第2話 捨てられる前に拾われる⁉①

私は九重桜。従兄妹達に起きた勇者召喚に巻き込まれた一般人である。私を巻き込んだ女神メガリスの機嫌を損ね、死の森という場所に身ひとつで捨てられる事になってしまった……


「いや、信じられない!自分で巻き込んどいて知らないとか!最後まで自分で巻き込んだことは認めなかったし、それにツッコんだら怒って物騒な名前の森に捨てるとか!素敵な経験が出来るってあれ絶対に死ねって事でしょ!どこが美しさと慈愛の女神よ!!」


人気の無くなった部屋でついつい大きめな声を出してしまった。


『ご、ごめんなさい…』


はっと我に返ると、大きな耳と尻尾をしゅんとさせた狐耳の女神様がこちらを見ていた。


「あなたが悪い訳じゃないもの気にしないで!寧ろ嫌な役割をさせることになってしまってごめんなさい。」


私は今にも泣きそうな狐耳の女神様に笑顔を作り言う。


「寧ろあのまま従兄妹達と共に行動しなきゃいけなくなる方が私にとっては地獄だもの!だからあなたは気にせず私を死の森とやらに送ってくれて大丈夫ですよ。」


上手く笑顔を作れていただろうか?異世界とやらに着いた途端に死が待っているかもしれないのに不思議と恐怖は余り感じていない。


従兄妹達に付いていかなくて良いのは本当に嬉しい事なのだ。昔から人の事を馬鹿にして、ばあちゃんの事を馬鹿にして、先が長く無いと医者に言われても会いに行こうともしないのに遺産は貰えると思っていた。


そんな従兄妹達と一緒に生活なんてまっぴらである。寧ろ今は狐耳の女神にこんな事をさせたメガリスという女神への怒りの方が強いくらいだ。こんなに可愛らしいモフモフな少女女神様をあんなに雑に扱って‼


『こちらからダルシュテル大陸の死の森へお送りいたします。』


狐耳の女神様に案内されて大きな魔法陣のある部屋に着いた。


「私が行くのはダルシュテル大陸と言うところにあるのね。」


そういえば、何も説明されていなっかったな。メガリスは私を亡き者にする気満々だったし、しょうがないか…そんな事を考えながら魔法陣の上に立つ。


『あ、あの、死の森はとても強く危険な魔物や魔獣が沢山住む森です。だ、だから、私の加護を桜さんにお授けします!生まれたばかりの新米女神の加護なんて余り役に立たないかもですが、私は一応、浄化魔法を持つ女神ですので少しは!少しは!』


泣きそうな顔のまま勢い良く私の手が握られる。そこから優しく暖かい光が私の身体を包み込んだ。ほわりと体の中から小さな力湧いて来るようだった。


『これで狐火が使えます。攻撃力は殆ど無いのですが、少しですが浄化の効果がありますので、何か食べられる時はこの火を使って頂ければ食あたりに合うことは無いと思います!熱くしない状態でも出せますので色々な物の浄化に使えるかと‼それと、それと…』


狐耳の女神様が必死に説明をしてくれている。本来なら私の巻き込まれには全く関係ない女神様のはずなのに、少しでも私が生き残れる可能性を考えてくれている。私を死に追いやり自分の失敗なんて無かった事にしようとしているメガリスとは大違いだ。


「素敵な加護をありがとうございます。良ければ女神様のお名前をお伺いしても?」


一生懸命に加護で得られる力の説明をしてくれた小さな狐耳の女神様をモフりたくなるのを何とか堪え、私はしゃがんで目線を合わせる。


『イシュタルウェヌス…《浄化と焔と美の女神|》として生まれました…』


狐耳の女神様が小声で答える。元の世界の神話に出てくる愛と美の女神様達の名前を合わせた様な名前ね。でもしっくり来るような名前だわ!間違いなくメガリスよりは心美しい女神様だもの!


「改めて、素敵な加護をありがとうございます。イシュタルウェヌス様。《浄化と焔と美の女神|》様なのですね。とても納得だわ!その他に慈愛も付けて頂きたいところですね。」


私は改めてイシュタルウェヌスの手を握り返しお礼を言った。


『それ程でもない…美の女神は何人も居るし、生まれたばかりで力の無い私はあんまり役に立てていない。それに、慈愛は聖属性を持つ女神の中でもメガリス様だけが持つ称号だから、私なんて…』


イシュタルウェヌスは俯きながら言うと耳と尻尾も垂れ下がっていく。



「そんな事を仰らないで。あなたは巻き込まれ見捨てられた私に加護をくださったわ!こんなに素敵な加護を頂いたのだもの、あの女神の望み通りすぐになんて死んでやるもんですか!」


イシュタルウェヌスの加護を授かったから死の森を生き抜ける可能性が高まった訳では無い。でもあのメガリスとか言う女神の思い通りになんかなってたまるか!という思いがコンコンと湧いてくる。


狐耳の女神様の加護だけに…かな?!


「大体、美と美しさは一緒だし、慈愛とか言ってるけどあれはどう見ても自分を愛する自愛の女神よ!!慈しみなんて無いじゃない!!」


イシュタルウェヌス様がまたオロオロとし始めてしまった。本心だったこともあり思わず力説してしまったのだが、困らせてしまったかもしれない。



そう思った時、部屋の入口から複数の笑い声がした。

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