第128話 鍛冶職人ヴァルカン

「いやぁね。お見苦しいところをお見せしてしまって申し訳ない。」


暫く続いた怒鳴り合いが収まると、我に返ったソアレさんに頭を下げられた。


怒鳴り合いを聞いていた結果分かったのは、この2人は鍛冶職人のヴァルカンさんとその奥さんのソアレさん。


大都で1,2を争う程の凄腕鍛冶職人だったそうだが弟子に騙され借金を負い、店を売り払って逃げる様にこの街に来たそうだ。


何でもヴァルカンさんの作った新しい剣を弟子が自分の名前で商品登録して、ヴァルカンさんが今までも自分のアイディアを横取りして今の地位に就いたんだと騒いだそう。


「弟子の言った事の方が信じられちゃったんですか?」


「とある貴族が弟子の肩を持ったのよ。その貴族が伯爵だったから信憑性が高いだろうと、そちらの意見が通ってしまったの。」


「しっかりと調べもせず伯爵が言ったから正しいなんて判断なんですか?!そんな調査判断基準でこの国大丈夫?!」


「大丈夫も何もそれが現実だ。抗議もしたが取り合ってもくれんさ。」


なんだかなぁ。


結局、その事件がきっかけでヴァルカンさんは武器その物が打てなくなってしまったらしい。


見かけによらず繊細だから心の傷は癒えていないのよとソアレさんがそっと教えてくれた。


「先程も言った様に、私が作って貰いたいのは武器ではなくて調理器具なんですけど、どうでしょうか?しかも結構種類がありまして。」


「あなた、この仕事受けてみたら?元々物作りが好きで始めた仕事でしょう?」


「これ、作ってもらいたい物の設計図的な物なんですけど良かったら見てください。調理器具が置いてあるお店には置いて無かったんですけど、どうしても欲しくて!」


私はヴァルカンさんの前にコンロを始めとした欲しい調理器具の絵と説明書きを書いた紙を広げる。


因みにこの紙は始まりの町を出るときに商業ギルドのサブマス、メリアさんに大量に渡されたもの。


「作りたいと思った物はこれに書いてとりあえず商業ギルドに相談に行きなさい!!」


と、ギルマスのエドガーさんと共に力説された。


この設計図的な物はこの後、アニュラさんにテルフォンを借りてエドガーさんとメアリさんの居る始まりの町の商業ギルドに登録してもらうつもり。



この街の商業ギルドの対応をまだ根に持ってるので、此処では登録したくないというのが本音。


「まぁ、これはまた複雑そうね。なんだかワクワクするわね!」


設計図的な紙を見ながらソアレさんが楽しそうに目をキラキラさせている。


「前例の無い物を作ってもらうので、確かな物作りの知恵と腕のある方にお願い出来るのは有り難いのですが駄目でしょうか?」


鑑定でヴァルカンさんの腕が本物だと出ているのでお願い出来るなら嬉しい。

なんせ元の世界の鍛冶神と同じ名前の鍛冶職人さんだもん。


引き受けてもらえるかドキドキしながらヴァルカンさんの方を見ると、私の渡した設計図的な紙を目を見開いて見ていた。

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