第43話
化け物が放った言葉に僕は硬直してしまった。
あいつは今なんていった?「ありがとう」なんて言わなかっただろうか?其の言葉が僕の耳で反芻され、僕が今更になって父親を殺したという実感が押し寄せてくる。
もしかして、僕は間違ったことをしたのではないだろうかという疑念がムクムクと心の中で芽生え気持ち悪さが背筋を這って行く。
大丈夫、ダイジョウブだから。
そう言い聞かせるがやはり疑念は晴れない。
その時だった。
家の玄関が開き誰かが入ってきた。ただいま、という声が聞こえる。僕は覚束ない足取りで入ってきた人の元へと向かう。
「悟、ただいま。お父さんは?」
帰ってきたのは母親だった。
「倒したんだよ、お母さん。僕が、倒した」
ただ、、僕はそう言った様な気がする。
そう言った僕の言葉を数舜経って理解したのか、僕を押しのけて母さんは走り出して化け物が寝ていた部屋に入っていった。
「キャー!!ど、どうして、なんで!?どうしてよ、なんで、なんで?あなた?生きているのよね?ね?」
僕も追いかけていくと母親が狂乱していた。必死になって父親に寄り添って生きているのか確認している。
「お、お母さん。た、倒したんだよ。倒した」
そう言った僕の事をギロッと凍えるような瞳で見つめてきた母さんは、僕に対してこう言い放ったのだ。
「誰も、そんなこと頼んでない!!...........あんたが死ねばよかったのに。どうして、あんたが生きているのよ。代わりに死ねばよかったのに。あんたなんて、あの人からの愛情をもらうためだけに生きてたのに。どうして?なんで?なんで、あんたが生きてるのよ」
また、僕は理解できなかった。
母さんが何を言っているのか、何を話しているのかすら分からなかった。
「私は、あの人を愛していたのに。あんたなんて、ほんの一ミリも愛していなかったのに。あんたなんて、あの人からの愛情を受けるための道具でしかなかったのに。しねよ、早く、死んで。ねぇ、死んでよ」
母親は殺意の籠った目を此方へと向け、父親に対しては本当に悲しそうな、心を痛めた顔をしているのだから、全くと言っていいほど理解できない。
どうしてだろう。
なんでだろう。
その時初めて理解した。おかしかったのは、とうさんじゃなかった。とうさんは化け物じゃなかった。化け物だったのは、母さんだったんだ。
父さんも、僕もあの人に飼いならされていた道具でしかなかったんだと、幼いながらに気づき、急いでそこから逃げた。
あのままあそこにいれば、僕は壊れてしまう。殺されてしまう、おかしくなってしまう、死んでしまいそうになる。くるってしまう、僕の中の自我が完全に壊れてなくなってしまう。
幼いながらも僕はそれだけはわかった。
こちらに向かってくる醜悪な化け物から逃げ出した。僕は何もかもが分からなくなりそうだった。
逃げて、逃げて、逃げて。
そうして、今につながる。
今度こそ、間違えない。僕はあの時、父さんの事を救えなかったから。
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僕が皆から嫌われすぎても、彼女だけは隣にいた
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