第29話
美嘉の後を付けながら歩いていき、それほどの時間もかからず彼女の家に着いた。
「そういえば、悟さんって何歳なんですか?」
「僕は17歳だよ」
そういえば、今僕は私服だから彼女は僕が何歳でどこの高校に通っているのかを知るはずもなかった。
「え!?一個上なんですか?てっきり私、大学生かと思ってた。…どこの高校とか聞いてもいいですか?」
「美嘉と同じ高校」
「え!?そ、そうだったんだ。同じ高校の人だったんだ。........っていうことは、私のこと知ってて声掛けたってことですか?」
「まぁ、噂に聞く程度でほとんど知らなかったよ」
彼女は何とも言えない顔で僕の方へと視線を向けた。
「私って........噂通りだったでしょ?」
「そうだね。でも別にいいんじゃないかな」
「........え?」
僕は彼女が援助交際をしていようとパパ活をしていようと僕が彼女を見る目は変わらない。それよりも........
「美嘉は夜ご飯って食べた?」
「よ、夜ご飯ですか?まだですけれど」
「冷蔵庫に何かある?あ、それとキッチンって使ってもいいかな」
「キッチンですか?使ってもいいですけれど。冷蔵庫の中は、えぇーっと........」
冷蔵庫を開けてみると、卵数個と他はほとんど何もなかった。時間を見ると22時に差し掛かっており、この近くのスーパーの閉店時間は22:30分。走れば、いけるだろう。
「美嘉。お金は明日返すから、二千円だけ貸してくれないかな?」
「に、二千円ですか?別にいいですけれど」
「ありがとう。少し待っててね」
「は、はい」
今日会ったそれもよくわからない人間に二千円を貸すのは嫌だろうけれど、何とか貸してもらい、家から出て近くのスーパーへと行く道で晩御飯のメニューを考えながら走り、閉店間際で何とか買い物を済ませ、それからまた彼女の家へと急いだ。
キッチンを借りて夕食には遅すぎるので夜食を作っていく。幸か不幸か僕は自分で料理をすることが多かったため、料理には慣れているのだ。
とは言ったものの、僕も誰かに料理を作るなんてことしたことはほとんどないため、失敗しない生姜焼きなど簡単なメニューを作っていく。
一時間もしないうちにすべて作り終え、困惑している美嘉に料理を運ぶのを手伝ってもらいテーブルへと並べ終え、手を合わせる。
「いただきます」
「い、いただきます」
相変わらず何が何だか分かっていない彼女だったが、僕が作った料理を口にしてからは、黙々とただ料理を食べていた。僕の気のせいでなければ彼女の寂しそうな眼は少しだけ和らいだように見えた。
そもそもどうして僕がこんなことをしたかといえば、彼女が過去の僕と同じように寂しそうな、つらそうな顔をしていたからだ。だから、僕がしてもらえなかった事、して欲しかった事を彼女にした。ただ、それだけ。
「.......悟さんって、変な人ですよね」
「急にどうしたの?」
「だって、こんなことする人なんていませんでした。それに私を五百円で買おうとする人も」
「それは.........ごめん」
「ふふっ、いいんですよ。面白かったので」
そう言ってまた一口生姜焼きを口に含み、笑みを浮かべた。そこからはお互いが食べ終わるまで喋らず静かな時間が流れたが、自然と気まずいような雰囲気は流れなかった。
食後、彼女はシャワーを浴びたいと言ってきたので、彼女がいない間特に何もすることがない僕はずっと天井を見て、これから美嘉とどう接していくかの方針を考えていたが、だんだんと意識が薄れていく。
ちらりと時計を見るともう0時を回っていた。いつもならもう少しだけ前に寝ていたからそのせいだろう。それに、今日は体育があったのに加えてさっき全速力で走ったため疲れていたのだと思う。
僕の意識は彼女が来る前に暗い所へと降りて行った。
*******************
悟が寝てしまったリビングへと、どこか緊張した面持ちで薄い下着をつけて扉を開けて入ってきたのは美嘉だった。
だが、その緊張は悟が美嘉の気持ちも知らないで寝ている悟の顔を見ると、どこかへと消えていった。
呆れた様子で美嘉は悟へと近づき、自分の部屋から持ってきた毛布をそっと掛ける。
「やっぱり、先輩って変な人ですね」
自分の実りに実った胸と大きくなった尻を見て、そう呟く。
美嘉は何だか自室へと戻って寝るのは嫌になり、悟がいるリビングで別々だが一緒に寝ることにした。
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