第40話
「大丈夫、悟?私としては、悟の過去を話さずにそのまま何処かへ一緒に逃げてもいいの。こんどこそ誰にも見つからない場所でずっと二人で暮らす」
「それもいいけれど、やっぱり僕は話すよ。それに、次、彼女たちから逃げてしまったら、取り返しのつかないことになるっていうことは馬鹿な僕でも流石に分かるから。だから、話すよ」
「…そっか。でもね、私だって納得できてないから。あの祥子とかいう女にさえ見つからなければ悟はずっと私の悟だったんだから」
「それは、ごめん」
「もう、悟のごめんは軽いなぁー。まぁ悟からすればそういうしかないから仕方ないんだけれど」
鏡花はそう言って仕方がなさそうに肩を竦めた。
「そろそろ、来るんじゃない?」
「そうだね」
そんなことを話していると、扉がノックされた。
「鏡花様」
「通していいわよ」
「はい」
彼女たちが来た。
大丈夫、心の準備は済ませているから。
「…へぇ、この人たちがね。随分、美人が多いみたいだけれど」
「い、いや。それは関係ないよ。たまたま助けた彼女達が綺麗だったっていうだけ。他意はないよ」
「ふぅーん、そっか」
鏡花はじぃっと彼女たちの事を見つめる。
当然、彼女たちも鏡花のことを見つめるがその目は険悪や若干の殺意の籠った視線を向けていた。
「初めまして。私は鏡花」
そう彼女は殺意の籠った視線をさも気にしていないかのようなニコニコとした笑みを浮かべて彼女たちへと手を差し伸べた。
「私は、美鈴。悟とはあなたよりも長い付き合いよ。これからよろしくね」
と、鏡花と同じような笑みを浮かべてニコニコと笑っているがお互い目は濁っている。
「私は、美嘉。悟君とは将来を誓い合ってるの。あなたとは違ってあんなことやこんなことをしている関係です。どうぞよろしくね」
美鈴とは違い、美嘉は殺意を隠そうともせず睨んで鏡花の事を睨んでいる。
「私は桜って言いまーす。テレビとかには出ているので知っているかもしれないですけれど、声優やってます。あなたとは違ってぇー家に頼らずにお兄ちゃんの事を一生養える準備は出来てます。よろしくお願いします」
アイドルのようなキラキラとした笑みを浮かべながら、だが隠しきれないイライラと殺意を言葉に乗せて鏡花の手を取った。
「私は可憐。誰よりも悟の事が好き。あなたよりも絶対に」
そうぶっきらぼうに言い放ち、鋭く彼女へと目を向けた。
「私は前にもあったけれど、もう一回言っておく。私は祥子。近いうちに悟と結婚する女。絶対にお前の事は許せない」
可愛い彼女からは想像も付かないほどの増悪を込めて、鏡花へと視線を向けた。
その間、僕はと言えば何も言えずにただそれを眺めることしかできない。ここで彼女たちの間を仲裁しようとしたところできっと無理だろう。それに、これは元々僕が起こした問題だから、ここで割って入っても彼女たちの怒りはさらに増すだけ。
冷戦のような攻防をじっと見ていると、鏡花はふっと笑ってこう言い放った。
「何を言っているか、分からないけれど。これだけは、言っておくね。私が悟の事が一番好き。まぁでも私は悟にとっていい女だから、あなたたちも許容できる懐の大きさはあるわ。そこがあなたと私たちの違い。これからよろしくね」
そういって今度は先ほどよりも綺麗な花咲くような笑みを浮かべたのだった。
ここから先、どう僕は過去の話、そして死にたいと思っていることを打ち明ければいいのだろう。
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