第4話 魔導具屋アル

──ザッ、ザザッー、ザザザッ……ゴホンっ。あーあー本日は曇りー曇りです。ちょっ〜と気分が上がらないけど、コホッ。……みんなも体調には気をつけて笑って行こう〜! ザザッー、ザザザッ…………


 ──やっぱり風邪でも引いてるのかな? 


 今朝のフィーネはやっぱり体調が悪そうだった。

 まぁ、今までも風邪を引いたりした事はあった。流行り病に罹り2、3日放送が無かった時だってあったし。


 たしか、その時には大量のお見舞いの品々が大聖堂に届いたそうだ。


 そしたら、フィーネが"気軽に熱もだせないわ"って笑ってたっけな……


 きっと今回も大量のお見舞い品に大勢の信者が大聖堂を埋め尽くすんだろうな……


 そんな事を思いながら、窓から外を見ると厚い雲が太陽を遮っている……

 僕は窓を開けて風を感じる……

 気温は幾分下がって来ているけれど、それでもまだまだ蒸し暑さを感じる……いまごろ……



「アルー? 今日は父さん組合の寄り合いがあるから、店番頼めるか?」


 僕が1人でちょっとカッコつけてると、一階から声が掛かる。


「はーい。大丈夫だよ!」


 僕は窓を閉めて一階に降りて行くと、父さんはリュックだけを背負って出て行く所だった。


「早いね? 朝から?」


「あぁ、寄り合いの前に組合長に呼ばれているのすっかり失念しててさ……あはは。今日は修理の依頼も残ってないから店番だけしててくれればいいから。なるべく早く帰るよ」


「はーい、大丈夫だよ。偶には外でゆっくりしてきなよ」


「あはは、ありがとう。まぁ、なるべく早く帰るよ」


 あははっと目尻を下げて笑う父さんは、我が父ながらなんとも頼りない。

 まぁ、魔導具作りや修理の腕はいいんだけどね……それ以外の生活力が低すぎる。

 もし僕がいなくなったら生きていけなそうだもんな。


 僕は簡単に朝食を摂った後、以前作った発明品の数々を微調整したりしながら店番をしていた。

 まぁ、中心地から外れてるこんな店に来るのは近場に住んでいる人ぐらいだから基本的に暇だ。


 あっ、そういえばフィーネから頼まれたMAPの修理でもしようかな。


 フィーネから預かったMAPを取り出して作業台に置く。

 大した造りじゃないから修理は簡単だろう。ただ、メイン基盤がやられたりしてたら新しく買った方がいいかも知れないけれど。


 とりあえず、魔光石を取り外すと、中にデータチップも残っているのが見える。


 とりあえず先に修理をしてしまおうと、MAPを分解しようとすると……


 ──カランコロンッ


 軽快にドアベルが鳴り響き、近所のパン屋のヨハンさんが入ってくる。


「おーアル坊。おはよう、元気だったか? お父さんいるか?」


「おはよう御座います、ヨハンさん。父さんは組合の寄り合いがあるって出ましたよ」


「なにー? まいったなぁ……」


「どうしたんですか?」


 ヨハンさんが頭髪の薄くなってきた額をペチペチ叩きながら、まいったまいったと繰り返している。


「店のパンを焼く魔導窯が調子悪くてよ……」


「あー、それなら僕が直しますよ?」


「あん? アル坊、お前修理とか出来るのか?」


「もちろん。最近は店の手伝いもしてるしね」


「よっしゃ、それならいっちょアル坊に仕事を頼んでみようか」


 ヨハンさんは癖なのかずっと頭をペチペチしながら、まいったまいったと言っている。


 一応、店の鍵を閉めて閉店の札を掛けてからヨハンさんのパン屋へと向かう。


 家から徒歩で5分ぐらいで着く場所にヨハンさんのパン屋はある。

 普段からウチで食べるパンは大体ヨハンさんのお店で買っている。

 素朴な味わいで微かな塩気が感じられる食パンが人気のお店だ。

 そこの魔導窯が壊れたらウチにとっても影響がある。


 魔導窯の回路基盤から見てみると、簡単に原因が分かった。部分的にショートしている事による導通不良があったのだ。


 一から作る事も出来るけれど、確か家に在庫があったなと思い、一度戻って取ってくる事にする。


「悪いねぇ、わざわざ」


