第24話
そうして、場所は病室へと戻る。
「あの時から結構時間が経ったね。その間、ずっとお兄ちゃんは私のお兄ちゃんで仕事とかでつらい私をずっと慰めて愚痴を聞いてくれて頭を撫でてくれた」
「うん。桜は頑張り屋さんだからね」
「私は私で居られるのはお兄ちゃんの前だけっていうのが改めて分かったの。お兄ちゃんがお母さんを説得してくれたけれど、やっぱりお兄ちゃんだけは特別で家族よりも大事になっていたの。お兄ちゃんがいなくなってから改めて気付いたの」
瘦せてしまったか細い手で僕の手をギュッと抱きしめる。
「私ね…多分、次にお兄ちゃんがいなくなったらもう無理だと思う。というか、お兄ちゃんが今日ここに来てくれていなかったら多分いつか死んじゃってた」
「....ごめんね」
「いいの。お兄ちゃんはまた戻ってきてくれたから。ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
桜は目を合わせて曇った瞳でこちらを見つめる。
「お兄ちゃん、私ね。あの時から.....お兄ちゃんが私のことを妹見たいって言った時から私はお兄ちゃんのことが好きだったのかも」
「....」
「今はね…お兄ちゃん以外が要らないくらい大好き。お兄ちゃんが死んじゃったら私も死ぬくらい大好き。お兄ちゃんが生きてくれてるだけでいい。お兄ちゃんのことを愛してる」
ギュッと抱きしめてきて、そっと啄むようなキスをされた。頬は真っ赤になりながらも精いっぱい思いを伝えようと必死に貪るようなキスをされる。それ僕は黙って答えるしかない。受け入れることしかできない。
数分の間ずっとそうしていたが、彼女はやっと口を離してじぃっと見つめてきた。
「お兄ちゃんは私のこと、好き?お兄ちゃんと私は兄弟だけどほんとの兄弟じゃないから結婚もこうやってキスだってできちゃうの」
「......」
「私ね、恋なんて私がするわけないって思ってた。漫画とか小説の中でキャラクターが恋をする場面があって、その程度のことで好きになるわけないじゃんって馬鹿にしてた。でも......こんなに私のこと考えて、一生懸命問題を解決してくれた人のことを好きにならないわけがないって気づいたの。意外と私ってチョロいんだね」
桜は自嘲気味にそう笑った。
「ねぇ、お兄ちゃん。私のこと好き?」
「....うん、好きだよ」
「妹として?それとも異性として?」
「それは」
勿論、異性として。と口から出そうになって辞めた。ここでそう言ってしまったらもう後には引けなくなってしまう。彼女の思いを踏みつけて無下にする行為だった。
「分かってるよ。お兄ちゃんは優しいからね。お兄ちゃんがなんて言おうとしてたかなんて分かるよ。きっと私もそのことを分かってて、一緒に溺れたと思う。でもそれだと駄目なんだよね。それは私の我儘だもん。お兄ちゃんにこれ以上迷惑かけられないよ。それに....お兄ちゃんには私以外にも女がいるもんねぇー」
「....ごめんね」
「いいの。私はお兄ちゃんがお兄ちゃんでさえあればなんでもいいの。だけど、あんまりにもお兄ちゃんのことを独占しすぎたら殺しちゃうけれど。それでね....お兄ちゃん。これだけは覚えておいてくれるといいな」
彼女は一層目を澱ませて、先ほどとは比較にならない程低い、ドロドロとした思いを乗せて言葉を吐いた。
「お兄ちゃんがもし、次にいなくなったり死んじゃったら私、どこまでも追いかけるからね。覚悟してね、お兄ちゃん?」
ニコニコと花が咲くようにそう言った彼女に僕はなんて答えたらいいのだろうか。
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