントバジリスクに祝福をしてる気がするんだけど……」


 ティルと呼ばれた妖精はギガントバジリスクの上まで行くと、キラキラとした魔法の粉を振りかけている。

 今まで見た事は無いが、確か妖精には身体能力を上げたりする祝福という固有能力があって、たしかあんな風にキラキラする粉を振りかけるって聞いた事がある……


「その通りだよ。ギガントバジリスクに祝福してるんだよ……シモンさんは戦闘狂だからね」


 いやいやいや……自分にかけるなら分かるけど、相手にかけるなんて……


「カッカッカッ、ではダイコクテン・シモン、参る!!」


 物凄い速さで駆けていくシモンさんの背中を呆気にとられて見ていたら不意に手を引かれた。


「ほら、行くよ!」


 ウィルに促され壁伝いに奥を目指す。もう少しシモンさんの戦闘を見てみたい気持ちもあるが、今は急がないと!!


「カッカッカッ! ほれ、早く行けぃ! 地走り!! 空走り!!」


 ギガントバジリスクの横を通り過ぎる時にチラリと見るとシモンさんは宙を蹴って高速で動きながら切りつけていた……化け物だ……


 通路を抜け、最奥部の宝の部屋へと辿り着く……


「ここで待ってて……」


 ウィルは僕を通路で待たせると1人宝の部屋へと入る。

 そして宝箱を開けると中から天秤の様なアイテムを取り出した。


「エリクサーじゃない……」


 せっかくここまで来たのに、宝はエリクサーではなかった……


 ガックリと肩を落としていると、ウィルがそのアイテムを僕に渡してくれる。


 よく見るとウィルの腕からは血が出ている……


「これはラーの天秤。天秤が釣り合うならば願いを叶えてくれる。等価交換だ…………意味はわかるね?」


 等価交換……それならフィーネを救えるかも知れない!!


「ウィル! ありがとう! その腕はどうしたの?」


「大した事じゃない。ボスを倒さないで宝箱を開くと発動するトラップだよ。ただの毒針だから大丈夫」


「大丈夫じゃないっ!! 毒針って!」


「あぁ、僕は毒とか効かない身体だから大丈夫なんだ」


 そう言って微笑んだウィルはたしかに具合が悪そうには見えない。


「さぁ、転移石で帰るよ。捕まって」



 そうして僕はダンジョンでラーの天秤を手に入れたんだ。





 

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過去を読み取る能力を持つ僕は、彼女の死の運命を変えて見せる! 猫そぼろ @IITU

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