第41話
「じ、自己紹介も終わったし、みんな座った方がいいんじゃない?」
僕がそう言うと彼女たちと鏡花は素直に従って座った。だが、まだ彼女たちと鏡花はニコニコと内心が全く分からない笑みで見つめあっている。
「えぇーっと、さ。まずは、改めて今までみんなに謝ろうと思う。ごめんなさい。今まで不安にさせちゃって」
「いいの。私は悟が生きてくれさえいればもうなんだっていいの」
美鈴がそう言ってこちらに涙ぐんだ視線を向ける。
「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが生きてくれてたってだけで私はこれから先、生きていけるんだから。だからもう謝らなくていいよ」
「悟君が生きてくれているだけで、美嘉は嬉しいし幸せ」
「悟、本当に生きてくれてありがとう」
「悟、大好き。これからさきもずっと一緒」
他の四人もそういって僕の事を慰めてくれる。
やはり...........彼女たちは僕に依存しすぎている。明らかに僕が悪いということさえ許容してしまう。何もかも許されてしまうと勘違いしそうになるほど。
例えば僕が人殺しをしたとしても
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これは、僕が犯した過ち。
いまだにその夢を見ることもある。僕は一生、あの出来事に縛られ続けるだろう。
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「おい、悟。痛いか?痛いよなぁ!!だが、俺の方が社会に出て辛くて苦しい中働いてやってるんだよ。お前らのことを養うためにな」
そう言いながら小さい僕の上で拳を振るうのは、僕の父親だった。
「あ、あなた止めて、止めてよ。私の事を殴ってもいいから。ねぇ、止めてぇ!!」
「うるせえぞ、美知留!!」
止めに入った美知留と呼ばれる僕の母親は蹴られて、床に転がった。
所謂、家庭内暴力。DVと呼ばれるものが僕の家では日常的に行われていた。いつからそうだったのかも覚えていない。ただ、物心ついたころには暴言を吐かれていた。
だが、面白いことに父親は世間では育児のできる夫で通っていたのだから不思議である。
ひとしきり顔を引っ叩いてすっきりしたのか、僕の部屋から出て行った父親を見届けてから、僕は這うようにして母さん方へと這って行った。
「だ、い、じょうぶ?お母さん」
僕の声にピクリと反応した母さんは、此方へと顔を向けて「大丈夫よ」とそう言って僕の頭を撫でた。
よろよろと立ち上がって、ふらつきながら僕の部屋を出て父さんの後を追って僕の部屋を出て行く。
そして、数十分もすれば父さんの大声と母さんの悲鳴。そして、母さんの悲鳴は嬌声へと変わり、僕は家の中でただ座って天井を眺めていた。
僕の心はただ無だった。
止めに入ったところで僕がまた殴られるだけ。そして母さんが更に暴力を振るわれるだけだと経験則から知っていたので止めに入ることもできなかった。
あぁ...........いつ終わるんだろうな。寝られるようになるのはいつだろう。父さんが寝てからじゃないと寝られない体になってしまった。
前に僕が寝ていたら急にたたき起こされて「何、俺が外で働いてきて、疲れてるのにてめぇはすやすや気持ちよさそうに寝てるんだ」とそう言われ、暴力を振るわれた。
それ以来、父さんが寝るまで寝られない。
きっとあと数十分もすれば嬌声も止んでやっと寝られる。だから、それまでこうしてただ天井を見上げて心を無にしていればいい。
幼い僕の心はもう壊れかけだった。
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