第5.5話 明晰夢
夢を見た……
いや……今、夢を見ている。いわゆる明晰夢ってやつだ。
どうして夢だと分かるかと言うと、もう大分昔に亡くなった筈の母さんがいるからだ……
僕が10歳の頃に母さんは亡くなった。
その頃の僕は……今とは違って、いつも3人で野原を駆け回っては冒険者ごっこなんてして遊んでいたんだ。
3人ってのはもちろん、俺とダリルとフィーネ。
俺はいつも母さんが聞かせてくれた英雄譚が大好きで、いつか世界を救う英雄になるのが夢だった。
その為の能力も持っていたんだ……
冒険者ギルドに行って、適当にそこら辺の強そうな人に触れる。
たったこれだけで、その人が秘密にしている事や今まで努力に努力を重ねて得た知識や技術、体捌きのコツに至るまで全て手に取るように記憶出来た。
魔法も剣術も体術も……何人もの冒険者から勝手に教えてもらっていた。
それだけで子供達の中で見たら飛び抜けて強くなった。多分大人にも勝てる程だったと思う。
だから俺は増長していたし、何でも出来ると思っていた。
野原に寝っ転がって空に手を伸ばす……
まだまだ小さな手だけれど、いつか空だって掴めるって。
出来ない事なんてなかった。
諦めるなんて考えた事もない。
自分の大切な人は全部、俺が守ってやるんだって。
何の疑いもなく、信じてたんだ……
その後、母さんが魔光病を発症した。
日に日に弱っていく母さん。肌が透き通るように白くなっていき、手足には徐々に鉱石の様なコブが出来てくる……それらは薄く光を放ち、冷やかな硬い質感で……あの柔らかかった母さんの身体は段々とゴツゴツして冷たくなっていった……
顔は痩せてきて、目が大きく見えてくる。やがてどんどんと落ち窪んでいく。涙は光を放つ様になり、喉は枯れて咳が酷くなってくる。
そうなってくるともう、いよいよ末期だ。
内臓も魔石化していき、栄養も取れなくなる。
弱っていく母さんを見るのは地獄だった……
痛いだろう……苦しいだろう……それでも母さんは僕の前では笑っていてくれたんだ……
ボロボロと涙を流す僕を父さんがただ抱きしめてくれていた。
何も出来なかった。
どんなに力があっても。
どんなにお金があっても。
どんな魔法を使っても。
発症すれば致死率100%
俺のチンケな能力じゃあ本当に守りたい人を守れなかった。
だから俺は望みを変えたんだ。強くなくていい。英雄になんかなれなくていい。地位も名誉も要らない。ただ平凡にただ平穏に……
何も望まないから、もう何も奪わないで……
僕のこの能力は副次的に記憶力も凄く良くなるんだ。
ほとんど忘れるって事がないくらいに。
だから、本当は分かっていたんだ。
でも認めたくなかったんだ……
気付かないフリをしていたんだ……
忘れた振りをして自分も誤魔化してたんだ。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで……僕から大切な人を奪っていくんだ…………
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