「いえ、大丈夫ですよ。これなら直ぐに直りますよ」


 そう言うとヨハンさんは、今度は良かった良かったと言いながら薄くなった頭部をペチャペチャと叩いている。

 蒸し暑さもあってかヨハンさんの頭がテラテラと光を発しており、音もペチペチからペチャペチャになってきている。



 僕が家から部品を持って戻って来ると、ヨハンさんは店内の厨房でパン生地を捏ねていた。


「直ぐに直るってんならよ、準備しとこうと思ってよ!」


 僕は魔導窯の修理をしながら、ずっと頭の中で疑念が渦巻いていた……



 ──えっ? 手洗ってるよね?……



「助かったよ。アル坊! コレは代金だ。あとで焼きたてのパンも届けてやるよ! ガハハッ」


「えぇ……あ、ありがとうございます……」


 ガハハッと笑いながら、またしても頭を叩いている……

 もう叩くたびに煌めく何かが飛び散ってるんですけど……


 僕は遠い目をしながら頬をひくつかせながら答える。



 ──近くに他のパン屋ってあったかな……




☆☆☆☆☆




 家に帰る途中に、風船を放してしまったのか、木に引っかかる風船を見て泣き喚く男の子とそれを宥めるお母さんがいた。


 これは昨夜調整した、身体能力増強シューズを試してみよう。

 

 増強ダイヤルを1だけ回して……


 軽く跳んでみると、驚くほどジャンプ力が上がる。

 これなら……


 僕は軽く助走をつけ、跳ぶと木に引っかかる風船を上手く掴む事が出来た。


「はい」


「凄〜い! お兄ちゃん! ありがとう!」


「ありがとうございます!」


 風船を男の子に渡すとお母さん共々凄く感謝してくれた。


「いえいえ〜、じゃあねー」


 男の子に手を振って華麗に去って行く……



 ヤバい……この靴ヤバい……ダイヤル1は確か元の身体能力の3倍ぐらいな筈だけど……


 太ももとふくらはぎに違和感を感じる……


 明日と言わず今日中に激しい筋肉痛に、襲われそうだ……


 これ、ダイヤル2は更に10倍だったな……調整甘かったぁ……もっと倍率下げないと……


「カッカッカッカッ! 少年! 素晴らしいジャンプ力だなっ!」


 突然、快活な笑い声と共に声をかけられた。振り返ると、個性的な異国の装束に身を包み、暗い緑髪をした男性が僕を見ていた。


 ──たしかキモノとか言う異国の服だ……この人は……


「シモンさん?」


「カッカッカッ、オレを知っているのか少年?」


「あっ、実は僕はウィルの……」


「なるほどっ!! 少年もオレのファンなんだな!! 」


「あっ、いえ、そういう訳じゃ……」


「カッカッカッ! なんだ? サインか? サインが欲しいのか? どこだ? どこに書く?」


 ──なんだこの人!? 全然話を聞かない人だぞ……


「大丈夫だ! 安心しろ! サインペンはいつも携帯している! ありがとうは?」


「えっ? いや……」


「ありがとうは?」


「あ、ありがとう……ございます?」


「うむ! では、その魔導具の靴にサインしてやろう! 礼はいらんぞ! カッカッカッ」


 何だか凄く声が大きいし、勢いが凄い……勢いに負けて靴にサインを書いてもらった……


「それでは少年! また……」


「シモン……この子加護持ちよ」


 嵐のようにやってきたシモンさんがサインをし終えて去ろうとすると、キモノの袖から小さな人型が飛び出してくる……


 妖精だ……初めて見た!!


「!? ほう? ほうほう……なるほど。2人目か……」


 小さな女の子の見た目の妖精がシモンさんと話をしている。

 シモンさんの声はデカいから聞こえるけど、妖精の子は小声で話してるのかよく聞き取れない。


「少年! 名は何という?」


「アルクィードですが……?」


「ではアル少年! また会おう! カッカッカッ!」


 妖精と何を話してたのか気になるが、訊く前にシモンさんはさっさと行ってしまった。

 本当に嵐みたいな人だったな……




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