第38話
「生きて、た。やっぱり悟は生きてたんだ。ずっと、ずっとおかしいなって思ってたの。悟が私に黙って急に死ぬはずないって分かってた」
「ごめんね、可憐。急にいなくなって」
ぺたりと座り込んでしまった彼女に近づいて、そっと彼女の手を取り立ち上がらせた。
「悩んでたの。これからどう生きてこうかなって。悟がいないこの先をどうすればいいのか全く分かんなくて。悟がいるから私は将来を考えられていたんだなっていなくなってから気づいたの。将来を想像したとき、悟がいないなんてことなかった。ずっと、悟と一緒だった」
「ごめんね、可憐」
「...........いいの、こうして戻ってきてくれただけでも嬉しいから」
可憐はギュッと抱きしめてくれる。
僕も可憐のことを抱きしめ返そうとした時、視界の端で誰かを捉えた。あたりが想像以上に暗く、街灯の真下であるここからギリギリ見えるあの姿は...........
「.......美鈴?」
そう僕が言うと、彼女は薄暗いところからこちらの明るい場所へと寄ってきた。顔を見ると、やはり美鈴だった。
「悟。生きてたんだ。あいつが気が狂ったわけじゃなかったんだ。よかった、これで私は.......生きていける希望を見つけた」
あの凛々しく僕の前では甘えていた生徒会長の面影はなく、美嘉同様にげっそりと痩せてしまっていて憔悴しきっていた。
「ごめんね、悟。私、悟のことなんにも知らなかった。私のせい、全部、私のせいなの」
「…え?ち、違うよ。これは全部僕のせいだから。勝手にいなくなって迷惑をかけた、僕のせい。だから美鈴のせいなんかじゃないよ」
「.......違わないの。全部私の.......いや、そこの女も含めて私たちのせい」
美鈴は僕のことを抱きしめている可憐を指さしてそういった。
「どういうこと?これは、全部僕の問題で、美鈴たちが謝ることなんて何もないよ」
「だから、違わないの。全部、あれもこれも私たちが悟君のことを知らなさ過ぎたせいなの!!だから、全部私たちのせい」
彼女はそう言って僕の目をじっと見た。その目は何日も寝ていないのか疲弊しているが、そこはかとなくドロドロとした黒い思いを宿しているように見えてならなかった。
私たちが、悟君のことを知らなさ過ぎたせい。
彼女は確かにこういった。
「悟君は、私たちのことを何でも知っているけれど。私たちは悟君のことを全然知らない。家も、どういった家庭環境なのかも、何もかも全然知らない。知ろうとしてこなかったの。だから、私たちが、悪い」
そう言った彼女は泣きそうな顔をした。
美鈴の言葉に気づかされたように可憐もハッとして僕の顔を見上げて涙を零した。
違うのだ。それでも彼女たちは悪くない。
そもそも僕は、彼女たちに自分のことを聞かれないように立ち回っていた。できるだけその会話を避けていた。僕は後に死んでしまうのだから、僕の過去に深入りさせたくはなかった。それに僕の過去なんてまともなものじゃない。人に話せたものでもない。
だから、彼女たちは悪くない。全部僕が悪いのだ。
「ねぇ、悟君。教えて。悟君のこと。悟君は誰なの?どういった人なの?どうして私たちを助けてくれたの?」
「...........わかった。全部、話す。今週末にこの場所に来て」
...........話さなくてはいけなくなった。
だが、これ以上隠すこともできないし、すべて僕が引き起こしたことだから。
だから、すべて話そう。
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