第25話
病院を出たのは、日が傾いた後だった。恐らくだが桜は快方へと向かうだろう。病室を出る前に「お兄ちゃんが生きているなら、早く治してこんなところ出ないとね。待っててね、お兄ちゃん」と言われたので、1週間も経たずに彼女は、病院を出てしまいそうだ。
ただ、完全には治っていないだろうから学校や仕事に戻るのには時間がかかるだろう。
鏡花から五分ごとに来るメッセージを捌きながら、今後のことを考える。桜の情緒は未だ不安定なところはあるもののある程度の形は保てていると言えるだろう。長期的な治療は必要になるが、いつかは完全な回復へと向かうと考えたい。
残りは、三人。
美嘉、美玲、可憐。
この三人の中で一番まずいだろうと思われるのは、美嘉だろう。桜であれほど心がグシャグシャになっていたのだから、美嘉のことを考えると桜よりも精神状態は酷いだろうと考えられる。
本当は桜よりも早く行くべきだろうと思ったものの、桜が入院しているとは思わなかったため、美嘉のことを遅らせてしまった。このことが裏目に出なければ良いのだけれど。
電車に乗り、鏡花の家へと戻り約束をしっかりと果たした頃には、もう一時を超えていた。ベッドへと入り明日のことを考え眠りにつく。
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「おはよう、鏡花」
「うん、おはよう悟。良い朝だね」
「そうだね、良い朝だね。それで聞きたいことがあるんだけれど、昨日一緒に寝た記憶がないんだけれど」
「あぁ。それは悟が寝た後に私がベッドに入ったからだね」
「…そっか」
「だって、仕方がないじゃない。私だって寂しかったんだよ?だって悟が他の女にかまけてい間は、一人なの。学校に行くことでさえ辛いのに悟が家を出るなんて私の精神衛生上かなり悪いんだから、こうなっちゃうのも仕方ないと思うんだけれど?」
「…ごめんね。けど、僕がやらなきゃいけないことだから」
「いいよ。将来のことを考えるのなら夫の浮気くらい許すくらいの甲斐性がなければいけないから。でも、本当に浮気した時は、ね?」
「…あはは」
冷汗が背中を伝い、 乾いた笑いが零れる。鏡花の目を見ると本当に何でもしてしまいそうで冗談に聞こえない。彼女のことだから本当にするのだろう。
鏡花と少しだけ話をした後、朝食を食べその後また電車を乗り継ぎ彼女たちが住んでいる街へと戻ってきた。
正直、桜にあった今でも彼女たちに会うのは躊躇われる。桜や鏡花、祥子を見るに僕は彼女たちの人生に関わりすぎてしまった。これ以上かかわらないほうが良いのではないだろうかという気持ちも湧くが、それは彼女たちから目を背けていることに他ならない。
駅から数十分歩き、彼女の家までついてしまった。
桜であれ程心がすれてしまっていたのだ。美嘉はどうなってしまっているのだろう。だが、もしかしたら彼女は引きこもっているだけなのかもしれない。健康で生きているのかもしれない。
.............そんな軽い考えは彼女の部屋に入った瞬間消え失せた。何もかも認識が甘すぎたのだ。
カーテンから差し込む日差しによって見られたのは壁中に書かれた、又は彫られている悟君という文字とぐしゃぐしゃになった部屋。ツンとした刺激臭が漂っており、枕が何かに刺されたようにボロボロになって中から羽毛が飛び出ていた。
そして、部屋の隅で蹲って幽鬼のようになっている美嘉を発見した。
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