第19話
これは、桜と悟が出合い桜が堕ちてゆく物語である。
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「先生のお手伝いをしているものの、これは救ったと言えるのだろうか?まぁ...........良いか。少しずつ偽善でも積んでいけばいつしか善になるだろう」
放課後、先生に頼まれて資料室へと荷物を運ぶ手伝いをし終えたところだ。
一緒に帰ろうと美鈴には言われたが、先生の方が頼まれごとをするのが早かったため仕方がない。悪いことしちゃったな。明日会ったときに謝って一緒に帰ることを伝えるか。
いや、きっと美鈴の事だから今日の夜にでも電話してくるだろう。その時に伝えることにするか。
特別棟の廊下からの日差しも細くなっており、日がかなり傾いている。
さっさと帰ろうとそう思いながら廊下を歩いていると、
「あぁ...........イライラするッ!!」
ガシャンとかなり大きな椅子を蹴り上げるような音が空き教室から聞こえる。何かと思いゆっくりと近づきバレないよう様子を窺うようにそっとドアから覗いてみると、下級生がいた。それも、学校、そして学校外でも有名な木下桜さんだった。
どうやら声優をしているようで、かなりの有名人らしい。学校内にもかなりの数のファンがおり、ファンクラブもできているのだとか。
いつもニコニコとしていて、怒った所は誰も見たことないだとか、誰にでも親切にする聖人君子だとか、彼女の悪い噂は聞いたことがなく良い噂しか聞かない彼女が、教室の机を蹴り上げ、怒りを露わにしている。
「何が桜たんは可愛いね、だ。気持ち悪い笑み浮かべてつば飛ばしながらしゃべってんじゃねぇよクソオタク。ほんっと気持ち悪い。それに、あの音声監督もしつこいんだよ。何回も連絡先を聞いてくんじゃねえよ。マネージャーも使えないし。ほんと最悪」
「あのくそ教師も早く死んでくれないかな。私の胸とか尻ばっかじろじろ見て。マジでキモイんだけれど。それにあのくそ親も最悪。私が有名人になったからってあたかも自分まで有名人を気取りやがって、ほんっと最悪」
「全員死ねばいいのに」
彼女から吐き出されるキツイ罵倒。冷徹な声から関わっている人すべてを切り裂いてしまうのではないかと思えてしまう。
...........これをずっと見ているのは流石に悪趣味だな。
僕はそう思い、静かに立ってそこから離れようとしたが古い校舎なこともあって床が軋んでしまう。
「誰!?」
まずいと思ったのも束の間、彼女はこちらに走ってきて僕がいることがバレてしまう。
「あ、あなたは?」
「二年の悟っていいます」
「悟先輩...........こ、こんなところで何を?」
「先生に頼まれて資料室に資料を運び終わって、帰る途中でした」
「..................そうですか。それで…見ました?」
「あ、えっと…」
「嘘はつかなくていいです。その感じだと見たんですね?」
「...........はい」
再度彼女は大きく溜息を吐き、舌打ちをする。
「今更、次のお仕事でさっきみたいな役をするんだとか誤魔化しても意味なさそうだし。どうしよ、今叫んでこいつの事を性犯罪者に仕立てる?でもそれだと自爆特攻でさっきの事を言われて道連れにされるかもだし。それとも...........」
彼女は恐ろしいことを平気でブツブツと繰り返す。
まだ全然目標を成し遂げられていないのに、牢屋に行くのは勘弁だ。
「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」
「...........はぁ。私がそんな言葉を信用できると思いますか?今日会ったばかりのあなたの言葉を信用できるほど私は聖人ではありません。どうしようかな」
彼女は散々悩んだ結果、一つの結論にたどり着いた。
「そうだ、悟先輩。悟先輩って、私のファンだったりしますか?」
そう聞かれ、別にファンではないと言おうとしたが数舜考えた結果、彼女を救う方向へと舵を切ることにした。
「実は、そうなんですよね」
「それならよかった。それじゃあ、これから私の話し相手になってくれませんか?」
「話し相手?」
「そうです。話し相手です。勿論、監視も兼ねてますけれど。先輩は推しの私と喋ることが出来て嬉しい。私は、先輩の事を監視できる。winwinな関係です」
話を聞くと、週に一度先ほどの事を誰かに話していないかなど事細かにスマホなどをチェックするため会うことになるようだ。
「それじゃあ、これからよろしくお願いしますね。悟先輩?」
「わ、分かりました」
彼女の邪悪な笑みに僕は首を縦に振るしかなかった。
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