第47話

「悟、本当に生きていてくれてありがとね」


 あの後、一度解散することになり約束通り美鈴と一緒にいることになった直後、僕はこうして彼女に抱きしめられながらこうしている。


 今は、鏡花の家を離れて彼女の家へと強引に連れてこられたところである。


「それにしても、お義母さん驚いてたね」

「仕方ないよ。だって、お義母さんは悟が生きてたこと知らなかったんだもん。私も悲しかったけれど、お母さんも悟が死んだって聞いて悲しそうにしていたから良かった。...........本当に良かった」


 美鈴はそう呟いて肩に顔を埋めてくるので、頭を撫でる。あの時、駅前であったときは艶のなかった髪もそれに、元々細かった体が更にガリガリに痩せた体も幾らか元に戻ったようで良かった。


 そうしてしまった罪悪感はあるが、今僕がそれを表に出してもいいことにはならないだろうからこれは、心にしまっておこう。


「悟君、いるかな?」

「はい、いますよ」


 扉をノックしてから入ってきたのは、美鈴のお義母さんだった。


 美鈴は母親が来たのにも拘らず、僕から離れる気はないようでずっと僕の事を抱きしめている。少し恥ずかしいが、お義母さんもさして気にしていない様子で微笑ましい顔をして美鈴の事を見ていた。


「今日は、泊ってく?」


 そう言われたので、美鈴の方を見ると頷いてと言外に伝えてきたので


「お邪魔させてね。ごめんなさい、お義母さん」

「いいの。悟君ならいつでも家に来てもいいし、幾らでも泊まって行っていいから」

「ありがとうございます」

「それに、もう悟君分の夜ご飯は作ってしまったから良かったわ。それじゃあ、悟君。美鈴の事をよろしくね」

「はい」


 そう言って、お義母さんは部屋を出て行った。


「悟、今日はさ、ね?」

「うん」

「お泊りもすることだしさ、ね?私は悟の事もっと知りたいなって」


 彼女は妖艶な笑みを浮かべて此方をじっと見て来たので、僕もその勇気に応えて唇を重ねた。


 すると、彼女はさらに笑みを深めてそれ以上を求めて来たので、それをそっと止めた。これ以上するとせっかく作ってもらった夕飯を食べられなくなりそうだったから。


「なんで?止めちゃダメ」

「これ以上したら止まれなくなるからダメ。せっかくお義母さんが夜ご飯作ってくれたんだから。夜まで待ってて」

「……仕方ないね。それなら。でも絶対にするからね」

「分かってる」


 そう言ってもう一度彼女は唇を重ねてそっと立ち上がったので僕も立ち上がり二階から降りるために美鈴の部屋の扉を開けようとした。


「あ、そういえば悟ってもう経験してたりする?」


 振り返って彼女の方へと向くと、笑みを浮かべているものの答えによってはこのまま一生この場所に捕らわれるような錯覚に陥ってしまいそうになる。


 ..........でも、ここで嘘を吐いて後々バレればさらに彼女は病んでしまうだろうし、僕ももう彼女達には隠し事はしたくないから。


「……ごめん、もうしたことある」

「..........ふふ、そっか。そっか」


 そう言って何度か頷いた後、彼女は此方に来て囁くようにこう耳打ちをした。


「私が、悟の事塗り替えてあげる。全部私色にしてあげるから。覚悟してね?」


 彼女はそのまま扉を開けて階下へと降りて行った。


 後日..........全くと言っていい程、お義母さんとの会話、夜ご飯の味を思い出すことなんてできなかった。

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