第20話

「でさ、あのクラスメイトのキモオタクがジロジロこっちを見ててほんと最悪でさ。どうやったらあんな気持ち悪い視線送れるんだろうね。キモすぎて吐きそうだったんだけれど。役者になってストーカー役でもやればいいのに」


 桜さんと出会って一週間ほど経った。週に一度と入ったものの不安だったようで次の日には仕事が忙しい中、学校に来て態々確認しに来た。それから何度か彼女と会っており今日で五日目くらいか。


 場所は誰もいない屋上。本来立ち入り禁止になっているが、台本とか演技の練習をしたいからと言って彼女のファンを誑かして鍵を入手させたらしい。その代わりに目の前で彼女が声を当てているキャラを生で聞かせたらしいが。


 僕も彼女とこれからいることが多くなるだろうから事前にどんな仕事をしているのかある程度把握するためにアニメなどを見たがかなりの演技派のようでまるでキャラが実在しているのではないかと錯覚するほど真に迫る演技だった。流石人気声優である。


「どうしたの?なんか考え事?変な顔してるけど」

「大丈夫なんですか?」

「何が?」

「僕の前ではそんな風にしてますけれど」

「隠した所で今更じゃない?」

「それもそうですね。あと、態々直接会う意味なくないですか?事務所を通して僕を脅せばいいのでは」

「....事務所の人には頼りたくない。直接会うのは前にも言ったけれどスマホチェックと先輩は私のファンですから直接会って恩を売って先輩の忠誠度を上げた方が良いかと思いまして」

「そうですか」


 確かにアイドルを推している人は握手会とか行くから推しに会うのはとても嬉しいことなのだろう。


 僕にはいたことがなかったから、そういう感覚があんまり分からなかった。彼女に不信感を持たれなければいいのだが。


「それと、私の愚痴を話せるのは偶然聞いてしまった先輩くらいですから。特別ですよ、良かったですね。推しの特別になれて」

「そうですね、嬉しいです」

「....そういうところなんですよねー。先輩って本当に私のファンなんですか?なんか、軽いというか嬉しくなさそうというかどうでも良さそうとか」

「そんなことないよ。ただ、推しの前で緊張してるだけ」


 危ない。思った側から不信感を持たれていた。もっとオタクというものに着いて勉強しておけばよかった。推しの目の前であれば狂喜乱舞したほうが良いのだろうか。

彼女の愚痴から察するに、そういうことを嫌う傾向があるのでしてはいなかったけれど。


「まぁ、何でもいいです。私としても今の先輩の方が扱いやすくて良いですからね。辺にオタクっ気出されて興奮されて襲われでもしたら嫌ですし」

「大丈夫、そういうことはしないから」

「そうですね。先輩はそう言う事に興味なさそうですもん。まぁ、隠してるだけかもしれないですから、信頼何てしませんけれど」


 彼女は笑顔でそう言うので思わず、僕も苦笑してしまう。


「…へぇ、先輩ってそんな風に笑うんですね。初めて見ました。なんか、ヘタクソですね。作り物と無理して笑ってるというか、なんというか」

「そうかな」

「演技指導してあげましょうか」

「いいよ。昔からこうだからきっと治らない」


 彼女に鋭い指摘をされて思わず息を飲んでしまうが、努めて何でもない様に返す。それに本当に演技指導されたところでこれは治らないだろうから。この先もずっと。僕が本当に笑う日はない。


「そうですか。まぁ、別に私としては困らないので良いですけれど」

「うん。あんまり気にしないで」


 僕の返答を聞いてどうでも良さそうに「そうですか」といった彼女はまた愚痴をはなし始めた。


 

 

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