第42話
恐怖と不安におびえる毎日を過ごしていた僕の精神は限界を迎えようとしていた。父親が何かしようと動くたびに体をビクリとさせてしまう。
母親の悲鳴が聞こえるたびに心を無にして、耳を塞いだ。何故僕はこんな目にあっているのだろう。僕なんか生まれなければよかったのだろうか。
いや、そもそも僕は生きているのだろうか。死にながら生きているんじゃないか。なんて幼いながらもそんなことを考えていた。
過去に一度だけ、母にこんなことを言ったことがある
「お母さん、ここから逃げよう」
僕がそんなこと言うと、お母さんは曇った瞳で「それは、ダメなの。それだけは絶対」そう言った。幼い僕では人の感情を読むなんてことは出来なかったため、あのときお母さんが何を考えているのか分からなかった。
僕にとっては地獄だった毎日はある日、終わることになる。
僕の手によって。
あの日の前日。
またも暴力によって僕が殴られ、それを庇った母親が殴られ、蹴られそしてその日は打ち所が悪かったのか、母親の頭から血が流れていた。
その時、僕の心の中の何かが壊れた。
それまでは、自分の父親の事を辛うじて父親だと認識していたが心の中で何かが壊れた時醜悪な化け物にしか見えなくなってしまった。言葉すらも、何か違う言語に...........いや、言葉にもなっていなかった。うめき声のようなものにしか聞こえていなかったのだ。
殺さなきゃ。
殺さなきゃ、僕が死んでしまう。殺されてしまう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
自分を守らなければいけなくて僕は必死だった。
母親が昨日の傷のために病院へと出て行った時のことだった。僕はその時、あの化け物を殺さなければいけないと思った。
まだ、大きな鼾をかきながら寝ている化け物のところへと行く。僕の手には包丁が握られていた。あいつを殺せば、僕とお母さんは解放される。僕の思考は殺意に支配されていた。
お母さんは褒めてくれるだろうか。きっと褒めてくれる。解放してくれた。助けてくれたってそう言って褒めてくれる。大丈夫、僕は、きっと大丈夫。仕方ない。だって、殺さなきゃ殺されてしまう。
化け物が寝ている部屋の扉を開く。呑気に寝ている化け物へと近づいていく。右手に持っている包丁をじっと見た。
今までの事、そして、これから続くであろうことが想像されて、僕は明らかに普通じゃない状態になり、興奮して呼吸が浅くなっていく。
大丈夫、大丈夫、ダイジョウブ。
僕は右手を化け物に振りかざした。
深々と胸に刺さった包丁の痛みで化け物が目を覚ました。
「ッ!!??」
目を覚ました化け物に対して何度も、何度も包丁を振りかざす。
「さ、...........、と、る」
化け物が人間の言葉を発した、その時僕の思考はやっと元へと戻っていき段々と冷静になっていく。
「さ、とる。...........あり、がとう」
そう言った、お父さんはそこでぐったりとしてもう二度と言葉を発することは無かった。
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僕が皆から嫌われすぎても、彼女だけは隣にいた
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