第28話
これは美嘉と悟の物語。
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家に居づらいのはいつもの事だが、いつにもまして叔母さんの機嫌が悪かったため僕はほとぼりが冷めるまで外をぶらついていようとそう思い、目的もなく外を歩いていた時のことだ。
もう夜も遅いのに、街灯の下で僕と同じ学校の制服を着た女子高生が、つまらなそうにスマートフォンを弄っていた。そして、彼女の事を僕は噂で耳にしたことがある。後輩であり、名前は美嘉といったような気がする。
彼女の噂と言えば、どちらかと言えば悪い方の噂である。パパ活をしているだとか、誰にでも股を開くだとか、そんな噂。
別にそのままスルーしてどこかに行ってもよかったのだが、彼女はどこか寂しそうに見えた。だからだろうか、僕は彼女に声を掛けた。
「大丈夫?」
そう僕が声を掛けるとスマホから視線を放して、つまらなそうにこういうのだ。
「大丈夫です。何のようですか?」
「いや、何も用はないけれど夜遅くにこんなところにいるなんて大丈夫なのかなって思って」
「それは、どうもありがとうございます。ですが、心配いりません。それとも、あなたが私の事を買ってくれるんですか?」
「買うって?」
いったいどう意味だろうと思い聞き返すと彼女は、溜息をついてどうでもよさそうにまた呟く。
「私の体を買ってくれるのか、っていう話です」
「成程、そういう話だったんだ」
どうやら噂は本当だったようだ。
だが、僕の資金は適当に外でご飯を済ませようとしていたため生憎五百円しかない。相場が分からないため何円が妥当なのだろう。
取り合えず財布を取り出して五百円を差し出してみた。
「これくらいしかないんですけれど」
そう言って差し出された五百円硬貨を見て彼女は………
「ふ、ふふっ、あはは」
と噴出したかのように笑いだしたので、僕は何とも言えない顔できっと彼女の事を見ていただろう。やはり、五百円では彼女の事は買えないようだ。
「ご、五百円って、五百円、ぷふっ........あははっ」
「ご、ごめんなさい」
「........はぁ。面白い人ですね。初めてです、五百円硬貨で私を買おうとしてきた人。いいですよ、五百円で。久しぶりに、笑ったので」
そう言って差し出された五百円を取って、立ち上がった。
「それで、あなたの名前はなんていうんですか?」
「悟っていいます」
「じゃあ、悟さんで。私の事は美嘉って呼んでください。それで、どうしますか?今からすぐにホテルに行きますか?それとも悟さんの家でしますか?」
そうか。こういう場合はホテル代も考えなければいけないのか。初めての事で何も考えていなかった。
「あの………美嘉の家って大丈夫?僕はお金がなくて」
「ぷ、ぷふふ。あはは。い、いいですよ。どうせ父親は家に帰ってきませんから」
そうして、僕は美嘉の家に行くこととなったのだった。
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