第71話 むにっと

「こら!待てー!!!」




色々と試作した水が湧き出てくる魔法陣を刻んだ桶をアイテムボックスにしまっていると、遠くから声が聞こえてきた。


ガサガサと草をかき分けて走って来る気配を察知。


魔物反応が1つとそれを追いかける人間の気配が1つ。


どんどんとこちらに近づいてきている。


『サクラ下がれ。』


ヴィミエナが私の前に立ったかと思うと前方から黒っぽい何かが飛び出して来た。


ビタン!!!


飛び出して来た何かはヴィミエナの見事な尻尾アタックをくらい、近くの木に叩きつけられて落ちた。


「黒っぽいというか、灰色っぽいスライム?」


叩きつけられて伸びてしまったゼリー部分を小刻みに揺らして元の姿に戻ろうとしていたのは濁った灰色のスライム。


結構大きいサイズで、バランスボールくらいありそう。


『殺るか?』


ヴィミエナが前足でスライムをむにっと押さえつけてスライムに牙を剥き出したとき、


「スライム待てー!!ひぃぃ!!!」


灰色のスライムが飛び出して来たあたりから今度は少女が一人飛び出して来て、牙を剥き出したヴィミエナを見るなりひっくり返えった。


「大丈夫?怪我はない?この子は私の従魔だから大丈夫よ!」


ヴィミエナを見たまま腰を抜かしている少女に手を貸し立たせる。


栗色のボブヘアーがなんとも可愛らしい10代前半くらいの女の子だ。冒険者にしては軽装過ぎるし年齢的にも違うかな?


「あ、あのこのスライムもお姉さんの従魔ですか!」


少女が指差したのはヴィミエナにむにっと踏まれている灰色のスライム。


「いや、このスライムは違うよ?急に飛び出してきたからこうなってるのよ。」


「あ、あのお願いします!そのスライム私に譲って下さい!ずっと追いかけてたんです!!」


少女は頭が地面に付きそうなほどの勢いで私に頭を下げてきた。


本来なら他の人の獲物を譲ってくれというのは褒められた態度では無い。と、イルマさんに貰った資料に載っていた。


でも、待てーって先に追いかけてたのこの子だし、今の状況だとどちらかといえばこっちが横取りしたみたいな感じじゃない?


「別に構わないよ?元々あなたの方が先に追いかけてたスライムでしょう?私にぶつかりそうだったからこうなってるだけで、あなたの獲物を横取りする気はないからどうぞ。」


「あ、ありがとうございます!!」


お礼を言って、これまた地面に頭が付きそうなくらい頭を下げた少女はヴィミエナに驚いて腰を抜かした時に落とした木材を手に持ってスライムの方へと躙り寄って行った。



待って!どう見てもそこら辺で拾ったであろう木材が武器なの?!



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