第5話 新しいダンジョン
──ザザザッ、ザザッー……ゲホッ、ゴホッ……みんなおはよう。ケホッ、ちょっと風邪ひいちゃったみたい……ごめんねぇ、明日から少しだけお休みさせて下さい……ケホッ、ケホッ……みんなも風邪には気をつけてね……ザザッー、ザザザッ…………
咳き込む回数が増えてきているし、声にはいつもの元気が無い…………フィーネの放送はどうやら明日から休むようだ。
もともとフィーネが好きでやっている事で義務ではないのだから、断りを入れる必要もなさそうだけれど……
──心配だ……そりゃあ、まぁフィーネだって人間だ。風邪ぐらい引いて当たり前なんだけれど……
それでも神の奇跡を司る司祭や司教、更には大司教までいる大聖堂で風邪が悪化するなんて中々ないはずだ。
フィーネ自身も治癒系の魔法が使えるし、大司教様に至ってはもっと高位の治癒系の魔法も使えるはずだ。
以前にフィーネが2、3日伏せった病は、まだ抵抗力の弱い子供の頃だった訳で、多数の死者が出る程の猛威を振るった病だったし。
──単なる風邪だったならいいんだけど……
少し胸騒ぎがして僕は飛び起きると、階段を急いで降りようとして……
そして気付く……脚の筋肉痛がヤバい……何だこれは? まともに動けないな……
仕方なく、ゆっくり降りて行くと食卓で父さんがパンを齧りながら新聞を読んでいる。
「あっ、おはようアル。ヨハンさんに頂いたパン先に食べさせてもらったよ」
「あっ、あー……それ……全部食べていいよ……」
いや、ヨハンさんの事信じてるよ……信じているけれど……ちょっと、ね?
「そうかい? いつにも増していい塩味だよ?」
「ブフォッ!? ゴホッ、ゴホッ……」
「アル? 風邪でも引いたのかい?」
「あはは……大丈夫だよ。大丈夫……」
父さん、なんかごめん……
☆☆☆☆☆
フィーネの事が心配だけれど、大聖堂に行ってもきっと取り次いでもらえないだろうな……
どうしてだろう……いつまでも胸のざわめきがおさまらない。
個人間で連絡が取れれば良いんだけれど。
一応、遠距離通信魔導具もあるけれど、まだまだ小型化が難しく、一部の富裕層や、重要施設ぐらいにしか置いていない。
どうせ筋肉痛で大して動けないし、フィーネから預かっているMAPの修理でもしようかな……
「アル、そういえば昨日組合長からコレを預かってきたんだよ」
「これは?」
僕が修理の準備をしていると父さんから古びた紙の束を渡された。
「神代の発明家と言われてるアガースのメモらしいよ。ニコラのメモから発明品を再現したからもしかしたらコレも再現出来るかもって」
「へー、ちょっと見てみるね」
そう言って僕は紙束を受け取り、精神を集中させる……
すると、膨大なアガースの知識と記憶が流れ込んでくる。
このメモを書いた時の記憶だから、アガース自身の思考も読み取れて理解がしやすい。
この記憶を読むに、神代の頃アガースは博士と呼ばれており数多の発明品を創り出している。
その中でも、このメモに書かれている発明品は……
音声を変更する魔導具や相手を追跡する為の物、浮遊して疾走する板、伸び縮みするベルト、領域を拡張して容量を増やした袋、極少量で相手を昏睡させる毒とそれを針に含み飛ばす魔導具……
使い方によっては便利な物かも知れない……
それにしても……一体何と戦ってたんだ?
「そうだね、この中のいくつかは再現出来そうだよ。役に立つかは分からないけど……」
「そのメモを見ただけで分かるなんて、やっぱりアルは凄いな。父さんなんて、それを見てもさっぱりだったよ」
「いやいや、そういう訳でもないんだけどね……」
僕のこの能力はきっと僕だけのものだ。人や物を触って記憶を読めるなんて他の人から聞いた事なんて無い。
ただ、実際に人に触れて記憶を読むと量が膨大過ぎるしプライベートな部分まで見えてしまうから、そこは自重してる。
能動的に使わないといけないし、物の記憶を読むぐらいでしか使っていないけど。
だからか余り褒められても、後ろめたさが勝ってしまう。
僕はさっさとフィーネのMAPを修理してしまう事にした。
☆☆☆☆☆
その日の午後にそのニュースは入って来た。
なんでも、このセイントヘイブンからそう遠くない場所に新たなダンジョンが発見されたらしい。
ダンジョンとは、極稀に発生する異常な魔力溜まりに、これまた低確率で生成される迷宮の総称だ。
ダンジョンが見つかると冒険者達がこぞって攻略に乗り出す。
単純にモンスターが生息して危ない、という理由もあるがダンジョンでは稀有なアイテムが入手できるからだ。
多いのは魔法のかかった武具系。役に立たない物から伝説級の物まで、ダンジョンで入手したという話はよく聞く話だ。
更に最奥部には、貴重な魔導具やエリクサー等がある事が多く、それを手にして一攫千金を狙う冒険者が後を絶たない。
しかし、ダンジョンは奥に行くにつれて強力なモンスターも出るし、色々なトラップまであり一筋縄ではいかない。
──きっとこのダンジョンでも幾人も犠牲者が出る事だろう。そこまでして……命をかけてまで手に入れたいものなんてあるんだろうか? 僕は慎ましくても、毎日穏やかに暮らせればそれでいいと思うけどな……
この話を僕に持ってきたダリルは、少し興奮気味にダンジョンのロマンを語るけれど、やっぱり僕はイマイチ共感出来ないでいる。
そういえば、僕も子供の頃は冒険者に憧れていたな……
「俺もいつかウィル達のパーティに入れてもらえないかなぁ! そしたらメーリスさんとも一緒に冒険できる!!」
「結局、ダリルはメーリスさんと一緒にいたいだけだろ?」
「あはは、まーなぁ。でもアルだってフィーネと一緒に居たいだろ?」
「そりゃあそうだけど……だけど、それで冒険者になるのはなぁ……それにダリルはモンスターと戦えるの?」
「フッ、食堂の倅を舐めるなよ! 料理係で付いていく!」
「はぁ……食堂の倅ったってほとんど手伝ってないだろ?」
「最近手伝ってんだよ! ホールだけど……」
ダリルがウィルのパーティに採用される事は無さそうである意味安心した。
やっぱり友達が危ない事するのは心配だからね。
新しく出来たダンジョンにはウィル達も行くのだろうか……
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