第33話
「先輩………ごめんなさい。美嘉、頑張ったんですけれど50位以内に入れませんでした。本当に、本当にごめんなさい」
彼女は模試結果を僕に見せて、今にも泣きそうな顔でそう言った。模試の結果は惜しくも72位と言う結果だった。最下位と言っても過言ではなかった彼女の成績を考慮すればたった二週間でここまで上がるのは寝る間も惜しんで勉強をしていた彼女の努力の賜物だろう。
正直ここまで順位が上がるとは思っていなかった。100位以内に入れればいいかななんて軽く思っていたのだがここまで急成長するなんて。彼女の勉強を見ていた僕でも驚いてしまう結果だった。
「十分凄いよ。美嘉は頑張ってたよ。僕はずっと見てたから」
「でも、頑張ってただけじゃダメなんです。50位以内に入らないとご褒美もらえないし。そのために私は頑張ってたのに........」
そう彼女は悲しげに呟いて目に溜めていた涙を流した。僕としては、彼女が頑張っているのを知っていたから、目標を達成しようがしまいが、どちらでもご褒美はあげるつもりだったのだ。
それにしても、僕が作った料理を食べられなくて泣いてしまうほど程僕が作る料理を好いてくれているみたいでとても嬉しい。そんなこと今までなかったから。
僕は泣いている彼女の頬にそっと手を添わせて此方へ向かせる。
「美嘉、実はね。美嘉がずっと頑張ってるの知ってたからもうご褒美は用意しちゃってるんだ。美嘉が大好きって言ってた生姜焼きとか、カレーとかもう作っちゃってる。順位とか関係なく僕は美嘉が頑張ったからご褒美あげたいな」
「.......い、いいの?悟さん。ご褒美もらってもいいの?」
「うん、勿論良いよ」
彼女はパッと顔を明るくして、此方へキラキラとした視線を送ってくる。まるで待ちきれない子犬のようで可愛くて思わず頭を撫でてしまう。
「言ったね?悟さん。私、聞いたから。じゃあ、ご褒美。いただきます」
「.......え?ちょ…んっ」
彼女は僕の頬へと手を添わせて、顔を近づけそっと唇を合わせてきた。最初は軽いキスだったものの、彼女は僕が拒んでいないのを見ると、そのまま舌を僕の口内へ侵入させて口の中を蹂躙してくる。
送られてくる快感をただぼぉっと享受していると彼女は満足したのか、リップ音を立てて口を離した。
「ごちそうさまでした。とっても気持ちよくておいしかったです。勉強頑張ってよかった」
「お粗末様でした?もしかして、美嘉は食べ物よりも.......」
「う、うん。悟さんとキスしたくて勉強頑張ってたんだ。勿論、悟さんが私のために作ってくれた好きな食べ物の為でもあるけれど」
頬をうっすらと染めてそういった美嘉は、恥ずかしがりつつも何処か狩人の目をしていた。このまま襲われてしまうのではないかと感じた僕は、理由をつけてそっと立ち上がりキッチンへと移動する。
彼女とは出来るだけ体の関係に持ち込みたくはなかった。体の関係で繋ぎとめてしまうと彼女の心の平穏を保つのは僕がいなくなった後があまりにも不安だったから。
だが、彼女の様子からしてこれからそういうことをされることも無くはないだろう。そのことも考え、今はいない彼女の父親と彼女の関係を取り持たないととそう思いながら僕はカレーを温めた。
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