第34話

 美嘉と出会ってから結構時間がたった。よくないとは思っているが、彼女と仲良くなればなるほどに彼女が僕に依存していることはわかっていた。だから、適度な距離を保つためそれとなく彼女には父親とどういう関係なのかを聞いてはいるが、毎回笑ってはぐらかされてしまう。


 だが、数日前、寝言で「お父さん、お母さん」と呟いていたことから彼女が父親との関係を元に戻したいのだとは思う。これで、やっと僕が彼女のお父さんと美嘉を取り持って空回りすることはないと確信が持てたため、やっと動き始めることができた。


 彼女は家に父親が帰ってくるときは僕を家に呼ばない。それを逆に利用し、その日に彼女の家の前で彼女の父親が来るのを待ち構えた。かなり遅くまで待つことになってしまったものの、深夜十一時を過ぎたあたりで彼女の父親は姿を現した。


 最初、僕を見たときは困惑したものの娘さんの友達で相談があると言うと、父親は素直に話に応じてくれた。家には彼女がいるため、近くのファミレスへと移動し彼女がどう思っているのかを話し、父親がどう思っているのかを聞いた。


「私も娘とは仲良くはしたい。だが、今まで放ってきてしまった分どうやって接すればいいのかわからないのだ。私は、娘から逃げたのだから」


 そう言った父親はぽつぽつと内心を語り始めた。


 どうやら彼女が小さいときに、それも彼女の誕生日の日。母親は交通事故で亡くなったようだ。父親と美嘉は深い悲しみに暮れて、その日は誕生日どころではなかったらしい。


 父親は家政婦などに家事を任せ、奥さんを失った悲しみを誤魔化すように仕事に明け暮れていた。そうして、一年、また一年と経ち、奥さんを失った悲しみが段々と薄れてくるころになるともうどう娘と接すればいいのかわからなかったそうだ。


 寂しい思いをさせていた罪悪感や、家事もまともにできない自分の情けなさ、今までまともに話していなかったせいでどうやって接すればいいのかすらわからず彼女との距離が遠いままずっとそれを引き摺っていたらしい。彼女が夜な夜な何処かに言っていたのも知っているし、止めようともしたけれど今更父親面をすることもできない。

 

 もうこのまま成人してこの家を出て行くのをただ待つしかないのかとそう思っていたようで彼からしても僕が声を掛けてきてくれて良かったようだ。


「君がこうして私のところに来てくれなければ一生決心がつかないまま死ぬまで後悔していたかもしれない、本当にありがとう」

「いえ、こんな子供の我儘を聞いてくださってありがとうございます。僕はただ友達とそのお父さんの仲が良くなればいいななんて子供染みた考えで行動しただけですから」

「そんなことないよ。その行動で私は勇気が出たし、ありがたかったから」


 勿論、打算ありきの行動だったが、彼女の父親が決心してくれて良かった。


「それじゃあ、私は娘と話さなければいけないことがあるから早く帰らないと」

「そうですね。彼女から良かったと聞けるよう応援していますね」

「頑張ってくるよ」


 そういった彼は代金を払ってファミレスを足早に出て行った。

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